植物性の「チーズ風」「肉風」食品を作るとき、土台となるのがタンパク質からできる『ゲル(固まった網目構造)』です。エンドウ豆やソラマメ、大豆から取り出したタンパク質は、動物性タンパク質に比べて水に溶けにくく、構造が硬い塊状のまま存在しているため、しっかりとした均一なゲルを作りにくいという課題があります。デンマークのコペンハーゲン大学食品科学科の研究者らは、この課題に対して2種類の酵素と乳酸菌発酵を組み合わせる方法を検証し、フード・アンド・バイオプロセス・テクノロジー誌に2026年08月に掲載予定の論文として報告しました。
何を、どう調べたのか
研究では、エンドウ豆タンパク質分離物(PPI、原料はPisum sativum)、ソラマメタンパク質分離物(FPI)、大豆タンパク質分離物(SPI)の3種類を対象にしました。いずれも市販品(純度88〜92%)が使われています。これらのタンパク質に対し、まず『プロテイングルタミナーゼ(PG)』という酵素を作用させました。PGはタンパク質中のグルタミン残基をグルタミン酸に変える『脱アミド化』という反応を起こす酵素で、細菌由来(Chryseobacterium proteolyticumなど)の食品加工用酵素として知られています。PG処理は8%濃度のタンパク質懸濁液を90℃で加熱した後、50℃でPGを酵素活性5U/gタンパク質の条件で1〜2時間反応させる方法で行われました。続いて、この脱アミド化処理をしたタンパク質を使い、なたね油を加えた乳化液(エマルション)を作製し、Vega™ Harmonyという乳酸菌スターター(Lactobacillus bulgaricus、Streptococcus thermophilus、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus acidophilus、Bifidobacteriumを含む)で43℃・20時間発酵させてゲルを作りました。発酵の際には、タンパク質同士を化学的に架橋する酵素『トランスグルタミナーゼ(TG)』を添加する条件としない条件を比較しています。できあがったゲルは、専用の機器で硬さ(貫入試験)や粘弾性、水分量、顕微鏡による内部構造などを調べました。
わかったこと
PG処理によって、3種類のタンパク質いずれにも12〜16%の脱アミド化が起きたことが確認されました。ただし、この処理で水への溶けやすさ(溶解度)が上がったのは大豆タンパク質(SPIで80%から91%に上昇)だけで、エンドウ豆・ソラマメタンパク質では目立った変化はありませんでした。また、タンパク質表面の電気的な性質を示す『ゼータ電位』も、脱アミド化が起きたにもかかわらずほぼ変化しなかったと報告されています。研究者らは、もともとこれらのタンパク質がpH7.0ですでに強い負の電荷を帯びていたため、脱アミド化による追加の変化が検出されにくかった可能性を挙げています。次に、乳酸菌による発酵だけでもすべてのタンパク質でゲルの形成が進み、硬さは46〜102gの範囲になりました。これは主に発酵に伴う酸性化(pH低下)がタンパク質同士の結合を促したためと考えられています。さらにTGを発酵中に加えると、すべてのタンパク質でゲルの硬さが128〜402gへと大きく増加し、特に大豆タンパク質で最も強い効果が見られました。一方、PGによる脱アミド化だけを行った場合はゲルの硬さ自体には影響がありませんでしたが、TGと組み合わせたときの効果はタンパク質の種類によって異なりました。大豆タンパク質では、PG処理をするとTG添加時の硬さがやや下がり(402gから303g程度)、これは可溶性タンパク質の増加や保水性の変化が関係している可能性があるとされています。ソラマメタンパク質では変化がなく、エンドウ豆タンパク質ではむしろわずかに硬さが増す(176g程度)という、タンパク質ごとに異なる反応が確認されました。
この研究を読むうえでの注意
この研究は、市販のタンパク質分離物という限られた原料を使った実験室レベルの検討であり、実際の製品化された植物性チーズや肉代替食品でそのまま同じ結果が得られるとは限りません。著者らも、脱アミド化の程度を計算する際の基準(酸による完全脱アミド化の測定法)の性質上、実際の脱アミド化の度合いを過小評価している可能性があると述べています。また、原料となる市販タンパク質分離物が製造段階ですでに何らかの処理を受けていた可能性を否定できない点や、食物繊維や微量のポリフェノールなど、タンパク質以外の微量成分の影響は今回の検討対象外だった点も限界として挙げられています。ゲルの硬さや構造への効果はタンパク質の種類によって異なっており、一つの酵素処理の組み合わせがすべての植物性タンパク質に同じように効くわけではないことも示されました。
まとめ
今回の研究では、乳酸菌発酵によるゲル形成に、タンパク質を架橋するトランスグルタミナーゼを組み合わせるとゲルの硬さが大きく高まる一方、脱アミド化を行うプロテイングルタミナーゼの効果はタンパク質の種類ごとに異なり、特に大豆タンパク質ではむしろ硬さを抑える方向に働く場合があることが示されました。植物性の代替チーズや代替肉の食感づくりにおいて、原料となる豆の種類に応じた酵素処理の使い分けが重要になりうることを示唆する結果ですが、あくまで一つの研究であり、実用化に向けてはさらなる検証が必要です。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ashwitha Poojary, Ourania Gouseti, Poul Erik Jensen. Comparative Effects of Protein Glutaminase and Transglutaminase on Fermentation-Induced Gelation of Pea, Faba Bean, and Soy Protein Isolates. フード・アンド・バイオプロセス・テクノロジー (2026). DOI: 10.1007/s11947-026-04510-y. 原著ライセンス: cc-by.