かまぼこやソーセージのような練り製品は、加熱によって筋肉のタンパク質どうしが絡み合い、網目状の構造(ゲル)を作ることで独特の弾力と保水性が生まれます。この網目づくりがうまくいかないと、水分が抜けてパサついたり、逆にゲルが弱く崩れやすくなったりします。今回紹介する研究は、タラの筋原線維タンパク質(筋肉を構成するタンパク質の一種)に、卵白タンパク質(EWP)と乳由来のホエイタンパク質分離物(WPI)という2種類の外来タンパク質を加えたときに、加熱時のタンパク質の凝集や、できあがるゲルの性質がどう変わるのかを調べたものです。
著者らは中国の北京食品科学工業大学(老年栄養健康重点実験室)、西蔵自治区農牧科学院、中国農業大学に所属する研究者らです。
加熱中に何が起きているのか
研究チームは、タラの筋原線維タンパク質に卵白タンパク質またはホエイタンパク質を異なる比率で混ぜ、加熱していく過程での変化を追跡しました。その結果、タンパク質の溶解性や表面疎水性(タンパク質が水を避けて互いにくっつきやすくなる性質の指標)は外来タンパク質の添加によって高まり、逆に濁度や総スルフヒドリル基量(タンパク質どうしが結合する際に関わる化学基の量)は低下することが確かめられました。さらに、この加熱過程は一様に進むのではなく、最初の急速な変化(0〜30分)、その後の比較的緩やかな移行期(30〜60分)、そして再び急速に進む段階(70〜90分)を経て平衡状態に達するという、3段階のパターンをたどることが示されました。
卵白とホエイでは効き方が異なる
動的粘弾性測定(ゲルの硬さや弾力の指標である貯蔵弾性率G′を測る手法)では、卵白タンパク質は中程度の濃度でG′を高める一方、濃度をさらに上げるとかえって低下させることが分かりました。これに対しホエイタンパク質は、濃度が増えるほどG′が段階的に低下する傾向を示しました。ゲルの物性を詳しく調べた結果、筋原線維タンパク質と卵白タンパク質を2対14の比率で混ぜた条件(論文中でEWP-Mと呼ばれる区分)が最も高いゲル強度を示した一方、筋原線維タンパク質とホエイタンパク質を1対15で混ぜた条件(WPI-L)は、加熱調理による重量減少(クッキングロス)が最も少なく、保水力が最も高いという結果になりました。ホエイタンパク質を含む系はゲル強度こそやや低めでしたが、保水性に優れ、内部構造も均一である傾向が見られました。特に興味深い点として、卵白タンパク質とホエイタンパク質を1対1で組み合わせた場合には、ネットワークの溶解性・疎水性の露出・構造の均一性において相乗的な効果が見られ、高いゲル強度と最小限のクッキングロス、そして最大の保水力を同時に達成したと報告されています。これらの結果から著者らは、卵白タンパク質は主にゲルの骨格を強化して硬さを高める役割を、ホエイタンパク質は隙間を埋めて水分保持を助け構造のばらつきを減らす役割を担っていると考察しています。
この研究をどう読むか
この研究は、タラという特定の魚種の筋原線維タンパク質と、卵白タンパク質・ホエイタンパク質という特定の添加物との組み合わせについて、実験室的な条件下で調べた一つの研究です。異なる魚種や、異なる濃度・加熱条件、あるいは実際の食品加工工程においても同じ傾向が得られるかどうかは、この要旨の範囲だけでは断定できません。ゲル強度や保水力の向上がそのまま製品としてのおいしさや品質全般の向上を意味するとも限らない点にも留意が必要です。
まとめ
この研究では、卵白タンパク質とホエイタンパク質という食品加工でよく使われる2つのタンパク質素材が、タラのすり身のゲル形成過程や最終的な物性にそれぞれ異なる形で影響することが示唆されました。卵白タンパク質は構造を強化する方向に、ホエイタンパク質は水分保持を高める方向に働き、両者を組み合わせることで両方の利点を引き出せる可能性があるとされています。今後、水産練り製品の食感や品質を科学的にコントロールしていくうえで、こうした複合タンパク質系の設計は一つの手がかりになりそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Safia Aslam, Jinjin Xing, Hui Tao, et al. Modulation of Cod Myofibrillar Protein Gels by Egg White and Whey Proteins: From Aggregation Kinetics to Gel Mechanics. ジャーナル・オブ・テクスチャー・スタディーズ (2026). DOI: 10.1111/jtxs.70106.