食事の内容が心の健康と関係しているのではないか、という視点は近年注目されています。しかし、どのような食事パターンが新たに自傷念慮(自分を傷つけたいという考え)が生じることと関連するのかについて、時間を追って調べた研究はまだ十分ではありませんでした。今回紹介するのは、中国山東省の済寧市・鄒城市・濰坊市にある立ち退き移転住民コミュニティに暮らす7480人を対象に、食事パターンと新規発症の自傷念慮との前向きな関連を検討した論文です。
研究でわかったこと
この研究では、2021年から2023年にかけて、ベースライン(開始時点)と1年後の追跡調査という2回の時点のデータが用いられました。食事パターンは、食物摂取頻度調査票(どの食品をどれくらいの頻度で食べているかを尋ねる質問票)のデータをもとに、主成分分析という統計手法を使って導き出されました。自傷念慮の新規発症については、うつ症状を評価する質問票であるPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)の9番目の項目を用いて評価されました。
対象者のうち193人(2.58%)が、追跡調査で新たに自傷念慮を報告しました。さまざまな要因を調整した多変量解析の結果、畜産・家禽・魚介類を中心とした食事パターンは、自傷念慮の新規発症と有意な逆相関(このパターンへの適合度が高いほどリスクが低い傾向)を示しました。具体的には、このパターンの得点が最も低い群(Q1)と比べて3番目に高い群(Q3)でオッズ比が0.67(95%信頼区間:0.45〜0.97)でした。ただし、パターンの得点を連続的な数値として扱った解析では、統計的に有意な関連は見られませんでした(オッズ比0.92、95%信頼区間0.79〜1.06、p=0.239)。
性別、年齢、体格(過体重かどうか)、栄養補助食品の使用の有無で分けたサブグループ解析では、男性、高齢者、過体重の人、栄養補助食品を使用していない人で、より強い逆相関の傾向が見られました。しかし、いずれの交互作用のp値も0.05を超えており、これらのサブグループ間の差が統計的に確認されたわけではないとされています。また、ベースライン時点でうつ症状や不安症状があった人を除外した解析や、共変量(解析に用いた他の要因)に欠損のあった人を除外した感度分析でも、この逆相関は統計的に安定して見られたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで観察に基づくコホート研究であり、食事パターンと自傷念慮の新規発症との間に「関連」が見られたことを示すものであって、因果関係を証明するものではありません。著者らも、畜産・家禽・魚介類を中心とした食事パターンへの適合度が高いことと自傷念慮の新規発症の低さとの間には「緩やかな逆相関」が見られたと述べるにとどめています。また、サブグループ解析で見られた差も統計的に確認されたものではないとされている点には注意が必要です。この研究は中国山東省の特定のコミュニティを対象としたものであり、対象者の背景も踏まえて結果を読む必要があります。
まとめ
今回紹介した研究では、畜産・家禽・魚介類を中心とした食事パターンへの適合度が高いことが、自傷念慮の新規発症のリスクの低さと緩やかに関連している可能性が示唆されました。ただし、これは一つの観察研究の結果であり、結論が確定したわけではありません。食事と心の健康の関係については、今後もさらなる研究が必要とされています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食事パターンと新規発症自傷念慮との関連に関する縦断的分析(ニュートリエンツ・2026年08月)