大腸がんは一般に高齢者に多いがんとされてきましたが、近年、50歳未満で診断される『早発性大腸がん(EOCRC)』が、先進国と南アジアの両方で年あたり約1.5〜2.0%のペースで増加していると報告されています。この背景には食生活の変化や生活習慣の変化があるのではないかと考えられていますが、超加工食品の摂取、抗生物質の使用歴、体内の炎症という3つの要因が、資源の限られた医療環境において独立に、あるいは組み合わさってどう関わるのかは、これまで十分に調べられていませんでした。
今回紹介する研究は、パキスタン・クエッタにあるBolan Medical Complex/Sandeman Provincial Hospitalで、2018年から2026年にかけて実施されたマッチドケースコントロール研究です。18〜49歳で大腸腺がん(組織学的に確認されたICD-10分類のC18〜C20)と診断された患者174人を『ケース』とし、年齢(±2歳)、性別、人種・民族、BMI区分、診断年を一致させたケース1人あたり2人の対照者、計348人を『コントロール』として比較しました。
研究でわかったこと
超加工食品の摂取量は、NOVA分類を応用した28項目の食物摂取頻度調査票(検証済み)を用いて測定されました。抗生物質の使用歴は薬局のデータベースから、hsCRP(高感度CRP)、赤血球沈降速度(ESR)、便中カルプロテクチンといった炎症マーカーは電子カルテから取得され、条件付きロジスティック回帰分析によって調整済みオッズ比が算出されました。またSTROBE声明(観察研究の報告に関する国際的な指針)に沿って報告されています。
その結果、超加工食品の摂取量が最も多い群(上位三分位、1日あたり9.8食分以上)は、早発性大腸がんのオッズが独立して65%高いという関連が見られました(調整オッズ比1.65、95%信頼区間1.21〜2.26)。また、生涯で抗生物質を3コース以上使用した人では、オッズが47%高いという関連も見られました(調整オッズ比1.47、95%信頼区間1.09〜1.99)。
さらに、超加工食品の摂取が多く、かつ抗生物質使用歴が3コース以上という両方の条件が重なった場合には、統計学的に有意な相乗的な関連(交互作用)が見られ、組み合わさったオッズ比は2.98(交互作用オッズ比1.89、p=0.031)に達しました。加えて、媒介分析(ある要因が結果に影響する経路を数値化する統計手法)により、超加工食食品摂取と早発性大腸がんの関連のうち24.3%(95%信頼区間12.1〜38.6%)が、hsCRPの上昇、すなわち全身性の炎症を介して説明されると推定されました。
腫瘍の部位別に見ると、関連は肛門に近い遠位・直腸のがん(調整オッズ比1.82)で、口側に近い近位のがん(調整オッズ比1.31)よりも強く、この差は統計学的にも有意でした(p-heterogeneity=0.042)。また、社会経済的地位(SES)が最も低い四分位群では関連がより強く見られました(調整オッズ比2.04)。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、パキスタンの資源の限られた地域密着型の医療システムという特定の環境で行われた、後ろ向き(過去にさかのぼった)のマッチドケースコントロール研究です。食物摂取頻度調査票や薬局データベース、電子カルテといった既存の記録を用いた観察研究であるため、超加工食品の摂取や抗生物質の使用が早発性大腸がんの『原因』であると直接証明するものではなく、あくまで統計的な関連が示されたことに留まります。また、対象は特定の地域の医療機関を受診した患者に限られており、他の地域や医療体制の異なる集団にそのまま当てはまるとは限りません。著者らは、これらの結果が食事指導や抗生物質の適正使用(アンチバイオティック・スチュワードシップ)、若年の南アジア系成人に対するリスクに応じたスクリーニングといった、対応可能な標的を示すものだとしています。
まとめ
この研究では、超加工食品の摂取量が多いことと、抗生物質の使用歴が積み重なっていることが、それぞれ独立して、また組み合わさることで、50歳未満で発症する大腸がんのオッズの高さと関連していることが示されました。さらに、この関連の一部は全身性の炎症を介して説明される可能性が示唆されています。ただし、これは一つの観察研究の結果であり、因果関係を確定するものではありません。食生活や抗生物質の使用について不安がある場合は、自己判断で結論づけず、医療専門家に相談することをおすすめします。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:超加工食品摂取、累積抗生物質曝露、および腸管炎症マーカーと早発性大腸がんのリスク因子:資源制約下の地域密着型医療システムにおけるマッチドケースコントロール研究(パキスタン消化器病学ジャーナル・2026年08月)