この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と対象となる病気

ブドウ糖輸送体1欠損症(GLUT1欠損症)は、脳へブドウ糖を運ぶGlut1というタンパク質のはたらきが不足するために起こる、生まれつきの代謝の病気です。このタンパク質はSLC2A1という遺伝子から作られます。論文によれば、乳児期に始まるてんかん発作、発作性に現れる運動の障害、精神運動発達の遅れが特徴的な症状として挙げられ、症状の現れ方や重さには個人差が大きいとされています。

この病気に対しては、脂質を多く・炭水化物を少なくした食事療法であるケトン食療法が用いられます。ブドウ糖の代わりにケトン体を脳の燃料として供給するという考え方に基づくもので、著者らはこれを単なる「食事」ではなく治療手段として位置づけています。著者らは、中国国内でも症例報告や多施設研究は出てきているものの、ケトン食を始める時期が遅れがちで、効果と安全性を継続的に追った体系的なデータが不足していると述べています。そこで本研究は、自施設の患者の臨床的な特徴をまとめ、ケトン食療法の効果と安全性を評価することを目的としています。

何をどのように調べたか

著者らは、2015年3月から2024年5月までに上海徳済医院で診断・治療を受けたGLUT1欠損症の小児56人について、診療記録をあとからさかのぼって集める後方視的な方法で分析しました。診断は、臨床症状、髄液(脳や脊髄の周囲を満たす液)中のブドウ糖の値、遺伝子検査の結果という3つの柱に基づく国際的な診断基準に沿って確認されています。

調べた項目は、最初に現れた症状、主な臨床症状、髄液の性状、遺伝子検査の結果に加えて、ケトン食療法の種類、開始のタイミング、効果が現れるまでの期間、効果の持続、副作用です。治療は一人ひとりに合わせて組まれ、主に用いられたのは古典的ケトン食で、年齢や耐えられる程度に応じて修正アトキンス食などが選ばれました。効果は開始から1か月、3か月、6か月、12か月、24か月の時点で評価され、発作については完全に発作がなくなった状態から効果の乏しい状態までを4段階に分けるエンジェル分類が用いられています。なお著者らは、対象人数が少なく効果のなかった人がごく少数だったため、分析は記述的なものにとどめ、多変量解析は行っていないと明記しています。

報告された主な結果

発症年齢の中央値は6.0か月、診断が確定した年齢の中央値は32.5か月でした。最初の症状としては、てんかん発作が69.6%で最も多く、運動の障害が17.9%、発達の遅れが12.5%と続きました。髄液検査を受けた患者では、髄液中ブドウ糖の平均が1.80±0.33 mmol/L、髄液と血液のブドウ糖の比が0.39±0.07でした。遺伝子検査では全員にSLC2A1の変異が確認され、そのほとんど(98.2%)は両親から受け継いだものではなく新たに生じた変異でした。

ケトン食の効果が現れるまでの期間は中央値で2週間でした。開始前に発作があった患者を対象とした発作の抑制率は、1か月で83.3%、3か月で95.2%、6か月で97.6%、12か月で90.0%、24か月で85.7%と報告されています。発作性の運動障害があった患者は全員が改善し、そのうち67.6%では症状が完全になくなりました。言語や認知のはたらきについては、56人中22人(39.3%)の家族が、発達が同年代の子どもと同じ水準に達したと報告しています。ただし著者らは、この言語・認知の評価は標準化された検査尺度ではなく保護者の報告に基づくものであり、客観的に測定された結果としてではなく保護者報告の成果として解釈すべきだと述べています。

副作用として最も多かったのは吐き気や下痢、便秘、腹痛といった軽い消化器の症状で、発生は開始1か月目に最も多く(56人中13人)、その後は時間とともに減っていきました。持続する低血糖や代謝性アシドーシス、肝機能の障害、電解質の異常、尿路結石といった重い合併症は観察されず、耐えられないという理由で治療を中止したのは1人だけでした。一方で、脳波が正常化した割合は3か月・6か月の時点では半数前後だったのに対し、24か月時点では13人中1人にとどまっています。著者らはこれについて、症状が安定した子どもは脳波検査を繰り返さない傾向があるため、人数が少なくなったことや選ばれ方の偏りが影響している可能性を挙げ、確定的な解釈を避けています。

この研究が示すこと

著者らは、この研究の結果がGLUT1欠損症に対するケトン食療法の有効性と、短期的には許容できる安全性を支持するものだと結論づけています。発作の抑制、運動機能、そして保護者が報告した言語・認知の面での改善が、いずれもケトン食と関連していたとされています。

同時に著者らは、後方視的な研究であるために選択や情報の偏りを受けやすいこと、一部の患者では追跡期間が短いこと、24か月を超える長期の安全性は今回のデータからは判断できないことを限界として挙げています。その上で、診断が確定した年齢の中央値が32.5か月であった一方で効果が現れるまでは中央値2週間だったという対比は、早期の診断と速やかな治療開始を重視する現在の推奨の意味を、あらためて浮かび上がらせるものだといえます。

著者:Man Wang(School of Public Health, Capital Medical University)、Li Liu(Shanghai Children’s Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)、Li Shang(Shanghai Deji Hospital, Qingdao University)、Dandan Huang(Shanghai Deji Hospital, Qingdao University)、Qin Li(Shanghai Deji Hospital, Qingdao University)、Hui Guo(Shanghai Deji Hospital, Qingdao University)、Yingyan Wang(Shanghai Children’s Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)、余焕玲(School of Public Health, Capital Medical University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Man Wang, Li Liu, Li Shang, et al. Efficacy and safety evaluation of ketogenic diet therapy in patients with glucose transporter type 1 deficiency syndrome. Frontiers in Nutrition 2026-09-17. DOI: 10.3389/fnut.2026.1920521. 原著ライセンス:CC BY.