この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Food Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
パンをオーブンで焼くとき、熱は伝導・対流・放射によって生地に伝わり、同時に水分が中心部から表面へと移動します。一般的なオーブンでは表面が中心部より速く温まるため、製品内部の温度が均一になりにくく、長時間の加熱は表面の過度な乾燥や焦げ色の進行、さらにヒドロキシメチルフルフラール(HMF)やアクリルアミドといった加熱由来の化合物の生成につながることが知られています。
そこで注目されているのが「エアジェット衝突加熱」と呼ばれる方式です。ノズルから高速の熱風を製品表面に直接吹き付けることで、表面付近にできて熱の伝わりを妨げる薄い空気の層(熱境界層)を薄くし、熱を効率よく届けます。研究チームによれば、これまでのエアジェット衝突加熱の研究はケーキ、半焼成バゲット、平焼きパンなど薄い、あるいは体積の小さい製品が中心で、厚みのある型焼き食パンへの適用はほとんど調べられていませんでした。
著者らは、型焼き食パンを対象に、熱と水分の移動のようす、焼成条件の最適化、製品品質、消費エネルギー、加熱由来化合物の生成を一つの実験の枠組みでまとめて評価することを目的としました。
どのように調べたか
研究チームは、家庭用ビルトインオーブンをもとに、庫内の上下に25個ずつ計50個のエアジェットノズルを配置した試作機を作製しました。比較対象となる従来型オーブンは同じ機種をターボ(強制対流)モードで運転したもので、庫内寸法は両者とも同一(60×60cm)に揃えられ、条件をそろえた比較ができるようにしています。試作機では送風量が約74L/sで、ノズル出口の風速は最大およそ15m/s、製品表面の近く(表面から10〜15mm)では4〜4.5m/sでした。従来型オーブンでは同じ表面近傍の風速が1〜1.5m/sと報告されています。
パン生地はパン用小麦粉、市販ミックス粉、全粒ライ麦粉、ふすま、アスコルビン酸を配合した粉に水・イースト・食塩を加えて調製し、一次発酵と型内での最終発酵を経て焼成しました。エアジェット方式では、庫内温度165・180・195℃、風速12・15m/s、焼成時間15・25・35分、天板位置(中段・下段)を組み合わせた18通りの条件で焼成しています。比較用の従来型オーブンでは、メーカー推奨の200℃・45分で焼きました。
焼成中は熱電対で上面・中心部・下面の温度を連続的に記録しました。焼き上がったパンについては、水分含量、高さの変化、かさ密度、体積、硬さと弾力(テクスチャー測定)、皮(クラスト)の厚さ、色と褐変度、HMF含量などを測定し、消費電力も記録しています。得られたデータは応答曲面法(実験条件と品質の関係を数式モデルで表し、最適な組み合わせを探す統計手法)で解析され、最適条件は追加で5回の焼成試験を行って検証されました。最適条件で焼いたパンについては、アクリルアミド含量や、マイクロCTによる気孔率・気孔径の測定も行われています。
報告された主な結果
温度の記録からは、同じ天板位置で風速を12m/sから15m/sへ上げると、パンの上面・下面の温度がより速く上昇したことが報告されています。著者らはこれを、より強い噴流が表面の熱境界層を薄くし、対流熱伝達が高まったためと説明しています。この効果は噴流に直接さらされる上面でとくに顕著で、一方で中心部の温度上昇は遅れて現れました。これは内部では、パンの組織を通した伝導による熱の伝わりが主になるためとされています。従来型オーブンでは、上面・中心・下面の温度がより緩やかに、そろって上昇する傾向がみられました。
水分含量については、焼成温度と焼成時間が主要な要因でした(いずれもp<0.0001)。従来型オーブンが200℃・45分という比較的長い時間をかけて33.37±1.15%の水分含量に達したのに対し、エアジェット方式では、より短い時間で同程度かそれ以下の水分量に達したと報告されています。一方、風速の違いによる最終的な水分量の差は比較的小さく、著者らは、焼成初期に表面から急速に水分が蒸発した後は、水分の除去が外部への対流よりもパン内部の拡散に左右されるようになるためと解釈しています。天板位置の効果が統計的に有意でなかったことは、この方式では庫内の熱分布が比較的均一であることを示すものと受け止められています。
高さの変化はおよそ5〜34%と幅があり、条件によって従来型オーブン(10.42±0.85%)より小さい場合も大きい場合もありました。かさ密度と体積については、調べた範囲内では処理条件の統計的に有意な影響は認められませんでしたが、かさ密度が低い試料ほど体積が大きい傾向がみられ、両者が密接に関係していることが示されています。硬さとクラストの厚さは、焼成温度と時間が上がるほど大きくなる傾向を示しました。従来型オーブンの基準条件では硬さ19.18±2.97N、クラスト厚さ約4.92±0.90mmでしたが、エアジェット方式では、かなり短い焼成時間でこれより柔らかく薄いクラストになる条件がある一方、温度と時間の組み合わせによっては従来型より硬く厚くなる場合もあったと報告されています。
食感の面では、硬さが高い試料ほど弾力(変形後に元の形へ戻る力)が低い傾向がみられ、焼成時間が弾力に対する有意な要因とされました。色については、赤みを示すa*値と褐変度がいずれも焼成温度と時間の上昇にともなって増加し、この二つが有意な要因と報告されています。風速や天板位置の主効果は限定的あるいは有意ではなく、著者らは、これらが表面の加熱速度には影響するものの、温度と時間が揃っていれば褐変反応の進み具合を大きく変えるわけではないと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、厚みのある型焼き食パンにエアジェット衝突加熱を適用し、熱と水分の移動、焼成条件の最適化、品質、エネルギー、加熱由来化合物までを一つの枠組みで検討した報告です。高速の熱風は表面の加熱を速め、従来型オーブンより短い時間で同程度以下の水分量に到達させる一方、クラストと内部の間の温度差を大きくします。
著者らの結果が示すのは、熱の伝わり方が速いことがそのまま良い焼き上がりを意味するわけではない、ということです。条件によっては短時間で柔らかく薄いクラストのパンが得られますが、温度と時間の設定が過剰になれば、クラストは望ましい程度を超えて硬く厚くなります。この方式を活かすには、焼成パラメータを慎重に選ぶ必要がある、というのが報告から読み取れる要点です。
著者:Özgül Altay(Faculty of Engineering, Department of Food Engineering Ege University İzmir Türkiye)、Özge Filiz(Faculty of Engineering, Department of Food Engineering Ege University İzmir Türkiye)、Gönül Çavuşoğlu(Arçelik A.Ş İstanbul Turkey)、Safiye Nur Dirim(Faculty of Engineering, Department of Food Engineering Ege University İzmir Türkiye)、Utku Şentürk(Faculty of Engineering, Department of Mechanical Engineering Ege University İzmir Türkiye)、Figen Kaymak‐Ertekin(Faculty of Engineering, Department of Food Engineering Ege University İzmir Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Özgül Altay, Özge Filiz, Gönül Çavuşoğlu, et al. Air Jet Impingement Baking of Bread: Heat–Mass Transfer Dynamics and Process Optimization. Journal of Food Science 2026-09-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71456. 原著ライセンス:CC BY.