この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
Lactiplantibacillus plantarum(ラクティプランティバチルス・プランタルム)は、乳製品や発酵野菜、人の消化管など幅広い環境に生息する乳酸菌です。発酵食品での長い利用の歴史からプロバイオティクス研究でよく取り上げられますが、研究チームは、同じ菌種であっても株ごとの性質の差が大きく、菌種としての評価をそのままどの株にも当てはめることはできないと述べています。プロバイオティクスとは、生きたまま摂取して腸内環境に関わることが期待される微生物を指す言葉です。
この研究で扱われたATA-LPC98052株は、トルコ・マニサのスピル山地域の土壌から新たに分離された株です。著者らは、この株をプロバイオティクス原料の候補として評価するため、試験管内での性質、ゲノム解析による安全性の確認、ラットを用いた反復投与試験、糞便中の細菌叢の変化という複数の角度から調べることを目的としました。
どのように調べたか
試験管内の検討では、溶血性(赤血球を壊す性質)の有無、ヒト腸管由来のCaco-2細胞に対する細胞毒性と付着能、模擬胃酸(pH1.5〜5.0)および胆汁酸塩(0.1〜0.5%)への耐性、凍結乾燥製剤の15か月間の保存安定性が調べられました。
動物試験では、OECDテストガイドライン407の考え方を参考にした28日間の反復経口投与試験が行われました。論文では、これは正式な規制対応のOECD適合試験ではなく、補足的な予備安全性情報を得るためのものだと明記されています。雌雄各5匹ずつの対照群と投与群に分け、1日1回、28日間にわたって強制経口投与し、死亡や一般状態、体重、摂餌量、血液学的・生化学的指標、臓器重量、病理組織学的所見が調べられました。投与終了後14日間の回復期間を設けた群も用意されています。
このほか、全ゲノムシーケンスによって菌株の同定と、獲得された薬剤耐性遺伝子や病原性に関わる遺伝子の探索が行われ、糞便の16S rRNA遺伝子解析によって腸内細菌叢の構成変化が調べられました。
主な報告結果
著者らの報告では、ATA-LPC98052株は10回の独立した試験のいずれでも溶血帯を示さず、γ溶血性(溶血しない型)と分類されました。Caco-2細胞に対する相対的な細胞生存率は99.0%と98.9%で、細胞毒性は検出されなかったとされています。付着率は90%を超え、凍結乾燥製剤は室温15か月の保存を通じて約9.6 log10 CFU/gの培養可能菌数を保ちました。なお、酸・胆汁耐性の数値については、結果の節ではpH1.5で60%、pH5.0で96%の生存、胆汁酸塩では74〜82%と報告されており、考察の節では異なる数値が示されています。
28日間の投与期間およびその後の14日間の回復期間を通じて、死亡や投与に関連する臨床症状は認められませんでした。体重はすべての群で増加を続け、投与に関連した体重減少はなかったと報告されています。臓器の相対重量に群間の有意差はなく、病理組織学的検査でも投与に関連する所見は見られませんでした。血液や血清生化学の一部の項目には統計的に有意な差が見られましたが、著者らはこれらが性別・時期・試験段階に限られ、臨床症状や臓器重量、病理所見を伴わないことから、一貫した毒性のパターンではなく偶発的な生理的変動と考えられると述べています。
ゲノム解析では菌株がL. plantarumであることが確認され、設定した基準を満たす獲得薬剤耐性遺伝子は検出されませんでした。基準を緩めた追加解析でも新たな検出はありませんでした。別のデータベースを用いた解析では2件の一致が見られましたが、配列の一致度が低いため、実際に発現する耐性の証拠ではなく相同性の信号として慎重に解釈されています。病原性関連遺伝子の検索でも、一致度の基準を厳しくすると一致は消失しました。著者らは、表現型の薬剤感受性試験は本研究の範囲に含まれておらず、今回の結果は完全な薬剤感受性評価とは見なせないと明記しています。
腸内細菌叢については、菌叢の多様性の変化に投与群と対照群で統計的に有意な差は認められませんでした。細菌叢全体の構成は4つの群・時点をまとめて比べると有意な差がありましたが、投与と時間の組み合わせによる変化には有意差がありませんでした。個々の菌属の増減についても、多重比較を補正した基準を満たすものはなく、著者らはそれらを探索的な結果として扱い、投与に特有の変化が確認されたとは解釈していません。
この研究が示すこと
この研究は、発酵食品ではなく土壌から新たに分離された乳酸菌株について、試験管内の性質、ゲノム情報、動物での反復投与、腸内細菌叢という複数の手法を組み合わせて安全性の輪郭を描いた報告です。
同時に、著者ら自身が限界を丁寧に示している点も特徴です。菌種として利用実績があることは個々の株の安全性を保証しないという前提から出発し、表現型の薬剤感受性試験が未実施であることや、腸内細菌叢の解析結果が探索的な段階にとどまることを明示しています。ある菌株の性質は、その株について実際に調べて初めて分かるという考え方が、研究全体を貫いています。
著者:Şükran Özdatlı Kurtuluş(Department of Pharmaceutical Toxicology, Hamidiye Faculty of Pharmacy, University of Health Sciences, Istanbul 34668, Türkiye)、Ertuğrul Osman Bursalıoğlu(Department of Medical Services and Techniques, Vocational School of Health Services, Sinop University, Sinop 57000, Türkiye)、Reyhan Aliusta(Venar Sağlık A. S., Büyükesat Mah., Çayhane St., No: 35/A GOP, Çankaya, Ankara 06700, Türkiye)、Betül Türker Şallı(ATABIO Technologies Co., Ltd., Teknopol Istanbul, Istanbul 34903, Türkiye)、Batuhan Cenk Özkan(ATABIO Technologies Co., Ltd., Teknopol Istanbul, Istanbul 34903, Türkiye)、Deniz Köşebent(ATABIO Technologies Co., Ltd., Teknopol Istanbul, Istanbul 34903, Türkiye)、Ahmet Arif Kurt(Department of Pharmaceutical Technology, Faculty of Pharmacy, Süleyman Demirel University, Isparta 32000, Türkiye)、Abdurrahman Recep Bülbül(ATABIO Technologies Co., Ltd., Teknopol Istanbul, Istanbul 34903, Türkiye)、Fatih Hacimustafaoğlu(Medical Laboratory Techniques Program, Department of Medical Services and Techniques, Hamidiye Vocational School of Health Services, University of Health Sciences, Istanbul 34668, Türkiye)、Bekir Çakıcı(ATABIO Technologies Co., Ltd., Teknopol Istanbul, Istanbul 34903, Türkiye)、Nazlı Gamze Bülbül(Department of Neurology, Faculty of Medicine, University of Health Sciences, Istanbul 34668, Türkiye)、Emine Kızılay(Medical Laboratory Techniques Program, Department of Medical Services and Techniques, Hamidiye Vocational School of Health Services, University of Health Sciences, Istanbul 34668, Türkiye)、Ronayı Coşkun(Department of Pharmacy Management, Hamidiye Faculty of Pharmacy, University of Health Sciences, Istanbul 34668, Türkiye)、Gamze Yıldırım(Kızılay Beverages, Istanbul 34750, Türkiye)、Semra Şardaş(Department of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Istinye University, Istanbul 34408, Türkiye)、İsmail Aslan(ATABIO Technologies Co., Ltd., Teknopol Istanbul, Istanbul 34903, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Şükran Özdatlı Kurtuluş, Ertuğrul Osman Bursalıoğlu, Reyhan Aliusta, et al. Comprehensive In Vitro, Genomic, Microbiota, and Subacute Toxicological Safety Characterization of Lactiplantibacillus plantarum ATA-LPC98052. Nutrients 2026-08-26. DOI: 10.3390/nu18172796. 原著ライセンス:CC BY.