この研究は、バングラデシュの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ海藻の「保存」が課題になるのか

海藻は食品としての栄養価に加え、医薬・化粧品・肥料などの原料としても関心を集めており、著者らによれば世界の海藻生産量の97%(3580万トン)が養殖によるもので、市場規模は118億ドルと報告されています。寒天やカラギーナン、アルギン酸といった「ハイドロコロイド」(食品にとろみやゲル状の性質を与える多糖類)の供給源でもあり、経済的価値の高い資源です。

一方で海藻は水分が70〜90%と多く、不飽和脂肪酸に富み、pHが中性付近であるため、収穫後に品質が落ちやすい食材でもあります。この総説の目的は、収穫から加工・利用に至るまでの品質をどう保つかという観点から、品質評価の指標、劣化の要因、そして各種の保存技術が栄養・安全性・保存期間にどう影響するかを整理することです。

どのように文献を集めたか

著者らは、特定の実験を新たに行うのではなく、既存研究を幅広く見渡す「ナラティブレビュー」という方法をとりました。2008年11月から2025年6月までに公表された研究論文・総説を対象に、複数のキーワードを組み合わせてGoogle Scholarなどの電子データベースを検索しています。

選別にあたっては、査読を受けた論文であること、主題との関連性、方法の記述が明確であること、全文が入手できることを条件とし、学術的でない記事や報告が不完全なものは除外したとしています。採用した各研究については、著者・発表年・研究デザイン・試料・分析法・主な知見を定型の表にまとめ、重複を避けるために相互参照を行ったと述べられています。

報告されている主な知見

まず栄養面について、著者らは種や環境条件によって幅があるとしつつ、海藻のタンパク質は乾燥重量の5〜47%に及び、緑藻・紅藻(10〜47%)が褐藻(5〜24%)より高い傾向にあると整理しています。必須アミノ酸が全アミノ酸の半分以上を占め、その組成は卵タンパク質に近いという報告も紹介されています。脂質量は0.5〜4.5%と少ないものの、ω‐3・ω‐6系の多価不飽和脂肪酸を含む点が栄養上意味をもつとされます。ミネラルは乾燥重量の8〜40%と高く、これは海水中に溶けた成分を体表(葉状体)から直接吸収できるためだと説明されています。ただしヨウ素を多く含む種もあり、フランスでは全種について乾燥重量あたり2000 mg/kgを上限とする勧告があること、妊婦や甲状腺・心臓・腎臓の疾患をもつ人は摂取を避けるべきとされていることも併せて紹介されています。

品質の判定には、微生物数、官能評価、化学指標であるTVB‐N(揮発性塩基窒素)やTMA‐N(トリメチルアミン窒素)、そして水分活性やpHといった物理指標が用いられます。ある研究ではアナアオサ類において、4℃で10日、16℃で6日まではTVB‐NとTMA‐Nの上昇が見られなかったと報告されています。乾燥品では水分管理が要点で、相対湿度90%・25℃で15日保存するとカビ・酵母数が対数6.42 CFU/gに達したのに対し、湿度70%では2.12、50%では1.35にとどまったという結果が紹介されています。

劣化の要因としては、水分活性、酵素活性、脂質の酸化、微生物の増殖、包装、保存温度、相対湿度が取り上げられています。乾燥ノリ(Porphyra)では水分活性が0.30、0.51、0.75、0.89へ上がるにつれて過酸化物の生成速度が高まり、ポリフェノールの残存率も水分活性0.11での90.5%から、0.89では67.0%へ低下したと報告されています。包装については、6℃前後で15日間の試験で、MAP(空気を別の気体組成に置き換える「ガス置換包装」)と真空包装が対照区より微生物数と香気成分の保持の両面で優れていたとされます。

保存期間は種、形態、前処理、包装、温度によって大きく変わります。冷蔵のみの場合は3〜14日程度、2.8℃のサトウコンブでは7〜9日という報告がある一方、5℃で軽く塩蔵したチガイソ類では6週間、乾式塩蔵したアラリア・エスクレンタでは5℃で90日間にわたり微生物数が3.5 log CFU/g未満に保たれたと紹介されています。乾燥法の比較では、天日乾燥は安価で利用しやすい反面、乾燥効率が低く、粉じんなどによる汚染の危険が高いこと、ホンダワラ属の例では灰分やリンの保持は良好だった一方で多価不飽和脂肪酸が16.393%と低かったことが挙げられています。

著者らは、これらの要因は互いに密接に関連しており、単一の指標であらゆる条件下の品質を評価することはできないため、環境条件と包装条件を個別ではなく同時に管理する必要があると述べています。

この整理が示すもの

この総説が浮かび上がらせるのは、海藻に「最良の保存法」が一つあるわけではないということです。種によって主要な成分が異なり、守りたい成分と失われやすい成分の組み合わせも変わるため、著者らは生化学的な構成に応じて保存方法を選ぶ必要があると指摘しています。栄養価の保持、微生物学的な安全性、保存期間の延長という三つの目標は、必ずしも同じ方法で最もよく満たされるわけではありません。文献を横断してその対応関係を整理することは、海藻を食品や産業原料として扱おうとする場面で、何を測り何を管理すべきかを考える出発点になります。

著者:Shanjida Islam Shikha(Department of Fishing and Post‐Harvest Technology Chattogram Veterinary and Animal Sciences University Chattogram Bangladesh)、Hrishika Barua(Department of Fishing and Post‐Harvest Technology Chattogram Veterinary and Animal Sciences University Chattogram Bangladesh)、Md. Faisal(Department of Fishing and Post‐Harvest Technology Chattogram Veterinary and Animal Sciences University Chattogram Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shanjida Islam Shikha, Hrishika Barua, Md. Faisal. A Comprehensive Review on Seaweed Preservation Techniques: Impacts on Nutritional Quality, Safety and Shelf Life. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72172. 原著ライセンス:CC BY.