刺身や寿司の材料として人気のマグロは、栄養価が高く味も良い一方で、傷みやすい魚でもあります。常温に置かれたマグロでは、菌の働きによってアミノ酸の一種であるヒスチジンが毒性のあるヒスタミンに変わっていくことがあり、この変化はわずか8〜20時間ほどで進むとされています。厄介なのは、ヒスタミンは加熱しても分解されず、しかもほとんど無臭で、人の五感では気づきにくいという点です。従来の鮮度判定は、見た目や匂いによる官能検査や、化学分析・微生物検査といった実験室での手法に頼ってきましたが、判断する人によってばらつきが出たり、コストや時間がかかったり、サンプルを壊してしまったりする課題があったといいます。こうした背景から、この研究ではインドネシアのTelkom大学パルウォクルト校の研究者らが、壊さず・早く・安く鮮度を調べられる小型の電子的な検査装置を試作し、その性能を確かめています。

ガスと色、二つのセンサーで鮮度を追う

研究チームは、インドネシア・パルウォクルトのスーパー(Superindo)で購入した生マグロを100gずつ量り、シャーレに入れて20×20×20cmの密閉アクリル容器の中で観察しました。容器の天井には、アンモニア(NH3)と硫化水素(H2S)を検知する「電子鼻」として、MQ-136とMQ-137という半導体式ガスセンサーを設置。マグロが傷むにつれて菌がタンパク質を分解し、悪臭のもとになるこれらのガスを放出する様子を、電圧の変化として5分間記録しました。あわせて、TCS3200という色センサーを使い、マグロの表面から反射する光を赤(R)・緑(G)・青(B)の数値として測定しています。光の干渉を避けるため、センサーは暗い箱の中でマグロの表面から2.5cm離して固定されました。著者らは、ヒスタミン自体は無臭で検知できなくても、ヒスタミンを作る菌が同時にNH3やH2Sという臭いガスも作り出すため、電子鼻はこれらのガスを『ヒスタミンが生成されつつある合図』として捉えられると説明しています。

3つの鮮度段階と、それぞれの数値の目安

常温保存下でのデータを積み重ねた結果、研究チームはマグロの状態を「新鮮(0〜10時間)」「半鮮度(11〜20時間)」「腐敗(21〜30時間)」の3段階に分類しました。色センサーの値では、新鮮な状態はR値172〜184・G値70〜104・B値89〜129のあたりに収まり、時間が経つにつれて数値が全体的に下がっていく傾向が確認されています。半鮮度ではR値151〜167・G値32〜64・B値49〜83、腐敗が進むとR値119〜149・G値0〜28・B値0〜45まで下がり、見た目も鮮やかなピンク色から、青みの薄い赤色、さらには黒っぽい色へと変化していったといいます。ガス濃度についても、NH3とH2Sの蓄積は時間に比例して増えていく「ゼロ次反応」に近いモデルでよく説明でき、両ガスの蓄積の傾向を表す指標(決定係数R2)は0.82だったと報告されています。論文では、こうしたガス濃度の上昇は、Bacillus属、Clostridium属、Pseudomonas属といった細菌によるタンパク質分解が関係していると考察されており、色の変化についても、ガスの蓄積によって表面のpHが上がり、マグロの赤色を担うミオグロビンが酸化して褐色のメトミオグロビンに変わることが、赤みの低下として現れていると説明されています。

この研究をどう読むか

この装置は、電子鼻と色センサーの両方のデータをマイコン上でリアルタイムに処理し、鮮度の判定結果をブザー音とパソコンへのデータ送信で知らせる仕組みになっている点が特徴です。著者らは、単独の手法(匂いだけ、色だけ)では周囲の環境の影響を受けたり、目に見えない劣化を見逃したりする限界があるとして、今回のように複数のセンサーを組み合わせる意義を述べています。ただし、この研究は特定の産地・購入先から得たマグロのサンプルを使った実験室レベりの検証であり、対象となった魚の種類や保存条件も限定的です。論文の中では、インドネシアの伝統的市場での鮮魚流通や、日本・米国・欧州連合向けの輸出時にヒスタミンが出荷停止の主要な原因になっていることにも触れられていますが、これは輸出先の一例として挙げられているものであり、日本国内での検証や日本の研究機関による研究ではありません。実用化に向けては、より多様な条件での追試や、既存の検査法との比較などが今後の課題になると考えられます。

本研究は、マグロの鮮度が落ちていく過程を、ガスの発生と色の変化という二つの切り口から客観的な数値で捉えようとした試みです。今後の研究の蓄積によって、店頭や輸出検査の現場で使える技術に発展していくのか、注目されるところです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Erlina Nur Arifani, Sevia Indah Purnama. Classification of Tuna Freshness Phases Integration of E-Nose and Digital Colorimetry. ジャーナル・オブ・テレコミュニケーション・エレクトロニクス・アンド・コントロール・エンジニアリング(JTECE) (2026). DOI: 10.20895/jtece.v8i2.2147. 原著ライセンス: cc-by-nc-sa.