オレンジジュースやオレンジ製品を作る過程では、皮やアルベド(白い内果皮)などの副産物が果実重量の最大55%も発生するとされています。こうした残さは廃棄されると分解時に二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを発生させる一方で、カロテノイドやフラボノイド、ペクチン、食物繊維といった有用な成分を豊富に含んでいます。今回プロス・ワンに発表された研究では、コロンビアの果汁加工会社Fruti Paisa社から提供されたオレンジ果皮副産物を原料に、水溶性食物繊維(SDF)を効率よく取り出すための抽出方法が比較検討されました。
研究チームには、コロンビアのUniversity Institution Colegio Mayor de Antioquia、ブラジルのUniversidade Federal da Bahia、スペインのInstitute of Agrochemistry and Food Technology(IATA-CSIC)に所属する研究者が参加しています。
4つの抽出方法を比較
研究では、洗浄・乾燥・粉砕した果皮粉末に対して、(1)アルカリ抽出(NaOHを使用)、(2)超音波前処理を加えたアルカリ抽出、(3)酵素抽出(耐熱性α-アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼを順に使用)、(4)超音波前処理を加えた酵素抽出、という4通りの方法で水溶性・不溶性食物繊維を取り出し、収率や性質を比較しました。超音波処理は750Wの装置を用い、2秒オン・2秒オフのパルスモードで60%の振幅、室温で15分間、粉末と溶媒を1対25の割合で混合して行われています。
結果として、水溶性食物繊維の収率は、アルカリ抽出の11.38±0.50%に対し、超音波前処理を加えた酵素抽出では26.04±0.81%と最も高くなりました。この方法で得られた繊維の純度は約90%(91.09±0.19%)でした。酵素抽出がアルカリ抽出よりも収率を高めた背景として、酵素がセルロースや高分子のヘミセルロースといった不溶性成分の結合を分解し、水溶性の画分へと変換しやすくすることが挙げられています。さらに超音波処理を組み合わせることで、酵素抽出では収率が12.5%、アルカリ抽出では25.0%それぞれ上乗せされたと報告されています。これは超音波が引き起こす「キャビテーション」という現象――音波によって生じた微小な気泡が急速に潰れる際のエネルギーで細胞壁が壊される仕組み――によるものと説明されています。
食物繊維に結合したポリフェノール量(没食子酸換算)は、アルカリ抽出の3.23±0.03 mg/gから、超音波前処理を加えた酵素抽出の12.15±0.21 mg/gまで幅がありました。フラボノイド量(カテキン換算)も2.15±0.11 mg/gから3.07±0.08 mg/gの範囲で、いずれも超音波処理を加えた酵素抽出で最も高い値を示しています。一方、水を保持する力(保水力)はアルカリ抽出で最も高く9.16±0.08 g/g に達しましたが、酵素処理を行うと繊維の構造がある程度壊れ、多孔質性や水との親和性が下がることで保水力は低下する傾向が見られました。油を保持する力(保油力)は1.08±0.12から1.24±0.05 g/gの範囲で、抽出方法による差は見られませんでした。
繊維の構造と腸内細菌への影響
赤外分光分析(FTIR)やX線回折による構造解析では、超音波前処理を加えた酵素抽出で得られた繊維は、より無定形(結晶構造が乱れた状態)で結晶化度が低く、表面がより崩れており、熱に対する安定性が高いことが確認されました。これは酵素と超音波の両方の作用によって、水素結合など繊維内部の結びつきが弱まったためと考えられています。
さらにこの研究では、得られた水溶性食物繊維が腸内細菌の栄養源になりうるかも調べられています。マウス由来のFaecalibaculum rodentium(ABL288株)と、Bacteroides thetaiotaomicron(DSM2079T株)という、宿主の健康に有益とされる腸内共生菌を用いた嫌気培養実験が行われ、超音波前処理を加えた酵素抽出由来の繊維がこれらの菌の増殖に適した基質となることが示されました。
この研究の位置づけと注意点
著者らは、得られた繊維がパンや菓子類での保水性向上や、乳製品・食肉製品・乳化系食品での脂肪代替素材としての応用可能性があるとしていますが、これらの具体的な食品への応用は今後の実験で検証されるべき仮説段階の話であると述べています。また、超音波処理の条件(振幅60%、1対25の固液比など)は予備実験に基づいて固定されたものであり、工業規模での品質の均一化や運用コストの低減には、さらなる条件の標準化が必要だとしています。今回の結果はあくまで実験室レベルでの一つの研究であり、抽出方法や原料の産地・成熟度・栽培条件によっても繊維の性質は変わりうる点にも触れられています。人での健康効果を直接確かめた研究ではない点にも留意が必要です。
この研究は、廃棄されがちな柑橘の皮を資源として活かす「アップサイクル」の一例として、食品分野での機能性素材開発に向けた基礎データを提供するものといえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jhonatan D. Quiñonez-Ensuncho, Gala Rosales, Laura Ortega-Ruiz, et al. Valorization of orange peel by-products via ultrasound-pretreated enzymatic extraction of soluble dietary fiber: Structural and functional characterization. プロス・ワン (2026). DOI: 10.1371/journal.pone.0357376. 原著ライセンス: cc-by.