著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Frontiers in Clinical Diabetes and Healthcare
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:予防プログラムへの参加をどう続けてもらうか
米国では、血糖値が糖尿病の一歩手前にある「前糖尿病」の人が多い一方、自分がその状態にあると気づいている人は少ないとされています。こうした人の2型糖尿病の発症を減らすために、米国疾病予防管理センター(CDC)の研修を受けたコーチが食事、運動、体重管理の生活習慣改善を指導する12か月間の「全米糖尿病予防プログラム(National DPP)」が実施されています。
論文によると、このプログラムは継続して参加するほど体重減少などの成果が大きいと報告されてきました。しかし、多くの集団で出席や継続が十分ではありません。その背景として、自分の文化に合った料理を健康的に作れる自信がないことや、栄養のある食品を買う経済的な余裕がないことが挙げられています。特に、糖尿病のリスクが高く、標準的な米国式レシピとは異なる調理をしてきた人種・民族的マイノリティの人々にとって、これは大きな課題だといいます。
そこで研究チームは、National DPPを補う「持続可能で文化に適応した栄養プログラム(SCAN)」を開発しました。本論文は、SCANを加えた場合に12か月後のプログラム出席状況などがどうなるかを報告したものです。
何を調べたか:料理教室と対話技法を組み合わせた取り組み
研究は、テキサス州ヒューストンにある、無保険や保険が不十分な人を多く受け入れる地域診療所で行われました。患者の中には中南米、アフリカ、東アジアなどにルーツを持つ人々が含まれます。対象は前糖尿病などの条件を満たし、糖尿病と診断されていない成人です。参加者は英語またはスペイン語のクラスを選び、クラス単位で「National DPPにSCANを加える群」と「National DPPのみの群」に割り振られました。
SCANの中心は、オンラインで行う1時間の料理教室で、National DPPの最初の6か月間に4回実施されました。レシピや資料は参加者の文化的背景に響く内容に調整され、教室の当日には材料と調理器具が自宅に届けられました。講師は、相手の考えを引き出しながら行動の変化を支える対話法「動機づけ面接」の研修を受けました。開かれた質問をする、相手の強みを認める、相手の言葉を受け止めて返すといった技法を使い、参加者が自分の食文化を大切にしながら健康的な料理を考えられるよう支援しました。
あわせて、両群の参加者は地元フードバンクの食品支援プログラムにも登録され、月2回、新鮮な果物や野菜を受け取れる仕組みが用意されました。研究チームが主に調べたのは、12か月の時点でのNational DPPの出席回数です。そのほか体重の変化や、満足度・自信・知識を尋ねる電話アンケートも評価しました。
主な結果:出席回数に統計的な差はなく、参加者の評価は好意的
研究に登録した61人のうち、National DPPに1回以上出席した37人が分析の対象となりました。割り付けたグループどうしで比べると、National DPPの平均出席回数はSCAN群が約7.6回、DPPのみの群が約7.8回で、統計的に意味のある差はありませんでした。
実際に料理教室へ1回以上参加した人に限ると、National DPPの平均出席回数は約9.7回で、比較群の約6.9回より多い傾向が見られました。ただし、この差も統計的に有意ではありませんでした。また、National DPPへの出席が1回増えるごとに平均体重が1.3%少ないという関連が示されましたが、これも有意ではありません。血糖の指標やコレステロールについては、8割以上の参加者で12か月時点のデータがなかったため、結果は報告されていません。
アンケートでは、6か月と12か月の両方に回答した13人全員が、このプログラムを人に勧めたい、学んだことを活用できると答えました。健康的な料理を作る自信や、自分の糖尿病リスクを判断する自信を持つ人の割合は12か月時点で増えていました。一方で、健康的な食品を買う自信や、自分の文化の料理を健康的に作る自信を持つ人の割合は減っていました。
参加を妨げた要因としては、仕事の予定や育児などの事情が多く挙げられました。また、食品支援を利用した人は15%未満にとどまりました。利用しなかった理由として、受け取れる量が少ないことや、フードバンクでの受け取りの日程が合わないことが挙げられています。
この研究が示すこと
著者らは、この研究によって、文化に合わせた料理教室をNational DPPに組み込むことが実行可能であると示されたと結論づけています。出席回数の差は統計的に確かめられませんでしたが、料理教室に参加した人で出席が多い傾向があったこと、そして参加者からの評価が一様に好意的だったことを、SCANの可能性を示す材料として挙げています。
一方で著者らは、参加者が少なく差を検出する力が弱かったこと、関心の高い人が介入群に入りやすかった可能性があることを限界として示しています。また、新型コロナウイルス感染症の流行下で、慣れないオンライン形式やスマートフォンのみでの参加を強いられたことも、結果に影響した可能性があると述べています。この研究は、生活習慣改善プログラムを続けてもらうには、知識を伝えるだけでなく、参加者の食文化や暮らしの事情に寄り添う工夫が手がかりになり得ることを、小規模な試みとして示したものといえます。
原著論文の著者・所属:William B. Perkison(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; Southwest Center for Occupational and Environmental Health, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Pierre Fwelo(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Natalia I. Heredia(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Ella Garza(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center School of Public Health)、James J. Yang(Department of Biostatistics and Data Science, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Fernanda Velasco-Huerta(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Serena A. Rodriguez(Institute for Implementation Science, The University of Texas Health Science Center at Houston; The University of Texas Health Science Center School of Public Health)、Sidra S. Beg(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; Institute for Implementation Science, The University of Texas Health Science Center at Houston; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Catherine Pulicken(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Patenne D. Mathews(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Belinda M. Reininger(The University of Texas Health Science Center School of Public Health, Brownsville, TX, United States)、Roshanda S. Chenier(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)、Maria E. Fernandez(Center for Health Promotion and Prevention Research, The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health; Institute for Implementation Science, The University of Texas Health Science Center at Houston; The University of Texas Health Science Center at Houston School of Public Health)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):William B. Perkison, Pierre Fwelo, Natalia I. Heredia, et al. Outcomes of the Sustainable Culturally Adapted Nutrition Program (SCAN) and food supplement program to improve engagement with the National Diabetes Prevention Program (NDPP). Frontiers in Clinical Diabetes and Healthcare 2026-08-24. DOI: 10.3389/fcdhc.2026.1838175. 原著ライセンス:CC BY.