セリアック病は、小麦などに含まれるグルテンの摂取によって腸に炎症が起きる病気で、現在の唯一の治療法は厳格なグルテンフリー食(グルテンを含まない食事)です。しかし、グルテンフリー食を守っているからといって、栄養状態が自動的に良くなるわけではないことが知られています。市販のグルテンフリー加工食品には飽和脂肪や単純糖質が多く、食物繊維やビタミン・ミネラルが少ない傾向があり、鉄・カルシウム・マグネシウム・ビタミンD・E・B群などの不足が長期のグルテンフリー食で報告されてきました。加えて、グルテンフリー食品は一般食品より高価なことが多く、家庭の食費負担や、外食・学校給食・友人関係での制約による心理的な負担も指摘されています。こうした背景から、アルジェリアのオラン第1大学とオラン大学病院センターの研究グループが、地中海式食事(野菜・果物・豆類・魚・オリーブオイルなどを中心とした食事パターン)の考え方をグルテンフリー食に組み込む栄養教育プログラムを開発し、小児・青年期のセリアック病患者を対象にランダム化比較試験を行いました。

研究の方法

2022年1月から2024年1月にかけて、オラン大学病院センターの小児科(A. Cabral小児科「C」部門)で実施されました。対象はESPGHAN(欧州小児消化器肝臓栄養学会)基準でセリアック病と診断され、登録前1年以上グルテンフリー食を続けている5〜18歳の子どもです。145名がスクリーニングされ、91名が介入群(46名)と対照群(45名)に無作為に割り付けられましたが、追跡期間中の脱落(学校の都合で時間が合わない、連絡がつかない、途中辞退など)により、最終的に介入群35名、対照群24名の計59名が解析対象となりました。介入群は「標準的な治療教育」に加えて、地中海式食事に基づく栄養教育、心理支援セッション、料理教室を受け、対照群は標準的な治療教育のみを受けました。各ワークショップは約4時間で、90分の教育セッションを2回、間に30分の休憩、その後30〜45分の質疑応答という構成でした。参加は完全に無償で、金銭的な謝礼はありませんでした。

栄養教育では、地中海式食事とグルテンフリー食を組み合わせた専用の「地中海式グルテンフリー・フードピラミッド」を用い、朝食や午後のおやつを含むエネルギー配分、グリセミックインデックス(食後血糖の上がりやすさの指標)、日光浴とビタミンD合成の関係、ビタミンCが鉄の吸収を助ける仕組みなどが説明されました。料理教室では、専門シェフと管理栄養士が指導し、オリーブオイル・にんにく・ハーブを使った野菜ソースのグルテンフリーピザやパン、ナツメヤシ・ナッツ・種子・無糖ココアを使った手作りスナック、市販のチョコレートスプレッドやマーガリンの代わりとなる自家製ピーナッツバターやごまペースト(タヒニ)の作り方などが取り上げられました。心理支援は臨床心理士による1回の集団セッションで、正式な心理療法ではなく、学校給食や外食、友人関係での悩みなどを話し合う支持的なグループ形式で行われました。

評価項目として、グルテンフリー食の遵守度は小児用に調整された「CDAT(Celiac Dietary Adherence Test)」、地中海式食事の遵守度は「KIDMEDインデックス」(−4〜12点、8点以上で最良の遵守)を使用しました。食事内容は24時間思い出し法と3日間の食事記録、身体活動は国際標準の質問票(IPAQ-SF)、生活の質はセリアック病特有の質問票「CDDUX」と、健康関連の生活の質を測る「KIDSCREEN-10」(いずれも9歳以上が自己記入)で評価し、90日後に再評価しています。CDATとKIDMEDの質問票はフランス語・アラビア語の検証済み版が存在しなかったため、研究の管理栄養士が翻訳して使用したとされています。

わかったこと

90日後、介入群は地中海式食事の遵守度(KIDMEDスコア)が2.49点から7.49点へと大きく上昇し、対照群(2.17点から2.75点)との差は統計的に明確でした。介入群では「遵守度が低い」子どもの割合が66%から9%に減り、「最良の遵守」が0%から54%に増えた一方、対照群では最良の遵守に達した子どもはいませんでした。グルテンフリー食の遵守度(CDATスコア、低いほど良好)も介入群で11点から6点に改善し、対照群(11点から10点)より改善幅が大きいという結果でした。介入群では、グルテンを含む穀物の摂取(57%→11%)や、自宅でのパン作りの困難(54%→3%)、食事を抜く頻度なども有意に減少しています。

栄養面では、介入群でたんぱく質摂取(総エネルギーに占める割合が11%から14%へ)、食物繊維(13.8gから19.48g/日へ)、カルシウム(452mgから662mg/日へ)、鉄(6.24mgから7.75mg/日へ)、ビタミンC(47.9mgから65.1mg/日へ)の摂取量が増加しました。対照群では総炭水化物や単純糖質が増える一方で総脂質やPUFA(多価不飽和脂肪酸)が減少する変化がみられ、脂質の質に関する指標でも両群に差が出ています。身体活動量自体は両群とも大きく変わりませんでしたが、介入群では座位時間(テレビやスマートフォンの使用時間など)がわずかに減少しました。生活の質については、セリアック病特有のCDDUXスコアが介入群で41.5点から50.6点に上昇し、特に「グルテンフリー食」領域のスコア上昇が対照群との比較でも認められました。健康関連QOLを示すKIDSCREEN-10のスコアも介入群で改善しています。血液検査では、アルブミン値が介入群で上昇した一方で対照群では低下し、ビタミンD値は両群とも改善したものの介入群でより高い値となりました。統計モデル(線形混合モデル)では、群と時間の組み合わせ(交互作用)が地中海式食事の遵守度の変化に強く関連しており、多変量解析では介入群に属すること、およびグルテンフリーのパン作りに困難を感じていることが、遵守度改善と独立して関連する要因として挙がっています。

この研究の位置づけと留意点

この試験は無作為割り付けを行っていますが、参加者にも担当の管理栄養士にも介入内容を伏せることができない「非盲検」の試験である点が挙げられています。また、145名のスクリーニング対象者のうち最終解析に残ったのは59名にとどまり、追跡期間中の脱落(介入群11名、対照群21名)が学期中の都合や連絡不通などを理由に生じています。脱落した参加者の追跡後データが得られなかったため、割り付けられた全員を解析に含む「intention-to-treat解析」ではなく、最後まで完了した参加者のみを対象とする「per-protocol解析」が行われている点も、結果を読むうえでの留意点です。地中海式食事の遵守度をはじめとする複数の指標で改善がみられていますが、これは単一の研究であり、より大規模な追跡調査を含めたさらなる検証が必要とされています。

まとめ

今回のランダム化比較試験では、標準的な治療教育に加えて地中海式食事の栄養教育・料理教室・心理支援を組み合わせたプログラムを受けた小児・青年期のセリアック病患者で、地中海式食事とグルテンフリー食の遵守度、食物繊維やカルシウムなどの栄養摂取、疾患特異的な生活の質の指標が、標準的な治療教育のみを受けた対照群と比べて改善したことが報告されました。著者らは、こうした多面的な栄養教育を治療教育に組み込むことが、小児・青年期のセリアック病の長期管理における有望な戦略になりうるとしています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:小児セリアック病集団における地中海式食事に基づく栄養介入がグルテンフリー食、栄養状態および生活の質に与える影響:ランダム化比較試験(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)