日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Frontiers in Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

外部支援が終わったあと、活動に何が残ったのか

東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故により、多くの住民が長期の避難生活を余儀なくされました。避難所から仮設住宅、そして災害公営住宅へと住まいが移るたびに、それまで築かれた地域のつながりはいったん解け、慣れない環境で人間関係を結び直す必要がありました。震災前に同居していた家族が離れて暮らすことも少なくありませんでした。

こうした状況のなかで、2011年10月に味の素グループが被災者の食生活と地域の活気の回復を目的とした取り組みを始め、その後、公益財団法人味の素ファンデーション(TAF)へ引き継がれました。「一緒に作って、一緒に食べる」を掲げた出張型の料理教室で、著者らによれば、2020年3月までの8年半で岩手・宮城・福島の3県51市町村で3,771回開かれ、延べ54,434人が参加したと報告されています。

著者らが今回取り上げたのは、この直接支援が終わったあとも住民自身の手で続いている料理教室です。福島県いわき市の県営下神白(しもかじろ)団地では、2017年にTAFからの提案で料理教室が始まり、2020年以降は住民組織である自治会が独立して運営しています。研究チームは、外部からの支援が終了したのちに、この活動が住民にとってどのような意味をもっているのかを明らかにすることを目的としました。

14人への聞き取りと、その分析のしかた

調査が行われたのは、下神白団地の集会所です。この団地は福島第一原発からおよそ50キロメートル離れた場所にあり、浪江町・双葉町・大熊町・富岡町から避難した人々が2015年2月から入居を始めました。論文によれば、2024年2月時点で避難者101世帯が暮らし、そのうち約半数が単身世帯、約7割が65歳以上でした。

研究チームは2024年3月、この集会所を利用する住民14人(女性11人、男性3人、平均年齢77.5歳)に対し、フォーカスグループインタビューを実施しました。フォーカスグループインタビューとは、数人の参加者が同席して司会者の問いかけに沿って語り合う形式の聞き取りで、今回は3つのグループに分け、1グループあたり60〜90分程度かけて行われました。聞き手を務めたのは、参加者の所属団体とも活動とも関わりのない研究チームのメンバーでした。

得られた語りは、ブラウンとクラークによる「テーマ分析」という手法で分析されました。これは、語りの記録全体から特徴的な部分に印(コード)をつけ、それらをまとめて共通する主題(テーマ)を取り出していく質的な分析の進め方です。分析の信頼性を高めるため、4人の共著者がそれぞれ独立してコードをつけ、意見が食い違った箇所は話し合いで合意に至るまで検討されました。なお、本研究はTAFの資金提供を受けていますが、研究チームは、資金提供団体は研究の設計・分析・解釈・投稿の判断に関与していないと記しています。

個人にとっての意味と、地域にとっての意味

分析の結果、語りは大きく3つのテーマに整理されました。個人のレベルで報告された効用、地域のレベルで報告された効用、そして料理教室に参加する理由・参加しない理由です。

個人のレベルでは、まず外出の機会が生まれたことが挙げられています。一緒に調理し、自然と会話が生まれる場は、孤立しがちな避難生活のなかで人と交わる機会となり、「楽しいから」「一人暮らしだから、こういう場所に来て話がしたい」といった語りが得られました。次に、学びと成長の機会になっていたことが報告されています。教室の献立は身近な食材を使い、仮設住宅や災害公営住宅の限られた台所でも作れる簡単なものでした。家では作ったことのない料理を自分で作れたという経験が、料理への自信につながったと著者らは述べています。さらに研究チームは、料理という日常の営みそのものが、震災によって断ち切られた「ふだんの暮らし」の一部と再びつながる機会になっていたと考察しています。

地域のレベルでは、高齢の単身世帯が多い団地において、料理教室を含む自治会の催しが住民同士の見守りの場として機能していたことが報告されました。「今日はあの人が来ていないけれど、どうしたのだろう」と気づき、事情を知るといったやりとりが、孤立や孤独死を防ぐ役割を果たしていたといいます。また、住民が運営側にも関わることで、目的を共有する感覚と協力関係が育まれ、地域のまとまりが強まったことが語られました。研究チームは、家族が支え合う従来の枠組みが失われたなかで、住民が地域のなかに「弱い」つながりを新たに築き、それが地域のレジリエンス(困難のなかで適応し、立て直していく力)を高めたと述べています。

一方で、参加していない住民の側の事情も聞き取られました。通院や仕事、出身町の行事との日程の重なり、脳の手術の後遺症による視力の不調や、他の人と同じ速さで調理すると疲れてしまうといった健康上の制約、そして慣れない場への気後れといった心理的な壁です。参加している住民は、無理に誘うことはできないとしながらも、孤立しないでほしいという思いから声をかけ続けており、著者らはここに、参加の有無を超えた相互のケアの文化が生まれていると指摘しています。

この報告が示すもの

著者らは、住民主体の料理活動が、被災地における長期的な社会的回復の持続可能な土台となりうると結論づけています。元の地域へ戻ることが現実には難しい状況において、日々の暮らしの営みを住民同士の手で築き直していくことが、地域を組み立て直す重要な道筋になりうるという見方です。

またこの研究は、レジリエンスを「災害前の状態に戻ること」とのみ捉える見方への問い直しも含んでいます。下神白団地の住民は、故郷に帰ることが事実上困難な条件のもとで、新しい場所に新しい地域をつくり直してきました。著者らはこれを、元の状態への復旧ではなく、変化した条件に適応しながら形を変えて立て直していく姿として読み解いています。台所をともにするという、ごく日常的な行為の積み重ねが、そうした営みを支えてきたことを、この事例報告は伝えています。

著者:Kanako Sato(Department of Food and Nutrition, Kanazawa Gakuin College)、Toshiya Kuchii(Japan Foundation for AIDS Prevention)、Ai Kuroda(Teikyo University Graduate School of Public Health)、Yuri Kinoshita(Department of Health and Nutritional Sciences, Faculty of Health Sciences, Aichi Gakuin University)、Yoshiharu Fukuda(Teikyo University Graduate School of Public Health)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kanako Sato, Toshiya Kuchii, Ai Kuroda, et al. Perceived contributions of long-term peer-led cooking activities to community resilience: a case study of nuclear evacuees in Fukushima. Frontiers in Public Health 2026-09-24. DOI: 10.3389/fpubh.2026.1784482. 原著ライセンス:CC BY.