スーパーで手に取る鶏肉は、加工の過程で目に見えにくい傷を負っていることがあります。吊り下げ、放血、湯漬け、脱羽、頸部切開、内臓摘出といった一連の処理工程では、器具の操作ミスによって皮膚に細い傷や大きな裂け目ができることがあり、また輸送中の衝突で翼の骨が折れ、鋭く砕けた骨が皮膚を突き破って露出することもあります。皮膚の傷や裂けは保存性に影響し、骨の露出は食品安全上のリスクにもつながるとされています。こうした欠陥の検査は現在も目視に頼る部分が大きく、1時間に何千羽もの鶏肉が流れる処理ラインでは検査員の疲労による見落としが起きやすいという課題があります。この研究は、可視光カメラでは見分けにくいこれらの欠陥を、ハイパースペクトルイメージング(多数の波長帯で撮影する分光画像技術)とAI画像認識モデルの組み合わせで自動検出できるかを検証したものです。

研究チームは食鳥処理場で得られたPhoenix種の鶏の枝肉466羽(表裏合わせて932枚の画像)を対象とし、皮膚の傷373件、皮膚の裂け171件、骨の露出442件を含むデータセットを構築しました。撮影には波長380.2~1020.2nmをカバるハイパースペクトルカメラを使用し、360の波長帯から得られる情報のうち、CARSというアルゴリズムで識別に有効な28の波長帯だけを選び出しました。選ばれた波長帯は主に400~650nmと900~1020nmに集中しており、それぞれヘモグロビンやミオグロビン、たんぱく質、脂肪のC-H伸縮振動、コラーゲンの吸収特性に対応していたといいます。さらに主成分分析(PCA)でこれらの情報を疑似カラー画像に変換し、傷の形や境界を空間的に見分けやすくした上で、物体検出AIモデル「Faster R-CNN」に入力する仕組みを作りました。あわせて走査型電子顕微鏡(SEM)で鶏の胸肉・皮膚・骨の微細構造も観察し、胸肉では筋線維が規則的に並び一部に脂肪浸潤がみられること、皮膚は表皮と真皮からなり滑らかで連続した構造をもつこと、骨は鉱物主体の多孔質な構造であることが確認され、これらがそれぞれの分光特性と対応していることが示されました。

AIモデルの改良で検出精度がどう変わったか

研究チームは、微小で判別しにくい欠陥を見つけやすくするため、Faster R-CNNの特徴抽出部分に「EPSANet50」という軽量なネットワークを組み込み、さらに複数の解像度の特徴を統合する「CE-FPN(チャンネル強化型特徴ピラミッドネットワーク)」を追加しました。改良前後を比較する実験では、基本のFaster R-CNNモデルに比べ、EPSANet50を加えた段階で皮膚の裂けや骨の露出の検出率(リコール)が大きく向上し、さらにCE-FPNを加えた最終モデルでは、骨の露出のリコールが0.033、皮膚の裂けが0.054、皮膚の傷が0.061それぞれ上昇したと報告されています。最終的なモデルでは、すべての欠陥カテゴリで平均適合率(AP)が92%を超え、リコールも91%を上回りました。全体の平均適合率(mAP)は、改良前の80.2%から93.6%まで上昇したとされています。なかでも骨の露出は検出精度92.6%、リコール96.5%、AP94.8%と最も高い成績を示した一方、皮膚の傷と裂けは胸肉との見た目や分光特性が似ているため、骨の露出よりはやや低い数値にとどまったと述べられています。研究チームは、この手法が表面の色合いのばらつきに左右されにくい点も指摘しています。傷や骨露出によって普段は皮膚に覆われている組織が露出すると、その部分特有の分光反応が生じるため、見た目の色そのものよりも組織の生化学的な違いをとらえることで検出精度を保てるとしています。

この研究の位置づけと留意点

この研究は中国・大連工業大学の研究者らによるもので、対象となった鶏肉は特定の食鳥処理場から集められたPhoenix種の枝肉です。論文の要旨と本文で示されている範囲では、日本の食品や研究機関との関わりについての記載は見当たりませんでした。また、著者ら自身も述べているように、今回使用したデータセットはもともと欠陥のある枝肉を中心に構築されたものであり、実際の処理ラインでの正常品との比率とは異なる可能性がある点には注意が必要です。この手法はあくまで実験環境における検証であり、実際の生産現場でそのまま同じ精度が再現されるかは今後の検証課題といえます。研究チームは、この手法が鶏肉に限らず他の食肉・食鳥製品の外観検査にも応用できる可能性を示唆していますが、これは一つの研究による知見であり、結論が確定したものではありません。

まとめ

この研究は、ハイパースペクトルイメージングと改良型AI画像認識モデルを組み合わせることで、目視では判別しにくい鶏肉の皮膚の傷・裂け、骨の露出といった欠陥を高い精度で自動検出できる可能性を示したものです。食品の品質管理における非破壊検査技術の一例として、今後の技術発展が注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Huihui Wang, Siyuan He, Kangyi Ding, et al. Hyperspectral Imaging Combined with Multi-Scale Feature Fusion and Improved Faster R-CNN for Automated Detection of Surface Defects on Chicken Carcasses. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15162775. 原著ライセンス: cc-by.