豚骨ラーメンの中には、酸っぱさと獣くささが際立つ独特な風味を持つ「昔ながらの豚骨ラーメン」と呼ばれる系統がある。この強い香りがどこから生まれるのかは、これまで詳しく解明されていなかった。九州産業大学生命科学部の中山基一氏と米満宗昭氏、理化学研究所バイオリソース研究センターの伊藤隆氏・加藤真悟氏・大熊盛也氏らの研究グループは、この風味の正体を微生物の働きから探る研究を行った。
豚骨スープの「呼び戻し」製法に着目
研究グループがまず注目したのは、酸臭・獣臭の強い「昔ながらの豚骨ラーメン」を提供する店舗の共通点だった。調査の結果、こうした店ではいずれも「呼び戻し」と呼ばれる製法でスープを炊き出していることが分かった。呼び戻し製法とは、前日までに使ったスープの一部を新しいスープに継ぎ足しながら炊き続けるやり方で、いわば発酵食品の「種継ぎ」に近い工程を持つ。この製法が長時間・高温での炊き出しを繰り返す点に着目し、研究グループはスープの中に特殊な微生物が存在するのではないかと考えた。
スープ中に見つかった超好熱性アーキアと香気成分の関係
研究グループは、全ゲノム解析(ホールゲノムシーケンシング)と定量PCRという遺伝子解析の手法を用いて、呼び戻し製法で作られたスープの中身を調べた。その結果、超好熱性アーキア(高温を好む微生物の一群で、細菌ともカビとも異なる分類に属する)の一種であるSulfophobococcus zilligiiがスープ中に存在することが確認された。さらに、この微生物は炊き出しの過程で増殖しており、独特の酸臭・獣臭のもととなる香気成分であるイソ吉草酸とイソ酪酸を産生していることが示唆された。つまり、長時間の高温調理という一見過酷な環境が、この超好熱性アーキアにとってはむしろ増殖に適した条件となり、結果として特徴的な風味を生み出している可能性があるという。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
研究グループは、今回の知見から「昔ながらの豚骨ラーメン」が超好熱性アーキアの関与する発酵食品である可能性を示唆している。ただし、これは特定の店舗のスープを対象とした調査に基づく知見であり、すべての豚骨ラーメンや呼び戻し製法のスープに同様の現象が当てはまるかどうかは、今回の情報だけでは分からない。一つの研究として得られた示唆であり、結論が確定したわけではない点には留意したい。
まとめ
今回の研究は、日本の食文化に根づいた豚骨ラーメンという身近な料理の中に、高温を好む珍しい微生物が関わっている可能性を示した点で興味深い。今後、他の店舗や製法での検証が進めば、発酵食品としての豚骨ラーメンの理解がさらに深まることが期待される。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Motokazu Nakayama, Takashi Itoh, Shingo Kato, et al. 昔ながらの九州豚骨ラーメンの風味生成には超好熱アーキアが関与する. 日本食品科学工学会誌 (2026). DOI: 10.3136/nskkk.nskkk-d-25-00049.