お米に含まれるタンパク質やアミノ酸の量は、栄養価だけでなく、食味や加工適性にも関わる重要な要素です。しかし、これらを正確に測定するには、これまでサンプルを化学的に分解・分析する『破壊検査』が必要で、手間と時間がかかり、多くの品種を一度にスクリーニングするのには向いていませんでした。もし、お米の粒を壊さずに光を当てるだけで、その栄養成分をすばやく推定できたら――そんな発想から生まれたのが、今回紹介する研究です。
研究チームは、可視/近赤外・短波赤外(VNIR-SWIR)と呼ばれる波長帯を使った『ハイパースペクトルイメージング』という技術に着目しました。これは、米粒に光を当てて反射してくる光の波長ごとの特徴(スペクトル)を画像として記録する方法で、対象物を傷つけずに内部の成分情報を捉えられる可能性があります。研究では261種類の米品種を対象に、このスペクトルデータから粗タンパク質(CP)、総アミノ酸(TAA)、そして17種類の個別アミノ酸を同時に予測できるかどうかが検討されました。
研究でわかったこと
まず、スペクトルデータのノイズを補正する『乗法散乱補正』や『一次微分変換』といった前処理と、ElasticNetという統計手法を組み合わせた場合、単一の成分を予測する基本モデルとして最も高い性能が得られたと報告されています。
さらに研究チームは、複数の成分を同時に予測する『マルチタスク回帰(MTR)』という手法を試したところ、予測精度がわずかに向上したとされています。具体的には、独立した予測用データでの決定係数(R²、予測の当てはまりの良さを示す指標)の平均値が0.723から0.740へと上昇しました。また、データの分け方を変えて繰り返し検証する『10×5の入れ子式交差検証』でも、同様にMTRの優位性が確認され、平均R²は0.722から0.741へと安定的に向上したとされています。
予測精度の実用的な目安とされる『RPD(残差予測偏差)』が2.0以上となった成分の数は、8個から11個に増えたと報告されています。中でも、粗タンパク質、総アミノ酸、グルタミン酸、セリン、プロリンについては、R²が0.80以上、RPDが2.5以上という比較的高い精度に達したとされています。また、予測に関連が深いとされた波長帯は970、1450、1900、2050、2180nm付近で、水分や有機物、タンパク質やアミド結合に関連する吸収と関係する可能性があるものの、これはあくまで統計的な関連であり、特定のアミノ酸との直接的な因果関係を示すものではない、と研究チームは慎重に述べています。
さらに興味深い試みとして、米で構築したモデルを大豆のデータに適用する『転移検証』も行われました。その結果、粗タンパク質については比較的良好な性能を示した一方で、総アミノ酸や個々のアミノ酸の多くについては、大まかなスクリーニングや傾向の推定にとどまる程度の精度だったと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ハイパースペクトルイメージングという非破壊計測技術が、米の栄養品質評価における『研究段階の予備スクリーニング手法』として活用できる可能性を示すものと位置づけられています。論文中でも、波長と成分の関連はあくまで統計的な対応関係であり、特定のアミノ酸を直接的に測定していると断定できるものではないと注意が促されています。また、大豆への転移検証についても、粗タンパク質以外の項目では精度が限定的だったことが述べられており、あらゆる作物・成分に同じ精度で適用できるわけではなさそうです。この記事で紹介したのは一つの研究の内容であり、実際の品種改良や品質管理の現場に導入されるまでには、さらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
米粒を壊さずにタンパク質やアミノ酸組成を推定できれば、品種改良や品質評価の効率化につながるかもしれません。今回紹介した研究では、可視/近赤外・短波赤外のハイパースペクトルイメージングとマルチタスク回帰を組み合わせることで、粗タンパク質や総アミノ酸をはじめとする複数の成分について、一定の予測精度が得られたことが報告されています。今後、こうした非破壊評価技術がどのように発展し、実用化に近づいていくのか、注目されるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:VNIR-SWINハイパースペクトルイメージングと大豆への転移検証を用いた米アミノ酸栄養品質の非破壊評価(エルダブリューティー(LWT)・2026年08月)