著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられがちなたんぱく質と、褐変という課題

サツマイモは世界で広く栽培される作物で、収穫量の約半分はでんぷんの抽出に使われています。でんぷんを取り出す工程では、水に溶けたたんぱく質などを含む排水が生じます。論文によると、この排水は貴重な生物資源の損失になり、環境汚染の一因にもなっています。サツマイモのたんぱく質は必須アミノ酸のバランスがよく、食品素材としての利用が期待されています。

ただし、サツマイモにはポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素が含まれています。PPOはポリフェノールを酸化し、切ったイモが茶色くなる褐変を引き起こします。この反応でできる物質はたんぱく質とも結びつき、栄養面や機能面での価値を損なうおそれがあります。PPOを抑える方法には、加熱や、アスコルビン酸(ビタミンC)、亜硫酸系の保存料であるメタ重亜硫酸ナトリウムの使用があります。しかし、これらの処理がたんぱく質そのものの構造や働きをどう変えるのかは、まだ十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、PPOを抑える処理の違いが、副産物から回収したたんぱく質の構造と機能にどう影響するかを調べました。機能としては、水への溶けやすさ、油と水を混ぜ合わせる乳化の力、抗酸化性に注目しています。

処理条件をそろえて比較する

研究チームは、皮をむいて約1センチ角に切ったサツマイモを、次の4条件の液に180秒浸しました。25℃のアスコルビン酸溶液、25℃のメタ重亜硫酸ナトリウム溶液、50℃のアスコルビン酸溶液(加熱と酸の組み合わせ)、そして添加物なしの対照です。

比較を公平にするため、各処理のPPO抑制の程度がほぼ同じ約50%になるように条件が調整されました。実測値は約50〜54%で、処理間に統計的な差はありませんでした。こうすることで、その後に見られる違いを、酵素の抑え方の強弱ではなく処理の種類によるものと考えられるようにしています。

処理したイモは水と一緒に粉砕し、でんぷんを沈殿させました。残った上澄み、つまりでんぷん排水を酸性にしてたんぱく質を沈殿させ、回収しています。得られた抽出物について、粒子の表面電荷や大きさ、たんぱく質の立体構造、加熱に対する安定性、酸化の程度を測定しました。さらに、溶解性、乳化性、抗酸化性も調べました。

処理によって構造と働きが変わった

メタ重亜硫酸ナトリウムで処理した試料は、中性付近で粒子表面の負の電荷が対照より強くなりました。粒子の大きさも、対照の約238ナノメートルに対して約151ナノメートルと小さくなりました。粒子同士が反発し合い、固まりにくくなったと解釈されています。一方、たんぱく質の立体構造の一部であるαヘリックスという規則的ならせん構造の割合は、対照の28%から20.5%に減りました。加熱で構造をほどくのに必要なエネルギーも最も小さくなっており、構造の一部がゆるんだことが示されました。

25℃のアスコルビン酸処理では、抽出物中のたんぱく質濃度が約20.5%にとどまりました。ほかの試料の約37〜39%と比べて大幅に低い値です。ポリフェノール量も最も少なく、溶解性も全体に低めでした。研究チームは、たんぱく質が沈殿しやすい酸性度がわずかにずれたことで、回収効率が下がった可能性を挙げています。それでも、乳化の力を示す指標は対照の7.56から11.83平方メートル毎グラムへと高まりました。

最も目立った結果を示したのは、50℃のアスコルビン酸処理です。αヘリックスの割合は対照と同程度に保たれていました。一方で、酸化を受けていない目安となる遊離のチオール基(SH基)は最も多くなりました。中性での溶解性は約68%と最も高く、乳化性も全試料の中で最も優れていました。この抽出物で作った乳化液は、24時間後も油滴の大きさがほとんど変わらず、大きさのばらつきはむしろ小さくなりました。これに対し対照では、油滴の平均的な大きさが約2倍になりました。ばらつきも大きく広がり、油滴同士が合体していく様子が見られました。抗酸化性も、対照の565から866(トロロックス換算、マイクロモル毎リットル)へと高い値を示しました。

すべての処理試料は、遊離のチオール基が対照より多くなりました。また、たんぱく質が溶けにくくなる酸性域での溶解性の落ち込みも、対照よりなだらかでした。研究チームは、処理によってたんぱく質が固まりにくくなったと解釈しています。

褐変を防ぐ工程が、素材の性質も左右する

この研究が示しているのは、PPOを抑える処理が単に褐変を防ぐだけではないということです。処理の選び方によって、回収されるたんぱく質の構造や、溶けやすさ、乳化性、抗酸化性まで変わり得ます。著者らの実験条件では、穏やかな加熱とアスコルビン酸を組み合わせた処理で、構造を比較的保ちながら機能面の性質が高まるという結果が得られました。

でんぷん製造の副産物として失われがちなたんぱく質を食品素材として生かすには、どの工程条件を選ぶかが重要です。この研究は、その手がかりとなる比較データを示しています。

原著論文の著者・所属:Isabella de Almeida Pina(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (Unicamp) Campinas Brazil)、Ana Clara Troya Raineri Fiocco(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (Unicamp) Campinas Brazil)、Isabela Simões Soares(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (Unicamp) Campinas Brazil)、Carolina Siqueira Franco Picone(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (Unicamp) Campinas Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Isabella de Almeida Pina, Ana Clara Troya Raineri Fiocco, Isabela Simões Soares, et al. Processing Strategies to Enhance the Structural and Functional Properties of Proteins From Sweet Potato By‐Products. Journal of Food Science 2026-10-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71544. 原著ライセンス:CC BY.