著者の所属・活動拠点の国は、マレーシア、バングラデシュです。
掲載誌:European Food Research and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられてきた皮や種に注目した理由
マンゴーは世界で年間5500万トンを超えて生産され、多くがジュース、ピューレ、濃縮物、乾燥品などに加工されています。著者らによると、その過程で出る皮、種の中身(種子の仁)、搾りかすは果実全体の重さの約35〜60%に達することがあります。食物繊維や生理活性成分を多く含むにもかかわらず、その多くは廃棄されています。
一方で、腸内細菌が代謝や免疫、腸のバリア機能に関わることが分かってきました。そのため、有益な腸内細菌を選んで増やす食品成分である「プレバイオティクス」への関心が高まっています。代表的なプレバイオティクスはイヌリンやフラクトオリゴ糖ですが、比較的単純な糖の発酵に基づいています。著者らは、多糖類とポリフェノール(植物に含まれる色素や渋み成分の仲間)を併せ持つ植物素材であれば、腸内細菌に多面的に働きかける可能性があると考えました。
この論文は、新たな実験を行った研究ではなく、既存の研究成果を集めて検討した総説です。マンゴー副産物の成分と構造、加工方法による違い、腸内細菌に作用する仕組み、食品への応用、そして残された課題を批判的に整理しています。
成分の違いと加工による変化
総説によれば、副産物の部位ごとに成分の特徴が異なります。皮は食物繊維とペクチン(約5〜11%)に富み、ポリフェノールも多く含みます。種子の仁にはデンプンが多く、消化されにくい「レジスタントスターチ」も含まれます。搾りかすの性質は、搾汁や乾燥の条件によって変わります。ポリフェノールとしては、マンギフェリン、没食子酸、エラグ酸などが報告されています。
ペクチンは、分子の大きさや枝分かれの構造によって腸内細菌の利用しやすさが変わります。枝分かれ部分にはアラビノースやガラクトースといった糖の側鎖が多く、細菌が利用しやすくなるとされています。著者らは、このうちアラビノースがビフィズス菌の一種の増殖に大きく影響すると報告されていることも紹介しています。また、品種、熟度、産地、加工条件の違いによって成分や構造がばらつくことも指摘しています。
加工については、酵素でペクチンを適度に分解してペクチンオリゴ糖にすると、発酵されやすくなると整理しています。ただし分解しすぎると構造の複雑さが失われ、大腸で長く発酵が続く性質が損なわれるおそれがあります。著者らはここに「細菌の利用しやすさ」と「構造の保持」のトレードオフがあるとし、抽出を制御したうえで狙いを絞った酵素処理を組み合わせる方法が有望だと述べています。
腸内細菌への働きかけの仕組み
総説では、マンゴー由来の食物繊維やオリゴ糖は小腸までで消化されにくく、大腸に届いて腸内細菌に発酵されると説明しています。報告されている内容には、ビフィズス菌や乳酸菌の増加、酢酸・プロピオン酸・酪酸といった短鎖脂肪酸の産生があります。ある菌が分解した産物を別の菌が利用する「クロスフィーディング」と呼ばれる菌同士の連携も挙げられています。
マンゴー副産物ならではの特徴として、著者らは食物繊維とポリフェノールが共存している点を強調しています。食物繊維に結合したポリフェノールは、大腸で細菌によって切り離され、より小さな代謝物に変換されます。大腸での発酵を時間を追って分析した研究では、初期には複雑なポリフェノールが検出され、後になるほど低分子の化合物や細菌の代謝物が現れていました。ウロリチンAの生成も確認されています。
ただし著者らは、国際的な合意によるプレバイオティクスの定義(宿主の微生物に選択的に利用され、健康上の利益をもたらす物質)に照らして区別を示しています。この定義に当てはまるのはペクチンやペクチンオリゴ糖などの食物繊維です。ポリフェノールについては、プレバイオティクスとみなすにはさらなる根拠が必要だとしています。
食品への応用と、慎重に読むべき点
食品への応用例として、総説はいくつかの報告を紹介しています。マンゴーの皮の食物繊維を最大6%加えたビスケットは、好ましい官能特性(味や食感などの評価)を保ちながら、食物繊維と抗酸化成分が増えました。皮の粉末をパンに加えた研究では、5%が官能・物理・栄養の各特性を損なわない最適な配合量とされました。皮の粉末を5%加えたマカロニでは受け入れやすさが良好で、抗酸化作用の向上を通じて栄養面の質が高まり、種子の仁の粉を2.5%加えたパスタでも抗酸化能と栄養価の向上が報告されています。一方で、ポリフェノールは苦味や渋み、色や食感の変化を招くことがあるため、配合量のバランスが重要だとしています。
著者らは課題も明確に示しています。腸内細菌への効果に関する根拠の多くは、試験管内の発酵実験や動物実験から得られたものです。人を対象とした研究は限られています。有益菌や短鎖脂肪酸の増加がそのまま健康効果を意味するとは確かめられておらず、過大に解釈するおそれがあると注意を促しています。また、イヌリンなど既存のプレバイオティクスと直接比べた研究が少ないこと、原料のばらつき、高度な加工にかかるコスト、新しい成分の安全性評価の必要性も挙げられています。
この総説から伝わるのは、廃棄されてきたマンゴーの皮や種が、食物繊維とポリフェノールを併せ持つ素材として腸内細菌に多面的に働きかける可能性を持つということです。同時に、その可能性はまだ主に実験室や動物での知見にとどまっており、信頼できる食品素材とするには成分の標準化と人での検証が欠かせない、という現状も示されています。
原著論文の著者・所属:L. T. Mohamad Arif Rahmat Teo(https://ror.org/00xmkb790 grid.430704.4 0000 0000 9363 8679 Faculty of Chemical Engineering and Technology Universiti Malaysia Perlis Arau Perlis Malaysia)、R. Nordin(https://ror.org/00xmkb790 grid.430704.4 0000 0000 9363 8679 Faculty of Chemical Engineering and Technology Universiti Malaysia Perlis Arau Perlis Malaysia)、N. S. A. Abidin(https://ror.org/00xmkb790 grid.430704.4 0000 0000 9363 8679 Faculty of Chemical Engineering and Technology Universiti Malaysia Perlis Arau Perlis Malaysia)、N. Nahar(https://ror.org/00w9tx359 grid.442967.a 0000 0004 0387 2947 Department of Pharmacy, Faculty of Pharmaceutical Sciences University of Science and Technology Chittagong Chittagong Bangladesh)、N. S. Mohd Isa(https://ror.org/02474f074 grid.412255.5 0000 0000 9284 9319 Department of Food Science, Faculty of Fisheries and Food Science Universiti Malaysia Terengganu Kuala Nerus 21030 Kuala Terengganu Terengganu Malaysia)、I. N. Madzuki(https://ror.org/00xmkb790 grid.430704.4 0000 0000 9363 8679 Faculty of Chemical Engineering and Technology Universiti Malaysia Perlis Arau Perlis Malaysia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):L. T. Mohamad Arif Rahmat Teo, R. Nordin, N. S. A. Abidin, et al. Valorization of mango by-products into prebiotic ingredients: a critical review on functional properties and gut microbiota modulation mechanisms. European Food Research and Technology 2026-10-20. DOI: 10.1007/s00217-026-05299-y. 原著ライセンス:CC BY.