みかんを食べたあと、皮は当たり前のように捨てられている。しかしこの皮には、食物繊維やポリフェノールをはじめとする成分が多く含まれていることが、これまでの研究で分かってきた。ロシア・カザン国立研究工科大学のグループが2026年8月発行予定の学術誌「フードシステムズ」に発表したレビュー論文は、2005年から2025年までのGoogle Scholar上の文献を対象に、みかんの皮を粉末にして食品に混ぜ込む研究を世界規模で整理したものだ。

背景として論文が示すのは廃棄物の規模の大きさだ。かんきつ類はバナナ・りんごに次いで世界で3番目に多く栽培されている果物で、みかん類(マンダリン)は2025年シーズンの総収穫量が3814万トンを超え、中国が2710万トンで世界最大の生産国、次いでEU、トルコ、モロッコ、アメリカ、南アフリカが続くという。果肉を搾ったあとに出る皮は世界で年間数百万トン規模にのぼり、その多くは埋め立て処分され、腐敗する過程で温室効果ガスの発生源にもなっていると指摘されている。

みかんの皮には何が含まれているのか

論文がまず整理しているのは、生のみかんの皮の成分データである。炭水化物80.1±2.87%、食物繊維7.21±0.03%、たんぱく質4.39±0.02%、各種酸3.36±0.05%、カロテノイド2143±25.24µg/g、タンニン2±0.2mg/kg、アスコルビン酸(ビタミンC)28±1.94mg/100g、灰分4.92±0.03%という数値が報告されている。さらにポリフェノール性の化合物として、カフェ酸・p-クマル酸・フェルラ酸・シナピン酸などのフェノール酸や、フラボノンのナリンギンとヘスペリジン、ポリメトキシフラボン類のノビレチンやタンゲレチンが挙げられている。品種による違いも紹介されており、たとえば温州みかん(Citrus unshiu Marc.)の皮を超音波処理で抽出したものではフェルラ酸が乾物あたり1513.2µg/gと突出して多かった一方、キノウ種(Citrus reticulata var. kinnow)をマイクロ波処理した抽出物ではクマル酸が830.27µg/g、フェルラ酸が2386.0µg/gと、抽出方法や品種によって含有量が大きく変わることが示されている。糖の構成についても、ポンカン(Citrus reticulata Blanco cv. Ponkan)の皮の熱水抽出物ではアラビノースやガラクトースがそれぞれ17%台を占めるとのデータが紹介されている。皮に含まれる精油はリモネンを主成分とし、モノテルペン類が全体の約97%を占めるとされ、抗菌・抗酸化作用を持つことから食品の保存性向上にも利用されているという。

実際にどんな食品への応用が試されてきたか

論文がもっとも紙幅を割いているのが、パンや菓子類への応用例だ。キノウ種の皮粉末を小麦粉に対し0〜3%置き換えてパンを作った実験では、粉末の添加によって生地の吸水率が60〜67%向上し、焼成時の目減りは減った一方、パンの比容積は小さくなり、クラムの硬さは5.41〜9.39ニュートンまで上昇したと報告されている。同時に総フェノール量やフラボノイド量、カロテノイド量は増え、抗酸化性も高まったとされ、粉末を2%添加したパンが官能評価で最も好まれたという結果が示されている。ビスケットへの応用では、皮粉末を3〜9%配合した半甘味ビスケットで、6%配合品が対照品と遜色ない評価を得たとする研究や、10%配合したクラッカーを動物実験で与えたところ血糖値や血清脂質、肝腎機能の指標が改善したとする報告も紹介されている。ケーキ類では、キノウの皮を95℃で2〜8分間湯通し(ブランチング)してから使う工程の効果や、粒度を180マイクロメートル未満に細かくすることで生地の物性が変わることなど、加工条件による違いも細かく取り上げられている。

菓子・製菓以外では、豚肉カツのソースに乾燥みかん皮粉末を配合してDPPHラジカル消去活性(抗酸化力の指標)が高まったという報告、牛肉パティにみかんの搾りかす抽出物を加えて色や脂質酸化、微生物の増殖を抑える効果を調べた研究、レモン・みかん・オレンジの皮の精油を加えたアイスクリームで大腸菌やサルモネラ属菌などの検出結果を確認した研究などが紹介されている。飲料や保存食への応用としては、みかんの皮由来のカプセル化した精油やエキスを加えた野菜ジャム、皮の搾りかすを使ったリキュール、複数の果物・野菜の皮などを組み合わせたハーブティーの試作例なども取り上げられている。

この研究をどう読むか

この論文はみかんの皮を使った新しい実験を行ったものではなく、世界各国で発表された既存の研究を集めて整理した「レビュー(総説)」である。そのため、ここで紹介されている数値や効果は、それぞれ異なる品種・加工条件・評価方法のもとで得られた個別研究の結果であり、一つの結論として一般化できるものではない。論文自身も、皮の粉末を加えることで栄養面や官能評価が「多くの場合」改善したとまとめる一方、添加量が多すぎると味や食感が損なわれる例(ビスケットで10%超の配合は味の面で受け入れがたいとされた研究など)があることにも触れている。かんきつの皮の活用は食品廃棄物の削減という観点からも注目されているテーマだが、特定の効能を保証するものではなく、今後さらに個別の実証研究が積み重ねられていく分野といえる。

今回のレビューでは日本の研究機関に所属する著者や、日本国内での応用に関する記述は含まれていない。

みかんの皮というありふれた「食べ残し」に、食物繊維やポリフェノールをはじめとする成分が多く含まれ、パンや菓子、肉・乳製品、飲料など幅広い食品への応用が世界各地で試みられてきたことを、このレビューは整理して示している。今後、廃棄物削減と食品開発の両面から、こうした研究がどのように発展していくか注目される。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:K. I. Shaykhieva, Natalia V. Kraysman, И Г Шайхиев. The use of tangerine peel as a component in food products. フードシステムズ (2026). DOI: 10.21323/2618-9771-2026-9-2-241-246. 原著ライセンス: cc-by.