スーパーや市場で売られているきのこの中には、流通過程で防腐目的の薬剤処理が行われているものがあるとされます。なかでもホルムアルデヒドは反応性の高い化学物質で、細胞毒性や変異原性、発がん性が知られている一方、栽培きのこにはごく低濃度で自然に含まれる場合もあり、通常の食事の範囲ではリスクは小さいとする報告もあります。こうした薬剤処理が、きのこに含まれる成分やその働きにどう影響するのかは、これまで十分に調べられていませんでした。インドのサルダール・パテル・マハビディヤラヤ大学(ゴンドワナ大学)微生物学教室の研究者らは、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)とマッシュルーム(Agaricus bisporus)を対象に、この関係を探る予備的な実験を行い、バイオナチュラ・ジャーナルに2026年8月号への掲載が予定されています。
「処理済み」と「未処理」、どう比べたのか
研究チームは、インド・マハーラーシュートラ州の業者(GBSマッシュルームズ・アンド・アグロビジネス社)から、業者自身が「ホルムアルデヒド処理済み」または「未処理」として分類した市販のヒラタケとマッシュルームを入手しました。ここで重要なのは、実際にホルムアルデヒドがどの程度残っているかを研究者側が化学分析で確認したわけではなく、あくまで業者の申告に基づく分類だという点です。
各きのこを乾燥・粉末化した後、水、エタノール、メタノールの3種類の溶媒で抽出液を作成しました。これらの抽出液について、アルカロイド、フラボノイド、フェノール化合物、タンニン、サポニン、強心配糖体という6種類の植物由来成分(フィトケミカル)が含まれるかどうかを、色の変化や沈殿の有無で判定する定性的な試験にかけました。さらに、大腸菌(Escherichia coli)に対する抗菌活性を、寒天平板に穴を開けて抽出液を入れる「アガーウェル拡散法」で調べたほか、水抽出液については、菌の濁りが生じなくなる最小の添加量(研究チームが独自に設定した「最小発育阻止体積」という指標)も調べました。
未処理の方が陽性反応・阻止円ともに大きかった
フィトケミカルの検出結果を見ると、両種・3溶媒・6成分の組み合わせ(合計36通り)のうち、未処理サンプルでは30件が陽性だったのに対し、処理済みサンプルでは21件の陽性と2件の微弱な陽性(トレース)にとどまりました。特に差が目立ったのはヒラタケの水抽出液で、未処理では6成分中5成分が陽性だったのに対し、処理済みでは陽性1件・トレース1件のみでした。一方、エタノール抽出液では両種とも処理済み・未処理で反応パターンに変化が見られませんでした。
大腸菌に対する阻止円(薬剤が細菌の増殖を抑える範囲)の直径を比べると、水・エタノール・メタノールいずれの溶媒でも、両種すべての組み合わせで処理済みサンプルの阻止円が未処理より小さいという結果でした。特に水抽出液では、ヒラタケが未処理16.00mm・処理済み11.67mm、マッシュルームが未処理15.00mm・処理済み13.33mmと、両種を通じて水抽出液が最も大きな阻止円を示しました。逆にメタノール抽出液は両種で最も小さい阻止円でした。また、水抽出液の菌増殖が止まる最小体積は、両種とも未処理で50マイクロリットル、処理済みで100マイクロリットルとなり、処理済みの方がより多い量を必要としました。
この結果をどう読むべきか
著者らは、これらの結果を「処理の有無と成分・抗菌活性の違いに関連が見られた」という記述にとどめ、ホルムアルデヒド処理が原因でこの違いが生じたと断定はしていません。理由として、処理の有無が業者の申告のみに基づいており残留濃度を化学的に確認していないこと、抽出液の濃度を標準化していないこと、独立した複数のロットではなく同一の抽出液から得た技術的な繰り返し測定(3回)にとどまり統計的な検定を行っていないこと、溶媒のみの対照や抗生物質などの陽性対照を置いていないこと、使用した大腸菌株の詳細も記録されていなかったことなどを、自ら研究の限界として挙げています。また、ホルムアルデヒドがアミノ酸やタンパク質と反応して構造を変化させうることは化学的に知られているものの、今回の実験ではそうした反応が実際に起きたかどうかを直接確認したわけではないとも述べています。著者らは、この研究を「その後の厳密な検証研究につなげるための、仮説を提示する予備的な比較」と位置づけています。
まとめ
ヒラタケとマッシュルームを対象にしたこの探索的研究では、業者が「ホルムアルデヒド処理済み」とした市販サンプルは、「未処理」とされたサンプルに比べて、検出される植物由来成分の陽性反応が少なく、大腸菌に対する抗菌活性の指標(阻止円の大きさや最小発育阻止体積)も弱い傾向が見られました。ただし、これは一つの探索的な研究による関連性の指摘であり、ホルムアルデヒド処理が原因で成分や抗菌活性が変化すると結論づけられたわけではありません。今後、残留濃度を実際に測定し、独立した複数ロットや標準化された抽出条件、適切な対照群を用いた研究で確認する必要があるとされています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Naina Gadpelliwar, Vaishali Thool. Association of Supplier-Reported Formaldehyde Treatment Status with Phytochemical Profiles and Antibacterial Activity of Pleurotus ostreatus and Agaricus bisporus: An Exploratory Study. バイオナチュラ・ジャーナル (2026). DOI: 10.70099/bj/2026.03.03.14. 原著ライセンス: cc-by.