この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Priviet Social Sciences Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

インスタント麺やスナック菓子、加糖飲料、冷凍食品といった「超加工食品」は、工業的に配合された原材料や添加物を用いて作られ、手軽さ・おいしさ・安さ・日持ちのよさを最大化するよう設計された食品を指します。著者らによれば、こうした食品の消費増加は世界的な公衆衛生上の課題となっており、とくに急速な「栄養転換」——伝統的で加工度の低い食事から、商業的に製造された食品が中心を占める食事へと移っていく変化——のさなかにある低・中所得国で問題になっています。

これまでの研究の多くは都市部の集団を対象にしてきました。論文が指摘する研究の空白は、経済的な変容を経験している農村部で、構造的な条件が思春期の若者の超加工食品の消費にどう影響しているかがほとんど検討されてこなかった点にあります。そこで研究チームは、インドネシア東ジャワ州マラン県のグヌン・カウィ村を取り上げました。この村は宗教的な巡礼地として知られる農村の観光地で、観光を通じた経済成長とともに飲食の売店や商店、小売店が急速に増えてきた場所です。

分析の枠組みとして、著者らはH・L・ブルムの「健康の決定要因」の枠組みを用いています。これは健康のありようを、環境・生活様式・保健医療サービス・生物学的要因という四つの要因の相互作用としてとらえる考え方です。さらに、企業の販売戦略や市場の構造が人々の健康行動に及ぼす影響に注目する「健康の商業的決定要因」の視点を組み合わせました。

どのように調べたか

研究は質的記述的なデザインで行われました。2025年5月から8月にかけて、マラン県ウォノサリ郡で現地調査が実施されています。参加者は目的的サンプリングにより選ばれた計30名で、13〜17歳の中高生5名、農業や観光に従事する共働き世帯の保護者12名、村の食堂(ワルン)や学校の売店、移動販売の業者ら10名、地域の保健センター職員と保健ボランティア3名という構成です。

データは、深層インタビュー、フォーカス・グループ・ディスカッション、参与観察、そして二次資料の四つの経路から集められました。グループ討論は立場の違いによる力関係を避けるため、若者・保護者・販売者と保健職員の三つに分けて実施されています。観察は学校の売店、村のワルン、伝統的市場、共同体の集まりなど、食にかかわる場で計40時間行われました。録音はジャワ語とインドネシア語で書き起こされたうえで英訳され、NVivo 14を用いて、ブルムの四要因に沿った演繹的なコードと、現地固有の事象をすくい上げる帰納的なコードを組み合わせて主題別に分析されています。

報告された主な結果

著者らが最も顕著な要因として挙げたのは、環境でした。インスタント麺、袋菓子、加糖飲料、冷凍食品などが、食料品店や路傍の売店、学校の売店、巡礼・観光エリア周辺の屋台で広く手に入る状態にあったと報告されています。伝統的な食品も市場や家庭には残っていますが、商業的な小売の場では目につきにくく、調理に手間がかかります。観光業の拡大にともない、販売者は訪問客の好みに合わせて品ぞろえを広げ、包装食品の取り扱いが増えたといいます。学校の近くの店では、インスタント麺や袋菓子、瓶入り飲料、菓子類が目立つ位置に並べられ、生鮮果物や加工度の低い食品の棚は相対的に小さかったと観察されました。

生活様式の面では、若者たちが超加工食品を「実用的で、安く、おいしく、すぐ手に入る」ものとして語ったことが報告されています。学校で長時間を過ごし、放課後には家業の農作業や観光関連の仕事を手伝う若者にとって、調理の手間がほとんどかからず短時間で食べられることが重要な条件になっていました。

同時に著者らは、共同体の食のあり方の変化にも注目しています。バリカンやスラマタンと呼ばれるジャワの伝統的な共同儀礼は、祈りのあとに食事を用意して家族や近隣と分かち合うもので、村では今も定期的に営まれています。ただし参加者によれば、若い世代は行事に参加はするものの調理を手伝うことは少なくなり、手軽さを理由にケータリングを注文する家庭が増えているとのことです。一方で、ウラップウラップのように、象徴的・文化的な意味を担うために市販の料理では置き換えられない料理は、慣習的・宗教的な意味合いの強い儀礼では今も欠かせないものとして守られていました。

保健医療サービスについては、既存の栄養関連の取り組みが母子保健、予防接種、衛生、感染症、発育阻害(スタンティング)の予防に主眼を置いており、思春期の食習慣や超加工食品のリスクを扱う教育活動は限られていると保健従事者が述べています。家庭の側では、保護者が仕事の都合と疲労のなかで、安価で調理が容易なインスタント麺や冷凍食品に頼る様子が語られました。著者らは、経済的・時間的な制約が世帯を安価な加工食品への依存へと向かわせる状況を「手ごろさの罠(affordability trap)」と呼び、家庭内でこうした食品が日常として定着していくことが、子どもの食の好みを早い時期から形づくっていると論じています。

この研究が示すこと

著者らの結論は、若者の超加工食品の消費は個人の食の好みや知識だけで説明できるものではなく、商業化が進む食環境、世帯の経済状況と時間の余裕、保健サービスの重点の置き方、そして家庭の食習慣という複数の要因が互いに補強し合った結果として現れている、というものです。ブルムの枠組みと健康の商業的決定要因を組み合わせたことで、構造的な条件と行動が絡み合うさまが描き出されました。

そのうえで論文は、インドネシアで進行中の栄養転換に対しては、農村の食環境の改善、栄養教育の強化、より健康的な家庭の食の実践への支援を含む、複数の部門にまたがる働きかけが必要だと述べています。都市だけの問題として語られがちだった食の変化が、観光と商業の広がりを通じて農村の日常にも及んでいること——この研究が伝えているのは、まずその事実に目を向ける必要がある、ということです。

著者:Henny Rosalinda(Department of International Relations, Faculty of Social and Political Sciences, Universitas Brawijaya)、Rany Purnama Hadi(Department of International Relations, Faculty of Social and Political Sciences, Universitas Brawijaya)、Adhi Cahya Fahadayna(Department of International Relations, Faculty of Social and Political Sciences, Universitas Brawijaya)、Primadiana Yunita(Department of International Relations, Faculty of Social and Political Sciences, Universitas Brawijaya)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Henny Rosalinda, Rany Purnama Hadi, Adhi Cahya Fahadayna, et al. The political economy of rural nutrition transitions: Ultra-processed foods, social eating dynamics, and local health governance in Kawi Mountain Village, East Java. Priviet Social Sciences Journal 2026-08-31. DOI: 10.55942/pssj.v6i8.2219. 原著ライセンス:CC BY.