この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Food Composition and Analysis
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
総量だけでは分からない栄養価
キノコはタンパク質や炭水化物に加え、鉄や亜鉛といった微量元素を含む食材として注目されています。ただし研究チームは、食品に含まれる元素の「総量」を測っただけでは、実際にどれだけ体に利用されうるかは分からないと指摘します。消化の過程で食品のかたまりから溶け出し、吸収されうる状態になった割合を「バイオアクセシビリティ(生体利用可能性)」と呼びます。この割合は、食品のかたまりの性質や、食物繊維・フィチン酸・ポリフェノールといった吸収を妨げる成分の有無などによって大きく変わります。
著者らによれば、ブラジルの大西洋岸森林は食用キノコの種が豊富な地域ですが、そこに産する野生種について、微量元素の総量と消化後に溶け出す割合を合わせて調べた報告は不足していました。そこで本研究は、この知識の空白を埋めることを目的として、食用および薬用として利用されるキノコ5種を対象に、クロム、銅、鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛の6元素を調べました。
人の消化を試験管内で再現して測る
研究チームは、国際的に標準化され広く用いられている「INFOGEST 2.0」という手順に沿って、人の消化を試験管内で模擬しました。具体的には、乾燥・粉砕したキノコ試料を、まず唾液に相当するアミラーゼ入りの人工液で処理し、次にペプシンとリパーゼを加えた胃液相当の液(pH3.0)で37℃・2時間、続いてパンクレアチンと胆汁を加えた腸液相当の液(pH7.0)で同じく37℃・2時間処理しました。その後、酵素が働かない温度まで冷やして消化を止め、遠心分離とろ過を経て得られた液の中の元素量を測定しています。
元素の定量には、マイクロ波誘導プラズマ発光分光分析(MIP-OES)という装置を用いました。著者らはこの手法について、プラズマを起こす気体に大気から取り出した窒素を使えるため運用しやすく、検出感度も十分だと説明しています。分析の妥当性は、検出限界や添加回収試験に加え、溶け出した分と残渣に残った分の合計が総量と一致するかを確かめる「物質収支」によって確認されました。なお著者らは、この試験管内モデルが推定するのは消化管内での放出であって吸収そのものではないため、栄養面の解釈は慎重に行うべきだと述べています。
対象となったのは、大西洋岸森林域(サンパウロ州・パラナ州)に由来する食用種と、ブラジル国内で流通する薬用種です。試料の一部は木材を分解する性質を持ち、土壌ではなく特定の木質基質で栽培されたものでした。著者らは、市販の薬用種や野生採集標本については基質や気候条件を個別に測定していないことを、生態学的な解釈上の限界として明記しています。
元素ごとに大きく異なった溶け出し方
報告によれば、溶け出した割合は元素と種の組み合わせによって11.50%から85.17%まで幅がありました。つまり、同じキノコでも元素によって、また同じ元素でも種によって、消化後に利用されうる量は一様ではないということです。
特に対照的だったのが鉄とマンガン・クロムです。鉄は総量としては高い値を示したにもかかわらず、推奨1日摂取量(RDI)に対する寄与は1.3〜3.0%にとどまりました。一方でマンガンとクロムは消化管内での放出が高く、それぞれ推奨1日摂取量の最大39.4%、44.3%に相当する量が溶け出したと報告されています。総量の多さが、そのまま摂取への貢献の大きさを意味するわけではないことが数値としてはっきり示された形です。
著者らは、溶け出す割合が低くなる背景として、食品中の他の成分との相互作用や、吸収を妨げる因子の存在、消化されにくい安定な化合物ができることなどを挙げています。また分析手法上の事情として、測定前に細かい孔のフィルターでろ過するため、粒子やコロイドに結びついた成分は溶け出した分に数えられず、その分だけ値が低く出る可能性にも触れています。
「含まれている量」と「取り出せる量」を分けて考える
この研究が示したのは、キノコの多元素分析において、総量の測定に加えて消化後に溶け出す割合のデータを併せて扱うことの重要性です。著者らは、この二つを揃えて初めて、調べた種の栄養面・機能面の可能性を適切に読み解けると結論づけています。
データの乏しかったブラジル大西洋岸森林の野生種について、標準化された消化模擬手順と扱いやすい分析装置を組み合わせた測定例が加わったこと自体も、本研究の位置づけとして報告されています。
著者:Jorge Machado Freitas Junior(Department of Life Sciences, University of Bahia State (UNEB), 41195-001 Bahia, Salvador, Brazil)、E. S. SILVA(Department of Exact and Earth Sciences, University of Bahia State (UNEB), 41195-001 Bahia, Salvador, Brazil)、Ygor Felipe Garcez Brito(Department of Life Sciences, University of Bahia State (UNEB), 41195-001 Bahia, Salvador, Brazil)、Daniel Carneiro Freitas(Department of Life Sciences, University of Bahia State (UNEB), 41195-001 Bahia, Salvador, Brazil)、Thaís Luz de Souza(Agricultural Technology Center of the Bahia State (CETAB), 40170 110, Salvador, Bahia, Brazil)、ÁGATA C. MORAIS(Federal Institute of Education, Science, and Technology of São Paulo (IFSP), Campus São Paulo), 01109-010, São Paulo, São Paulo, Brazil)、Alexandre Rafael Lenz(Department of Exact and Earth Sciences, University of Bahia State (UNEB), 41195-001 Bahia, Salvador, Brazil)、Clícia Maria de Jesus Benevides(Department of Life Sciences, University of Bahia State (UNEB), 41195-001 Bahia, Salvador, Brazil)、Mariana de Paula Drewinski(Federal Institute of Education, Science, and Technology of São Paulo (IFSP), Campus São Paulo), 01109-010, São Paulo, São Paulo, Brazil)、Nelson Menolli(Federal Institute of Education, Science, and Technology of São Paulo (IFSP), Campus São Paulo), 01109-010, São Paulo, São Paulo, Brazil)、Aníbal de Freitas Santos Júnior(Department of Exact and Earth Sciences, University of Bahia State (UNEB), 41195-001 Bahia, Salvador, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jorge Machado Freitas Junior, E. S. SILVA, Ygor Felipe Garcez Brito, et al. In vitro bioaccessible fractions of microelements in medicinal and edible mushrooms from the Brazilian Atlantic Forest using the INFOGEST 2.0 protocol and MIP-OES. Journal of Food Composition and Analysis 2026-09-03. DOI: 10.1016/j.jfca.2026.109490. 原著ライセンス:CC BY.