著者の所属・活動拠点の国は、ラオス、タイです。
掲載誌:Journal of Fungi
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
稲わらやトウモロコシの茎など、収穫後に残る農業残渣(バイオマス)は、多くの地域で畑での野焼きによって処分されています。この野焼きは温室効果ガスの排出や大気汚染を引き起こすだけでなく、本来なら別の用途に使えたはずの資源を燃やして失っていることにもなります。この研究は、そうした廃棄されがちな農業残渣を、キノコ栽培用の培地として活用できないかを検証したものです。
キノコ栽培では通常、おがくずを主原料とした培地が使われますが、おがくずの調達コストや供給の安定性は生産現場の課題になっています。そこで研究チームは、従来のおがくずの50%を、地域で入手しやすい農業残渣(トウモロコシの茎、稲わら、サトウキビの葉、落ち葉)に置き換えた培地を作り、Lentinus sajor-caju(コウジタケ属の食用キノコ)と、Pleurotus属の複数種(P. cornucopiae、P. ostreatus、P. pulmonarius)を栽培して比較しました。評価の対象は、培地の物理化学的な性質、菌糸の生育スピード、雑菌汚染の起こりやすさ、収量、キノコの栄養成分、経済性、そして環境面での利点にまで及んでいます。
トウモロコシの茎を使った培地が最も良い結果に
試した組み合わせの中では、トウモロコシの茎を混ぜた培地が最も良好な特性を示しました。窒素分がより利用しやすい形で含まれ、炭素と窒素の比率(C/N比)もキノコの生育に適したバランスになっていたことが、良い結果につながったと説明されています。この培地では、菌糸が培地全体に広がる速度が速く、雑菌汚染も少なく、子実体(食用となるキノコ本体)が形成されるまでの期間も短縮されました。
収量の指標である生物学的効率(投入した培地の重量に対して、どれだけのキノコが収穫できたかを示す割合)も、トウモロコシの茎を使った培地で最も高くなりました。具体的には、L. sajor-cajuで61.99%、P. cornucopiaeで102.79%、P. ostreatusで99.40%、P. pulmonariusで101.96%という値が報告されています。これらはいずれも、この研究で試された培地の組み合わせの中で最も高い数値だったとされています。
栄養価とコストへの影響
培地を切り替えても、収穫されたキノコの栄養的な質は保たれるか、むしろ高まる傾向が見られたとされています。具体的には、タンパク質含有量が18.22〜31.37%、食物繊維は最大30.58%に達し、一方で脂質は1.11〜1.95%と低い水準にとどまったと報告されています。
経済性についても検討されており、おがくずと農業残渣を50対50で置き換える方式は、工業規模での生産において培地コストを約30%削減できると試算されています。廃棄されていた資源を活用することで、コスト面と生産効率の両方にメリットが生まれる可能性が示された形です。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、特定の農業残渣とキノコの組み合わせで行われた実験結果であり、使用した菌種や地域の条件が異なれば、同じ効果が得られるとは限りません。また、ここで示された生物学的効率やコスト削減の数値は、この研究で用いられた栽培条件や試算方法に基づくものであり、あらゆる生産現場にそのまま当てはまるとは述べられていません。一つの研究で得られた知見であり、結論が確定したものではない点に留意する必要があります。
なお、この研究はラオスとタイの研究機関に所属する研究者らによって行われたもので、日本の研究機関や日本の食品・生産事情への言及は要旨には含まれていません。
まとめ
この研究は、野焼きで失われがちな農業残渣を、キノコ栽培用の培地として再利用する可能性を示したものです。特にトウモロコシの茎を使った培地では、菌糸の生育の速さや雑菌汚染の少なさ、収量の高さといった点で良好な結果が報告されており、キノコの栄養成分も維持されるとされています。コスト削減効果も試算されており、農業廃棄物の新たな活用先として注目される研究といえますが、実際の生産現場での再現性については今後の検証が必要です。
原著論文の著者・所属:Orlavanh Xayyavong(Department of Biology, Faculty of Science, Champasack University, Pakse 16010, Laos)、Phongeun Sysouphanthong(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Kritsana Jatuwong(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Saisamorn Lumyong(Center of Excellence in Microbial Diversity and Sustainable Utilization, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Worawoot Aiduang(Department of Biology, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Orlavanh Xayyavong, Phongeun Sysouphanthong, Kritsana Jatuwong, et al. From Burning Problem to Growing Value: Development of Sustainable Mushroom Substrates for Cost Reduction and Yield Enhancement. ジャーナル・オブ・ファンガイ (2026). DOI: 10.3390/jof12090661. 原著ライセンス: cc-by.