著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

とうもろこしを主原料とする「コーンめん」は、独特の風味や食物繊維・ビタミン・ミネラルの豊富さから人気がある一方で、加工時に切れやすく、茹でると煮崩れしやすいという弱点を抱えています。小麦粉のめんはグルテンというたんぱく質網目が生地を支えますが、とうもろこし粉にはグルテンがほとんど含まれず、でんぷんだけで構造を支えなければなりません。しかし、とうもろこしでんぷんは水を抱え込む力や膨潤力が十分でなく、加熱してもしっかりしたゲル網目を作りにくいため、コーンめんは折れやすく、茹で汁への流出(煮崩れ)が多くなりがちだとされています。

こうした課題に対して、これまでキサンタンガムや海藻由来の増粘剤、あるいは小麦グルテンや酵素製剤を添加する方法が試みられてきましたが、多くは加工品質の改善にとどまり、栄養面や健康面の機能性まで同時に高める工夫は少なかったといいます。今回、中国・吉林農業大学食品科学工程学院などの研究チームが着目したのは、霊芝(Ganoderma lucidum)という薬用・食用キノコが作り出す「細胞外多糖」という成分です。研究チームは以前の研究で、霊芝を培養する際に静磁場(弱い磁場)を一定時間当てる「磁場補助発酵」という手法を使うと、通常の発酵よりも多糖の収量や生理活性が高まることを見出していました。この磁場処理を経て得られた細胞外多糖は「MEPS」と呼ばれ、本研究ではこのMEPSをコーンめんに加えることで、加工のしやすさと健康面の機能性を同時に高められないかを検証しています。

研究でわかったこと:どのように調べ、何が起きたか

研究チームは、とうもろこし粉に小麦グルテン粉と食塩を混ぜた生地に、MEPSを0%(無添加の対照群)、0.2%、0.4%、0.6%、0.8%、1.0%の6段階で加えてめんを作り、様々な角度から性質を調べました。まず分析すると、このMEPSは全糖含量が約43.2%、ウロン酸含量が約15.2%を占める粗多糖で、ウロン酸を多く含むことが水を抱え込む力や生理活性に関わると考察されています。

生地の性質を機器で測定したところ、MEPSの添加量が0.6%に達するまでは、でんぷんが糊化するときの粘度のピークが高まり、逆に冷却時に粘度が戻る「もどり値」(老化のしやすさの指標)は低下しました。これは、MEPSがでんぷん粒の膨潤や水分保持を助ける一方で、でんぷん同士が再結合して硬くなる現象(老化)を抑える働きがあることを示唆しています。生地の粘弾性を調べるレオロジー測定でも、0.4〜0.8%のMEPS添加で生地の硬さや変形への抵抗力を示す値が有意に高まり、生地がより弾力性のある構造に変化したことが確認されました。さらに低磁場核磁気共鳴(LF-NMR)という手法で生地中の水の状態を調べると、MEPSの添加量が増えるほど、自由に動ける「自由水」の割合が減り、代わりに多糖やでんぷん・たんぱく質の網目に取り込まれた「結合水・拘束水」の割合が増えることも分かりました。

こうした生地の変化は、実際にめんを茹でたときの性能にも反映されていました。対照群と比べて、0.6%MEPS添加群では茹で損失(煮崩れによる固形分の流出)が24.69%減少し、めんの折れやすさ(破断率)は46.65%減少したと報告されています。食感を測定する試験では、MEPSの添加量が増えるほど硬さが段階的に増し、べたつき(凝集性)は抑えられました。弾力性(springiness)については0.4%と0.6%のときに対照群と同程度に保たれた一方、0.2%や0.8%、1.0%ではむしろ低下する傾向がみられ、少なすぎても多すぎても効果が出にくいことが示されています。走査電子顕微鏡(SEM)による断面の観察でも、対照群のめんはでんぷん粒同士の間に大きな隙間がある疎な構造だったのに対し、0.6%MEPS添加群ではでんぷん粒の大部分が緻密で連続的なゲル網目に組み込まれている様子が確認されました。赤外分光(FTIR)分析からは、MEPSがでんぷんやたんぱく質と新たな化学結合(共有結合)を作るのではなく、水素結合などの物理的な相互作用を介して結びついていること、また短距離の分子秩序や二重らせん構造の割合を示す指標が増加していることも示されています。加えて、たんぱく質のジスルフィド結合(−SS−、たんぱく質同士を架橋する結合)の量も増加しており、これがめんの硬さの向上や煮崩れの抑制につながる分子レベルの根拠として挙げられています。

機能性の面では、めんを消化液に見立てた条件で分解させる試験管内消化実験が行われ、0.4〜1.0%のMEPSを添加しためんは、でんぷんの分解が最初の60分間で緩やかになり、最終的な分解の程度も低くなることが確かめられました。これをもとに算出された推定血糖指数(eGI)は、対照群の76.4から0.6%MEPS添加群では72.3へと低下したとされています。この背景には、めんを消化する酵素であるα-アミラーゼとα-グルコシダーゼの働きをMEPSが阻害する作用と、緻密になった網目構造が物理的に酵素とでんぷんの接触を妨げる作用の両方が関わっていると考察されています。さらに、DPPH・ABTS・ヒドロキシルラジカル消去能、および鉄還元能(FRAP)という複数の指標で測った抗酸化活性も、MEPSの添加量に応じて高まったと報告されています。ただし0.2%という低い添加量では、DPPHやABTS、FRAPといった一部の抗酸化指標は改善した一方、ヒドロキシルラジカル消去や酵素阻害活性には有意な変化がみられず、効果を得るにはある程度の添加量が必要であることも示されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

研究チームは総合的な結果から、加工品質と機能性のバランスが最も優れていたのは0.6%のMEPS添加であると結論づけています。ただし、この研究は実験室レベルでの生地・めんの物性測定と試験管内での消化・抗酸化試験にとどまっており、実際に人が食べた場合の血糖値の変化や健康への影響を検証したものではありません。また、使用されたMEPSは特定の磁場補助発酵条件で得られたものであり、一般に市販されている霊芝由来の多糖と同じ性質を持つとは限らない点にも留意が必要です。今回の要旨や本文の範囲では、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は見当たりませんでした。

コーンめんという、グルテンを使わないめん類特有の弱点に対し、キノコ由来の多糖という天然素材を使って加工性と機能性を同時に高められる可能性を示した点が、この研究の特徴といえます。とはいえ、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今後、他の条件での再現性の検証や、実際にヒトが摂取した場合の効果を調べる研究が積み重なることで、より確かな理解につながっていくと考えられます。

原著論文の著者・所属:Wu J(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Guo A(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Ni Y(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Zhang D(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Liu H(National Engineering Research Center of Wheat and Corn Further Processing, Changchun 130118, China.)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Wu J, Guo A, Ni Y, et al. Extracellular Polysaccharides from <i>Ganoderma lucidum</i> as a Functional Ingredient: Improving the Technological Quality and Bioactive Properties of Corn Noodles. フーズ(バーゼル、スイス) (2026). DOI: 10.3390/foods15142463. 原著ライセンス: cc-by.