著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。
掲載誌:Frontiers in Plant Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
干ばつは農業生産と食料安全保障を脅かす大きな環境要因です。論文によると、地球温暖化で干ばつは頻度も深刻さも増しており、カナダでは特に平原諸州で、干ばつが農業に大きな経済損失と収量低下をもたらしてきました。
植物の組織の中で害を与えずに暮らす細菌は「内生細菌」と呼ばれます。研究チームが注目したのは、薬用植物の大麻(Cannabis sativa)とクサノオウ(Chelidonium majus)から分離された内生細菌です。こうした細菌が、もともとの宿主ではない主要作物の干ばつへの強さを高められるのか、またその仕組みはどうなっているのかは、まだよく分かっていませんでした。
そこで著者らは、選んだバチルス属とシュードモナス属の細菌を単独で、または複数を組み合わせた「コンソーシアム」として与えた場合に、インゲンマメとトマトの干ばつへの耐性が高まるかを調べました。
使った細菌と実験の進め方
使われたのは、植物の生育を促す性質を持つ5株です。内訳は枯草菌(Bacillus subtilis)3株(BS-114、BS-116、BS-120)、Bacillus mojavensis 1株(BSM-119)、Pseudomonas wadenswilerensis 1株(PPW-26)でした。
実験は3段階で進められました。まず実験室で、水分を奪う物質であるポリエチレングリコール(PEG)を使って乾燥状態をつくり、種子の発芽や芽生えの育ち方を調べました。次に温室で、インゲンマメの土壌水分をおよそ80%から30%まで下げて15日間の干ばつ状態に置き、その後15日間は十分に水を与えて回復させました。この段階では、生育、収量、葉の水分量、光合成などのガス交換、ストレスの指標となる物質、干ばつに反応する遺伝子の働きを測定しました。最後に、干ばつ処理をしない屋外の畑で、細菌の組み合わせが作物の収量にどう影響するかを確かめました。
主な結果
実験室の試験では、乾燥によってインゲンマメの発芽率は10%下がりました。BS-114とBS-116を与えると、細菌を与えない乾燥区より発芽率が16.7%高くなりました。PPW-26は芽生えの活力を表す指標を48%高め、芽生えの水分量を十分に水がある条件と同程度まで保ちました。トマトでは、BS-116が乾燥時の根と地上部への成長の配分を水が十分な場合に近づけたものの、発芽や活力の改善は統計的に有意ではありませんでした。研究チームは、細菌の効果はトマトよりインゲンマメで明確だったと報告しています。
温室のインゲンマメでは、干ばつによって光合成速度などが大きく下がりました。BS-114を与えた区では光合成速度が細菌なしの干ばつ区より106%、BS-114とPPW-26を組み合わせたコンソーシアムでは89.4%高くなりました。葉の水分量は、干ばつで67.6%から46.6%に下がりましたが、PPW-26やBS-116、コンソーシアムと肥料の併用で2〜3割高く保たれました。干ばつと回復を経た後の収量は、コンソーシアムと標準量の肥料の併用で52%、BS-116で50%、コンソーシアム単独で40%、細菌なしの干ばつ区を上回りました。
細菌は乾燥が強まるほど、細胞の外へ粘り気のある多糖(菌体外多糖)を多く作りました。特にPPW-26では141.9%増えました。また、ストレスの指標として、細胞膜の傷みを示すマロンジアルデヒドと、乾燥時に植物がためるアミノ酸のプロリンが測られました。BS-116やコンソーシアムなどを与えた植物では、どちらも細菌なしの干ばつ区より少なくなっていました。干ばつに反応する6つの遺伝子は、細菌なしの植物では干ばつで強く働いていましたが、BS-116やPPW-26を与えた植物では低く抑えられていました。著者らはこれを、植物がストレスの続く状態ではなく回復に向かった状態にあることを示すものと解釈しています。ただし、植物ホルモンのアブシシン酸の量は直接測っていないため、この解釈は間接的なものだとしています。
畑の試験では、温室とは別の組み合わせとして、胞子をつくり屋外でも生き残りやすいバチルス属の3株(BS-114、BSM-119、BS-120)からなるコンソーシアムが使われました。インゲンマメでは、このコンソーシアムの区画あたり平均収量が4.84kgで最も高く、市販の藻類由来の生育促進資材を使った区(3.24kg)を有意に上回りました。一般的な化学肥料(NPK)の区(4.16kg)との差は有意ではありませんでした。トマトでは、繰り返しのない予備試験としてコンソーシアムの区が最も高い総収量を記録しましたが、著者らは傾向を示すにとどまるとしています。
この研究が示すこと
この研究によると、細菌の効果は作物の種類と細菌の株によって異なりました。BS-114は主に光合成を高め、BS-116やPPW-26は主に葉の水分を保つというように、株ごとに働き方が違っていました。そして、性質の異なる株を組み合わせると、光合成と水分状態の両方が改善しました。
研究チームは、畑の試験は干ばつへの効果を確かめるためのものではなく、予備的な段階のため結果は慎重に解釈すべきだと述べています。そのうえで、互いに補い合う内生細菌の組み合わせが、持続可能な作物生産を支える微生物資材になりうる可能性を示したと結論づけています。
原著論文の著者・所属:Laura Amaya-Quiroz(Department of Food Science and Agricultural Chemistry, McGill University)、Mohammad Jamil Kaddoura(Department of Food Science and Agricultural Chemistry, McGill University)、Mamta Rani(Department of Food Science and Agricultural Chemistry, McGill University)、Jamil Samsatly(BioSun Solutions, Chambly, QC, Canada)、Hacene Meglouli(BioSun Solutions, Chambly, QC, Canada)、Saji George(Department of Food Science and Agricultural Chemistry, McGill University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Laura Amaya-Quiroz, Mohammad Jamil Kaddoura, Mamta Rani, et al. The functional roles of endophytic Bacillus and Pseudomonas bacteria to improve tomato and bean plants’ growth under induced-drought stress conditions. Frontiers in Plant Science 2026-09-10. DOI: 10.3389/fpls.2026.1905932. 原著ライセンス:CC BY.