著者の所属・活動拠点の国は、マラウイ、アメリカです。
掲載誌:Frontiers in Veterinary Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
抗菌薬が効かない細菌が広がる「薬剤耐性」は、世界の公衆衛生にとって大きな脅威とされています。なかでも注目されているのが、ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)と呼ばれる酵素をつくる大腸菌です。ESBLは、セファロスポリン系などの抗菌薬を分解して効きにくくします。その遺伝子はプラスミドと呼ばれる小さなDNAに載っていることが多く、異なる菌の間で受け渡されることがあります。
家畜の腸内にいる耐性菌は、と畜の過程で肉を汚染したり、排水を通じて環境へ広がったりする可能性があります。都市部のと畜場には各地の農場から家畜が集まり、働く人も多く、肉は都市の市場へ出回ります。そのため、耐性菌の状況を把握するうえで重要な場所と位置づけられています。しかし、サハラ以南アフリカではこうした監視データが限られており、マラウイの都市部と畜場で処理されるブタとウシについても十分に調べられていませんでした。
著者らは、この点を明らかにするため研究を行いました。マラウイでは、ブタは比較的集約的な飼育で抗菌薬に触れる機会が多く、ウシは放牧中心で触れる機会が少ないとされます。研究チームは両者を比べ、ESBL関連遺伝子の保有率、抗菌薬への耐性の傾向、複数の系統の薬に耐性をもつ「多剤耐性」の多さを調べることを目的としました。
何を調べたか
調査は2024年4月から6月にかけて、リロングウェ地区にある4か所の都市部と畜場で行われました。対象は、通常のと畜に出された見た目に健康なブタ50頭とウシ50頭の計100頭です。と畜の直前に直腸から綿棒で検体を採取し、そこから大腸菌を分離しました。大腸菌が確認できたのは94検体(ブタ48、ウシ46)で、これらが分析の対象となりました。
研究チームは、6系統の抗菌薬(ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、スルファメトキサゾール・トリメトプリム、セフォタキシム、テトラサイクリン)について、菌が薬に負けずに育つかどうかを調べました。このうち3系統以上に耐性を示すものを多剤耐性と定義しています。あわせて、代表的なESBL関連遺伝子であるblaCTX-MとblaSHVの有無を、遺伝子を増幅して検出する方法(PCR)で確認しました。
主な結果
ブタ由来の大腸菌は、ウシ由来に比べてゲンタマイシン(50.0%対15.2%)とテトラサイクリン(85.4%対56.5%)への耐性率が有意に高いと報告されました。クロラムフェニコールへの耐性は両方で高く(77.1%対63.0%)、動物種による有意な差はみられませんでした。一方、シプロフロキサシンとセフォタキシムについては、どちらの動物でも多くの菌がまだ効く状態でした。
多剤耐性の割合は、ブタ由来が70.8%、ウシ由来が41.3%でした。遺伝子の保有状況も考慮した統計解析では、ブタ由来の菌が多剤耐性であるオッズは、ウシ由来の約4倍(オッズ比3.97)と推定されています。
ESBL関連遺伝子は、両方の動物から見つかりました。blaCTX-Mの保有率はブタで12.5%、ウシで21.7%、blaSHVはブタで20.8%、ウシで6.5%です。94株のうち25株(26.6%)が少なくとも一方の遺伝子を持っていましたが、どちらの遺伝子にも動物種による統計的に有意な差はありませんでした。なお著者らは、blaSHVには作用範囲の広くない型も含まれるため、この結果は慎重に解釈する必要があると述べています。
さらに、これら2つの遺伝子の保有は、多剤耐性であるかどうかとは有意に関連していませんでした。著者らは、これらの遺伝子がβラクタム系という一つの系統の薬への耐性にかかわるものであることを指摘しています。そのうえで、多剤耐性には調べた2遺伝子以外の仕組みも関わっている可能性があると考察しています。
研究が示すこと
この研究は、マラウイの都市部と畜場で処理されるブタとウシの双方に、ESBL関連遺伝子を持つ大腸菌が存在することを示しました。また、ブタ由来の菌でより多くの多剤耐性がみられたと報告しています。著者らはこの差について、飼育方法や抗菌薬の使い方の違いが影響している可能性を挙げています。
特定の遺伝子を調べるだけでは多剤耐性の実態をとらえきれなかったことも、この研究の重要な結果です。著者らは、薬の効き方を直接調べる検査と遺伝子検査を組み合わせて監視することの重要性を強調しています。あわせて、家畜生産での抗菌薬の適正使用と、と畜場での体系的な耐性監視の必要性を訴えています。
原著論文の著者・所属:Charles Nkhoma(Department of Animal Health and Livestock Development, Central Veterinary Laboratory, Lilongwe, Malawi)、Naomi Chikwana(Department of Basic Sciences, Lilongwe University of Agriculture and Natural Resources (LUANAR))、Precious Innocent Mastala(Department of Epidemiology and Biostatistics, Mel and Enid Zuckerman College of Public Health, University of Arizona)、Thoko Kapalamula(Department of Pathobiology, Faculty of Veterinary Medicine, LUANAR, Lilongwe, Malawi)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Charles Nkhoma, Naomi Chikwana, Precious Innocent Mastala, et al. Prevalence of ESBL-associated resistance genes and antimicrobial resistance in Escherichia coli from pigs and cattle slaughtered at urban abattoirs in Lilongwe District, Malawi. Frontiers in Veterinary Science 2026-09-10. DOI: 10.3389/fvets.2026.1886903. 原著ライセンス:CC BY.