著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
油を搾ったあとに残るものを食品素材に
植物の種から油を搾ると、「油かす」や「プレスケーキ」と呼ばれる固形の残りが大量に出ます。これまで主に安価な家畜飼料として使われるか、廃棄されてきました。著者らは、産業用ヘンプ(麻)とヒマワリの油かすに着目し、これを人の食品に使える価値の高い素材へ生まれ変わらせる「アップサイクル」の可能性を整理しました。
著者らによると、両者の油かすには良質な貯蔵たんぱく質(麻ではエデスチン、ヒマワリではヘリアンチニン)、多価不飽和脂肪酸、食物繊維、ミネラル、抗酸化性をもつポリフェノール類が含まれています。また、大豆のように主要アレルゲンとされる作物ではない点も、選んだ理由として挙げられています。
一方で、たんぱく質が水に溶けにくい、硬い不溶性の繊維が多い、ミネラルの吸収を妨げるフィチン酸などの「抗栄養因子」を含む、独特の嫌な風味がある、といった課題があります。特にヒマワリでは、クロロゲン酸というポリフェノールが酸化してたんぱく質と結びつき、緑色に変色することが大きな障害になっています。麻では、硬い殻の繊維と酸化による異臭が課題とされています。本論文は、こうした性質が油の取り出し方やその後の加工によってどう変わるかをまとめた総説です。
どのように文献を集めたか
本論文は新たな実験を行ったものではなく、既存の研究をまとめた総説です。著者らは、Scopus、Web of Science、PubMed、Google Scholarの4つのデータベースで2005年から2026年までの文献を検索しました。約180件を調べ、重複や不適切なものを除いて163件を残したと報告しています。農作物としての栽培特性や、燃料・飼料用途、大麻成分の薬理だけを扱う研究は対象外としました。
取り上げた油の取り出し方は、低温で機械的に搾る「コールドプレス」、加熱してから搾る「ホットプレス」、ヘキサンなどの溶剤で油を溶かし出す「溶剤抽出」、高圧の二酸化炭素を使う「超臨界CO2抽出」、酵素で細胞壁を分解して水の中で油を分ける「酵素補助水性抽出」です。さらに、搾ったあとの加熱処理、押出成形(エクストルージョン)、微生物による発酵、超微粉砕といった加工も検討の対象としました。
搾り方で変わる油かすの性質
著者らがまとめた知見の中心は、熱のかかり方がたんぱく質の状態を大きく左右するという点です。50℃未満で搾るコールドプレスや、穏やかな温度で行う超臨界CO2抽出では、たんぱく質の本来の立体構造が保たれ、水に溶けやすく、乳化や泡立て、加熱によるゲル化といった食品づくりに役立つ性質も保たれやすいとされます。
これに対し、80〜100℃程度に加熱するホットプレスや、溶剤抽出後に溶剤を飛ばす高温の工程では、たんぱく質が変性して塊になりやすくなります。論文では、こうした処理を経た原料から得たたんぱく質は、どのpHでも水に溶ける割合が20〜30%未満にまで下がると紹介されています。
ただし、どの方法にも長所と短所があります。コールドプレスでは油が8〜15%ほど残るため、保存中に酸化して風味が落ちやすくなります。溶剤抽出や超臨界CO2抽出では油がほぼ取り除かれ、たんぱく質の濃度は乾燥重量で50.2〜55%まで高まり、保存中の酸化にも強くなります。コールドプレスの油かすでは24.8〜36.1%にとどまると報告されています。
ヒマワリ特有の変色について、著者らは、中性からアルカリ性(pH7超)の条件でクロロゲン酸が酸化し、たんぱく質と結合して緑色の色素ができる仕組みを整理しています。これを防ぐには、酸性条件(pH5.5未満)で抽出するか、事前に含水エタノールで洗う方法が挙げられています。
後からの加工と、この総説が示すこと
要旨によると、搾油後の加工のうち、特に水分の多い条件での押出成形や微生物による発酵は、たんぱく質を肉のような繊維状の構造に変えたり、水に溶ける食物繊維の割合を増やしたり、抗栄養因子を分解したり、豆臭さや苦みを和らげたりする方向に働くとまとめられています。また、ライフサイクルアセスメント(製品の一生を通じた環境負荷の評価)や経済性の比較から、アップサイクルした油糧種子たんぱく質には、従来の大豆や乳のたんぱく質素材に比べて環境面・経済面の利点があることが示されていると著者らは述べています。
この総説から見えてくるのは、同じ麻やヒマワリの油かすでも、どう搾り、どう加工するかによって、栄養面でも食品素材としての使いやすさでも別物になりうるということです。著者らは、環境に配慮した抽出技術や配合の工夫を組み合わせることで、これまで副産物とされてきた油かすを、植物性食品向けの付加価値の高い素材に変える道筋があると結論づけています。
原著論文の著者・所属:Klausz Ronald Balla(Faculty of Food Engineering, “Ştefan cel Mare” University of Suceava, 13th Universitatii Street, 720229 Suceava, Romania)、Mădălina Ungureanu-Iuga(Integrated Center for Research, Development and Innovation in Advanced Materials, Nanotechnologies, and Distributed Systems for Fabrication and Control (MANSiD), “Ştefan cel Mare” University of Suceava, 13th Universitatii Street, 720229 Suceava, Romania; Mountain Economy Center (CE-MONT), “Costin C. Kiriţescu” National Institute of Economic Researches (INCE), Romanian Academy, 050711 Bucharest, Romania)、Silvia Mironeasa(Faculty of Food Engineering, “Ştefan cel Mare” University of Suceava, 13th Universitatii Street, 720229 Suceava, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Klausz Ronald Balla, Mădălina Ungureanu-Iuga, Silvia Mironeasa. Impact of Processing on Nutritional and Functional Properties of Hemp and Sunflower Oilcakes. Foods 2026-10-23. DOI: 10.3390/foods15213791. 原著ライセンス:CC BY.