この研究は、ハンガリー、イラクの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ヒマワリは世界で4番目に経済価値の高い油糧作物とされ、種子から採れる油は食用のほか、バイオディーゼルや潤滑油などの工業用途にも使われています。ハンガリーは主要な生産国の一つで、著者らによれば約67万9600ヘクタールで栽培され、年間およそ170万トンが生産されています。
研究チームは、有機質肥料と化学肥料、さらに微生物資材を組み合わせて使う「総合的養分管理」がヒマワリの種子品質にどう影響するかを調べました。著者らは、これまでの研究に三つの空白があったと指摘しています。第一に、既存の知見のほとんどが「リノール酸型」と呼ばれる標準的な品種で得られており、オレイン酸の含有量が遺伝的にほぼ決まっている「高オレイン酸型」の品種で同じことが起きるかは確かめられていないこと。第二に、カリウムが実験の要因として取り上げられることがまれで、有用微生物資材との組み合わせは検討されていないこと。第三に、この種の試験は単一の栽培年に限られることが多く、気温や降水量の異なる年をまたいで同じ傾向が続くかは分かっていないことです。
そこで著者らは、灌漑を行わない天水条件のもとで、家畜ふん由来の有機態窒素、無機態窒素、カリウム、有用微生物資材(EM-1)が、種子の油分・粗タンパク質・水分にどう影響するか、油の脂肪酸組成と酸化安定性の指標がどう変わるか、そしてそれらの反応が年をまたいでどの程度安定しているかを検証することを目的としました。
何を調べたか
試験は連続する3シーズン(2022年、2023年、2024年)にわたって行われ、供試品種は高オレイン酸型のハイブリッド「ES Emeric」です。処理は、無施肥の対照区に加えて、有用微生物資材のみ(EM-1)、カリウムのみ(K)、有機態窒素と無機態窒素を組み合わせたもの(GOIM)、およびそれらの組み合わせ(K+EM-1、GOIM+EM-1、K+GOIM)の計7種類が設けられました。なお著者らは、ペレット状の家畜ふん肥料がリンとカリウムも供給していたため、GOIMを含む処理の効果を窒素だけに帰することはできないと断っています。
種子の油分とタンパク質含量を測定するとともに、油の脂肪酸をクロマトグラフィーで分析し、炭素数14から24までの各種脂肪酸を定量しました。得られたデータは、処理と年、およびその交互作用を要因とする多変量分散分析で解析され、さらに処理と環境の関係を視覚化するAMMIモデルの主成分分析なども用いられています。ここでいう「交互作用」とは、ある肥料の効き方がその年の条件によって変わる、という関係を指します。
主な報告結果
油分について、著者らは肥料処理そのものの主効果は統計的に有意でなかった一方、年の効果と、年と処理の交互作用は有意だったと報告しています。処理を平均した油分は2022年が46.1%と最も高く、2023年が42.3%、2024年が43.0%でした。しかも処理の順位は年ごとに入れ替わり、2022年に最も高い部類だったカリウム区が、2023年にはK+GOIMに首位を譲るといった具合でした。著者らは、2022年の上位3処理の差が1パーセントポイント未満であることから、その順位を処理の効果として読むべきではないと注意を促しています。
タンパク質含量は2022年が14.5%、2023年が13.6%、2024年が17.4%で、こちらも年と処理の交互作用が有意でした。最も高い値を示した処理は年によって変わり、2022年はGOIM+EM-1(16.5%)、2023年はK(15.43%)、2024年はGOIMとK+GOIM(いずれも18.1%)でした。ただし2024年には処理間に有意差はありませんでした。著者らは、油とタンパク質のあいだに逆の関係が見られる点について、窒素が豊富にあると炭素がアミノ酸・タンパク質の合成へ優先的に振り向けられ、脂質の蓄積が抑えられるという、油糧作物で広く報告されてきた配分上のトレードオフを挙げて説明しています。
最も大きな変動が見られたのは脂肪酸組成でした。処理を平均したオレイン酸含量は、2022年が69.9%、2023年が28.9%、2024年が85.3%。一方、リノール酸はこれと逆の順序で、それぞれ20.3%、59.8%、5.4%でした。著者らは、開花から登熟にあたる7〜8月の平均気温が2023年22.5℃、2022年23.8℃、2024年24.7℃と、オレイン酸含量の順位と同じ並びになった点に注目しています。これは、オレイン酸をリノール酸へ変換する酵素(オレイン酸デサチュラーゼ)の働きが登熟期の気温上昇とともに低下するという知られた性質と符合する、というのが著者らの説明です。乾燥した2022年は、より湿潤だった2023年に比べてオレイン酸が2.4倍あり、調べたすべての脂肪酸について2023年と2024年の中間の値を示しました。
特筆すべきは2023年の値です。供試品種ES Emericは育種者がオレイン酸90〜91%と報じる高オレイン酸型であるにもかかわらず、2023年の処理平均は28.2〜30.4%と、標準的なリノール酸型に特徴的な組成になりました。一方2024年は81.3〜87.2%と、遺伝的に期待される水準でした。2023年は7処理・3反復すべてが同じ挙動を示したことから、著者らはこれを施肥ではなく季節に由来する現象だとしています。
対照区との差を3年間で平均した比較では、EM-1単独がω-3系多価不飽和脂肪酸とα-リノレン酸をそれぞれ40.37%、12.96%増やして最も大きな上昇を示し、K+GOIMもα-リノレン酸を16.67%増やしました。逆にGOIM+EM-1はリノール酸とω-6系脂肪酸を約24%減らし、オレイン酸については最大の増加(5.5%)をもたらしました。ただしこれらは対照区に対する相対的な変化であり、オレイン酸の変動幅は年ごとの差に比べれば小さいものでした。
この研究が示すこと
この試験が示したのは、天水条件下のヒマワリにおいて、種子の油分やタンパク質、とりわけ油の脂肪酸組成を左右する要因として、栽培年の条件が肥料の種類よりもはるかに大きな影響を持ったということです。肥料処理の順位は年ごとに入れ替わり、統計的にも年と処理の交互作用が一貫して有意でした。
著者らの解釈によれば、季節間の違いを決めていたのは水分供給だけではなく、登熟期の気温でした。遺伝的に高オレイン酸型とされる品種であっても、涼しい季節にはリノール酸型に近い組成になりうるという観察結果は、油の品質が品種の遺伝的な性質だけで決まるわけではないことを示しています。施肥設計を考えるうえでは、その年ごとの条件を織り込む必要がある、というのが著者らの指摘です。
著者:Asma Haj Sghaier(Institute of Agronomy, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Páter Károly u. 1, 2100 Gödöllő, Hungary)、Ákos Tarnawa(Institute of Agronomy, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Páter Károly u. 1, 2100 Gödöllő, Hungary)、Hussein Khaeim(Field Crops Department, College of Agriculture, University of Al-Qadisiyah, Al Diwaniyah 58002, Iraq)、András Varga(Doctoral School of Agricultural and Food Sciences, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Páter Károly u. 1, 2100 Gödöllő, Hungary)、Kiet Anh Huynh(Doctoral School of Agricultural and Food Sciences, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Páter Károly u. 1, 2100 Gödöllő, Hungary)、Noriza Khalid(Institute of Agronomy, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Páter Károly u. 1, 2100 Gödöllő, Hungary)、Viola Kunos(Institute of Agronomy, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Páter Károly u. 1, 2100 Gödöllő, Hungary)、Zoltán Kende(Institute of Agronomy, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Páter Károly u. 1, 2100 Gödöllő, Hungary)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Asma Haj Sghaier, Ákos Tarnawa, Hussein Khaeim, et al. Effect of Integrated Fertilizer Management on Seed Oil Content, Protein and Fatty Acid Composition of Sunflower Under Rainfed Conditions in Hungary. Plants 2026-08-26. DOI: 10.3390/plants15172602. 原著ライセンス:CC BY.