著者の所属・活動拠点の国は、モロッコです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ラクダ乳は、乾燥地域で食料の確保や栄養、農村の経済を支えています。近年は冷蔵製品、発酵食品、粉乳、機能性素材などへと商業的な広がりを見せています。著者らは、こうした変化によって、牛乳などの一般的な乳製品の流通とは異なる保存上の課題が表面化していると指摘しています。
課題の一つは、加工前の扱われ方がばらつくことです。これにより、加工を始める時点で乳に含まれる微生物や酵素の量が左右されます。もう一つは、ラクダ乳のたんぱく質やミネラル、乳の中に散らばる脂肪などの成分の組み立てが独特なことです。この違いが、処理の効き方、製品の物理的な安定性、品質の保たれ方に影響するとされます。この総説は、こうした乳そのものの性質(マトリックス)に関する知見と、既存および新しい保存技術についての直接的な研究成果をまとめて検討することを目的としています。
何を調べたか
本研究は、既存の研究を批判的に読み解いて整理する「ナラティブレビュー」と呼ばれる総説です。著者らは、Scopus、Web of Science Core Collection、PubMed、CAB Abstracts、Google Scholarといった文献データベースを使い、2026年8月までに公開された関連研究を検索しました。そのうえで、冷却や加熱殺菌などの従来技術と、新しい非加熱技術などに関する知見を比較しています。
主な報告内容
著者らは、どの保存技術が一番優れているという単純な順位は見いだせなかったと報告しています。冷却、管理された発酵、低温殺菌(パスチャライゼーション)、乾燥は、今もラクダ乳加工の実用的な基盤です。ただし、その効果には限界があるとされます。限界を決めるのは、原料乳がそれまでどう扱われてきたかという履歴と、乳の反応です。乳の反応として、成分が凝集すること、発酵乳などのゲルが弱くなりやすいこと、酸化、粉乳の安定性の低下が挙げられています。
こうした制約から、より低い温度で処理する方法や非加熱の技術に関心が集まっていると著者らは述べています。これらの技術には、微生物を抑えることと、製品の品質が許容できないほど変わってしまうことの間の余地を広げられる可能性があるとされます。その中で、高い圧力をかける高圧処理は、特定の病原菌に対する根拠が現時点で最も積み上がっていると報告されています。一方、紫外線の一種であるUV-Cや超音波の処理については、報告された効果が装置の形状、エネルギーの行き渡り方、温度の経過に強く左右されるとしています。その他の新しい技術は、主に物理的・化学的な観察や、ラクダ乳以外の食品で得られた知見を当てはめた根拠に支えられている段階だと整理されています。
さらに著者らは、どの種類の処理でも、装置の設定値や処理直後の一般的な菌数の減少だけでは保存性能を十分に説明できないと指摘しています。信頼できる評価のためには、製品の内部に実際に届いた処理の量を考える必要があるとしています。あわせて、乳の組成、対象とする微生物、品質として守るべき範囲、処理後の変化も考慮すべきだと述べています。
この研究が示すこと
著者らは、ラクダ乳の保存を「どれか一つの技術を選ぶ問題」としてではなく、「乳の性質に応じて工程全体を設計する問題」として捉えるべきだと結論づけています。保存技術の良し悪しは技術単独では決まりません。原料の状態や乳の成分と組み合わせて考える必要があるという視点を示した総説といえます。
原著論文の著者・所属:Dadaie Daihi(College of Agriculture and Environmental Sciences (CAES), African Sustainable Agriculture Research Institute (ASARI), University Mohammed VI Polytechnic (UM6P), Laayoune, Morocco)、Fouad Achemchem(Higher School of Technology, Laboratory of Engineering Sciences and Energy Management (LASIME), Ibn Zohr University)、Fadwa El Kindoussy(College of Agriculture and Environmental Sciences (CAES), African Sustainable Agriculture Research Institute (ASARI), University Mohammed VI Polytechnic (UM6P), Laayoune, Morocco)、Oumayma Boukria(College of Agriculture and Environmental Sciences (CAES), African Sustainable Agriculture Research Institute (ASARI), University Mohammed VI Polytechnic (UM6P), Laayoune, Morocco)、Poliana Mendes de Souza(College of Agriculture and Environmental Sciences (CAES), African Sustainable Agriculture Research Institute (ASARI), University Mohammed VI Polytechnic (UM6P), Laayoune, Morocco)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dadaie Daihi, Fouad Achemchem, Fadwa El Kindoussy, et al. Camel milk preservation: matrix effects across conventional and emerging technologies. Frontiers in Nutrition 2026-10-23. DOI: 10.3389/fnut.2026.1990078. 原著ライセンス:CC BY.