この研究は、ブラジル、ポーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Control
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
豆乳やオーツミルク、アーモンドミルクなど、植物を原料にした「ミルク代替飲料」(植物性ミルク代替品)は、健康志向や環境への配慮を背景に世界中で消費が広がっています。研究チームは、ブラジルで急速に市場が拡大しているこれらの製品について、微生物学的な品質と安全性のリスクがどの程度あるのかを明らかにしようとしました。
著者らが特に注目したのは「芽胞(がほう)形成菌」です。これは、環境が厳しくなると芽胞と呼ばれる硬い殻に包まれた休眠状態になる細菌のことで、熱や乾燥、薬剤に非常に強く、通常の加熱殺菌を生き延びて、条件が整うと再び増殖を始めることがあります。論文によれば、植物性ミルク代替品は水分が多く、pHが中性に近いため、汚染が起きた場合には微生物が増えやすい条件を備えている可能性があります。しかしブラジルでは、こうした製品に含まれる微生物の実態や、病原性に関わる遺伝子の情報がほとんど蓄積されていませんでした。研究チームは、この空白を埋めることを目的としました。
何をどのように調べたか
研究チームは、ブラジル・カンピーナス市内の9つのスーパーマーケットで、10ブランドの植物性ミルク代替品111検体を購入しました。いずれもUHT処理(超高温瞬間殺菌)を施され、1リットル紙パックで常温流通していた製品で、原料はオーツ麦、カシューナッツ、ココナッツ、ブラジルナッツ、アーモンド、大豆、えんどう豆、米の8種類にわたります。購入時に包装の膨れや漏れ、破損がないことを確認し、いずれも表示された賞味期限内でした。
まず各製品のpHを測定し、次に低酸性食品(pH4.6超)向けの「商業的無菌性試験」を実施しました。これは、製品を専用の培養液に接種して一定期間温めたときに、細菌の増殖を示す変化(培地の色が紫から黄色に変わる、ガスが発生するなど)が起きるかどうかを見る方法です。培養は35℃(中温性菌向け)と55℃(高温性菌向け)の2条件で7日間行われました。増殖の兆候が見られた培養液からは細菌を分離し、MALDI-TOF MSという質量分析法で菌種を特定しました。これは細菌のタンパク質の質量パターンを「指紋」のように照合して菌種を判定する手法です。
さらに、分離されたBacillus cereus(セレウス菌)については、DNAを取り出してPCR法により遺伝子を調べました。対象としたのは、毒素の産生に関わる病原性遺伝子9種類(cytK、bceT、entFM、nheA、nheB、nheC、hblA、hblB、hblC)と、熱抵抗性に関わる遺伝子6種類(cdnL、clpC、dacB、dnaK、spoVAD、yitF)です。あわせて、製品ラベルの栄養成分とpHのデータを主成分分析および階層的クラスター分析という統計手法で整理し、製品間の類似性を検討しています。
報告された主な結果
111検体のうち82検体で、35℃または55℃の培養において増殖を示す反応が認められたと報告されています。ここから合計139株の好気性菌が分離され、その内訳は中温性99株、高温性40株でした。
中温性の菌では、Bacillus cereus が53%、Bacillus siralis が38%を占め、ほかに Bacillus pumilus(4%)、Lysinibacillus fusiformis(2%)、Bacillus coagulans(2%)、Paenibacillus lactis(1%)が検出されました。高温性の菌として挙げられているのは Geobacillus stearothermophilus(75%)、Anoxybacillus flavithermus(20%)、および Aeribacillus pallidus です。増殖が見られた製品の原料としては、アーモンドを使ったものが最も多く、次いでココナッツ、カシューナッツ、大豆、オーツ麦、米が続いたと述べられています。
Bacillus cereus の15株について遺伝子を調べたところ、nheA遺伝子は全株(100%)で検出され、hblCは93.3%、nheBとnheCはいずれも86.6%、cytKは73.3%、bceTは66.6%、entFMは26.6%の株で確認されました。これらは下痢や嘔吐などの食中毒症状に関わる毒素をコードする遺伝子です。また熱抵抗性に関わる遺伝子のうち、cdnL は調べたすべての株から検出されました。
製品の成分面については、pHが6.54〜8.31の範囲にあり、中性からやや弱アルカリ性であったこと、栄養組成には原料や配合による大きなばらつきがあったことが報告されています。統計解析では、製品の類似性を決める主な要因は原料となる植物の種類そのものよりも、炭水化物と脂質のバランスをはじめとする栄養組成であったとされています。
なお著者らは、熱抵抗性に関わる遺伝子が見つかったことだけでは実際に熱に強いかどうかは確定できず、それを確かめるには専用の耐熱性試験が必要だと明記しています。
この研究が示すこと
この研究は、常温流通するUHT処理の植物性ミルク代替品からも、加熱を生き延びうる芽胞形成菌が分離されうること、そして分離された Bacillus cereus の多くが毒素産生に関わる遺伝子を保有していたことを、ブラジル市場の実態として示しました。
著者らは、これらの製品の組成が芽胞形成菌の残存と増殖の双方を助ける可能性があることから、毒素を産生しうる Bacillus cereus をはじめとする芽胞形成菌を確実に不活化することが重要だと述べています。植物性ミルク代替品という比較的新しい食品カテゴリーについて、微生物学的なリスクを理解するための基礎的なデータを提供した研究といえます。
著者:Clara Mariana Gonçalves Lima(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Jolanta Wawrzyniak(Faculty of Food Science and Nutrition, Poznań University of Life Sciences, 60-624 Poznań, Poland)、Caroline Heckler(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Dionísio Pedro Amorim-Neto(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Giulia Paes Strabelo(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Palloma de Souza Santos(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Beatriz Dal Pian Machado(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Matheus Péricles Silva Láscaris(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Jaqueline Sousa Correia(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Ana Luísa Perini Leme Giordano(Department of Pathology, Faculty of Medical Sciences, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Angélica Zaninelli Schreiber(Department of Pathology, Faculty of Medical Sciences, University of Campinas, São Paulo, Brazil)、Anderson S. Sant’Ana(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Food Engineering, University of Campinas, São Paulo, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Clara Mariana Gonçalves Lima, Jolanta Wawrzyniak, Caroline Heckler, et al. Spore-forming bacteria in plant-based milk alternatives: Isolation, identification, and molecular detection of virulence and heat resistance genes. Food Control 2026-08-25. DOI: 10.1016/j.foodcont.2026.112587. 原著ライセンス:CC BY.