この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Chemistry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
白米は世界中で主食として食べられており、そのデンプンは栄養面でも調理特性の面でも中心的な役割を果たしています。研究チームによれば、炊飯するとデンプンの粒は水を含んでふくらみ、規則正しく並んだ構造(結晶構造)が失われて、消化されやすい状態になります。一方、炊いたご飯を冷蔵すると「老化(レトログラデーション)」と呼ばれる現象が起こります。これは、いったんばらけたデンプン分子が再び規則的に並び直す変化で、消化酵素で分解されにくい「レジスタントスターチ」が生じ、デンプンの消化されやすさが下がると報告されています。
ただし家庭では、冷蔵したご飯はそのまま食べるのではなく、電子レンジで温め直してから食べるのが普通です。著者らは、温め直しがデンプンの分子構造を壊したり組み替えたりして、冷蔵で得られた構造上の利点を打ち消してしまう可能性を指摘しています。さらに、これまでの研究では電子レンジ加熱がデンプンの消化性に与える影響の報告が一致しておらず、その理由としてデンプンの種類や加熱条件、そしてデンプン自身の細かな分子構造の違いが考えられてきました。
そこで研究チームは、「電子レンジでの温め直しが冷蔵ご飯の消化性に与える影響は、デンプンの細かな分子構造によって決まる」という仮説を立て、これを検証することを目的としました。
何をどう調べたか
研究チームは、デンプン分子の鎖の長さの分布が異なる10種類の米を市販品から選びました。その中には、血糖指数(GI)の認証団体から低GI米として認証を受けた市販の白米も含まれています。ここでいう「鎖の長さ」とは、デンプンを構成する二種類の成分——枝分かれの少ない直鎖状のアミロースと、枝分かれの多いアミロペクチン——のそれぞれの鎖がどれくらいの長さ(重合度、DP)で構成されているかを指します。
各品種の米を蒸して炊き、三つの状態のサンプルを用意しました。炊きたての状態(Day 0)、4℃で3日間冷蔵して老化させた状態(Day 3)、そして冷蔵後に電子レンジ(528 W)で2分間温め直した状態(Day 3 MW)です。3日間という保存期間は、老化が最初の3日間で最も速く進んで安定することと、米国のFDAおよびUSDAが炊いたご飯の4℃での安全な冷蔵期間として3〜4日を推奨していることの両方を踏まえて選ばれました。なお温め直し後のご飯の中心温度は95℃でした。
これらのサンプルについて、消化酵素を使って試験管内(in vitro)でデンプンの消化を再現し、時間とともにどれだけ分解されるかを測定しました。あわせて、デンプン鎖の長さの分布を調べるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、米粒表面の様子を見る走査型電子顕微鏡(SEM)、結晶構造の種類と量を調べるX線回折(XRD)、加熱時の熱の出入りから構造の安定性を調べる示差走査熱量測定(DSC)を組み合わせ、消化性の違いを構造の違いと結びつけて解析しています。なお、家庭での実際の使われ方に近づけるため、温め直し前に水分量をそろえる操作は行っていないと述べられています。
主な報告結果
炊きたての状態では、いずれの品種も120分で消化がほぼ頭打ちになり、最大でおよそ100%が分解されました。3日間冷蔵すると、すべての品種で消化されやすさが低下しました。中でも低GI米のデンプンは、老化後の消化されやすさが全品種の中で最も低かったと報告されています。研究チームは、この米がアミロースの含量と長鎖アミロースの割合の高さを特徴としており、それが冷蔵初期の速やかな老化を促すことが背景にあると説明しています。
電子レンジで温め直すと、全体の傾向としては消化されやすさが上向きました。これは、冷蔵中にできた規則的な構造が加熱で崩れ、二重らせんがほどけて酵素が働きやすくなるためだと説明されています。ただし影響の現れ方は品種ごとに異なりました。ある品種では最終的な消化率が上がり、別の品種では消化の速度が上がる、というように反応のパターンが分かれています。一方で、低GI米・南京米・盤錦米の3品種では、消化の速度や最終的な消化率に有意な変化が見られませんでした。この3品種は、DP 5000〜20000という非常に長いアミロース鎖の割合が上位を占めており、著者らは、極端に長いアミロース鎖が電子レンジによる構造の損傷への抵抗性をもたらすと考察しています。
さらに低GI米は、温め直しによって酵素と結合する速度を表す指標がむしろ低下した唯一の品種でした。研究チームは、その理由として、アミロース含量が高いため加熱で崩れた後も直鎖分子が再び並び直しやすいこと、非常に長いアミロース鎖が脂質やタンパク質といった他の分子と結びついて損傷を受けにくいこと、そしてアミロペクチンの特定の長さの鎖が多いことが二重らせんの形成を促すこと、という三つのしくみを挙げています。
構造解析の結果も、この違いを裏づけるものでした。X線回折では、電子レンジ加熱によってすべての品種で結晶性が下がりましたが、崩れたのは主に老化したアミロペクチンに由来する「B型」の結晶で、アミロースが脂質などを取り込んでできる「V型」の構造は比較的保たれていました。熱量測定でも、冷蔵によって新たに現れた低温側のピーク(老化したアミロペクチンの二重らせんが融ける signal)は電子レンジ加熱で失われる一方、高温側のアミロース–脂質複合体は熱に強く残ることが示されています。低GI米では、温め直し後に高温側の熱量がわずかに増えており、加熱によってアミロースと脂質の複合体が組み直され、酵素に分解されにくい構造が新たに形成された可能性が示されました。また電子顕微鏡では、炊きたてのご飯粒表面に見られた大きな孔が冷蔵で小さくなり、温め直しによって再び大きく不均一になる様子が観察されています。
この結果が意味すること
この研究が示したのは、「冷蔵したご飯を温め直すと消化されにくさが失われる」という単純な話ではなく、その影響が米のデンプン構造によって大きく変わるということです。アミロペクチンの中〜長い鎖を多く含む品種では、温め直しによって規則的な構造が壊れて消化が速まりやすい一方、アミロース含量が高く、特に非常に長いアミロース鎖を多く持つ品種では、電子レンジによる構造の損傷に抵抗し、ゆっくり消化される性質が保たれていました。
著者らは、電子レンジでの温め直しが冷蔵ご飯に及ぼす影響はデンプンの構造に固有のものであり、一部の品種だけが温め直し後もゆっくり消化される性質を維持すると結論づけています。米の品種によって同じ調理・保存・再加熱の手順でも結果が異なりうることを、分子構造のレベルから示した点にこの研究の意義があります。
著者:Jingru Zhuang(Food & Nutritional Sciences Programme, School of Life Sciences, The Chinese University of Hong Kong, Shatin 999077, Hong Kong, China)、Yiyang Li(Food & Nutritional Sciences Programme, School of Life Sciences, The Chinese University of Hong Kong, Shatin 999077, Hong Kong, China)、Lanbin Cui(Food & Nutritional Sciences Programme, School of Life Sciences, The Chinese University of Hong Kong, Shatin 999077, Hong Kong, China)、Enpeng Li(Jiangsu Key Laboratory of Crop Genomics and Molecular Breeding, Jiangsu Key Laboratory of Crop Genetics and Physiology, College of Agriculture, Yangzhou University, Yangzhou 225009, China)、Changquan Zhang(Jiangsu Key Laboratory of Crop Genomics and Molecular Breeding, Jiangsu Key Laboratory of Crop Genetics and Physiology, College of Agriculture, Yangzhou University, Yangzhou 225009, China)、Cheng Li(Food & Nutritional Sciences Programme, School of Life Sciences, The Chinese University of Hong Kong, Shatin 999077, Hong Kong, China; State Key Laboratory of Agrobiotechnology, The Chinese University of Hong Kong, Hong Kong, China. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jingru Zhuang, Yiyang Li, Lanbin Cui, et al. Refrigerated cooked rice can retain its slow starch digestion property only with rice varieties having long amylose chains after microwave reheating. Food Chemistry 2026-08-24. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.150897. 原著ライセンス:CC BY.