著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、メキシコです。
掲載誌:SOSEBI Jurnal Penelitian Mahasiswa Ilmu Sosial Ekonomi dan Bisnis Islam
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:ハラール認証を受けた飲食事業者に注目して
インドネシアでは、スマートフォンの電子財布(eウォレット)や、QRコードを読み取って支払う統一規格「QRIS」の利用が広がっています。研究チームは、こうしたデジタル決済の利用が、零細・小規模・中規模の事業者(MSMEs)の財務面の成果とどのように関係しているかを調べました。対象はジャワ島東部のトゥルンアグン県で、ハラール(イスラームの教えで許された食品)の認証を受けた飲食事業者です。
論文によると、これまでにもパダン市の飲食事業者やジョグジャカルタの事業者などで、デジタル決済の利用と財務成果の間に正の関係があるとする研究が報告されてきました。しかし、ハラール認証を受けた飲食事業者に絞った研究や、イスラーム経済の考え方を分析の枠組みに組み込んだ研究はなかったとして、著者らはこの空白を埋めることを目指しました。
何をどのように調べたか
調査は2026年2月から4月にかけて、Googleフォームを使ったアンケートで行われました。対象は、ハラール認証を受け、すでにQRISを導入している飲食事業者で、事業の財務や支払いに関する判断を直接担う経営者または管理者が回答しました。配布した130件のうち、回収できなかったものや条件を満たさなかったものを除いた100件が分析に使われました。回答者の8割は経営者、2割は管理者でした。
アンケートでは「デジタル決済」と「財務成果」をそれぞれ8つの質問で尋ね、「まったくそう思わない」から「とてもそう思う」までの5段階で答えてもらいました。デジタル決済については使いやすさ、利点、信頼性を、財務成果については売上・資本・利益の伸びを測る内容です。つまり、ここでの数値は帳簿の金額ではなく、回答者自身の受け止め方を点数化したものです。研究チームは質問項目がきちんと測りたいものを測れているかを確認したうえで、一方の点数から他方の点数の変化を説明する「単回帰分析」という統計手法で両者の関係を調べました。
主な結果:正の関連と、その読み取り方
分析の結果、デジタル決済の点数が高い事業者ほど財務成果の点数も高いという、統計的に意味のある正の関連が報告されました。論文の推定では、デジタル決済の点数が1点上がるごとに、財務成果の点数は平均して約0.61点高くなる関係が示されています。また、財務成果の点数のばらつきのうち39.9%がデジタル決済の点数で説明できたとされ、残りは事業規模、事業年数、経営者の学歴やデジタルへの習熟度、立地、扱う料理の種類など、モデルに含まれていない要因によるものと著者らは述べています。
著者らは、この結果を因果関係の証明として読むべきではないと強調しています。調査は一時点のデータに基づくため、もともと財務状態の良い事業者が、端末や通信環境を用意しやすいためにデジタル決済を十分に使いこなしている、という逆向きの関係もあり得ます。さらに、対象はすでにQRISを導入した事業者に限られているため、結果は導入済みの事業者の間での利用の度合いや評価の違いを示すものであり、導入そのものの効果や未導入の事業者には当てはめられないとしています。
そのうえで論文は、関連の背景として考えられる仕組みにも触れています。デジタル決済ではその場で支払いを確認でき、記録が正確になりやすいことや、偽札を受け取る危険やお釣りの計算ミスが減ることが挙げられています。
イスラーム経済から見た意味
イスラームの考え方では、礼拝以外の経済活動は原則として許されたもの(ムバーフ)とされ、デジタル決済という技術そのものも基本的には容認されると論文は説明します。問われるのは技術の形ではなく、その運用方法、背後にある契約の正当性、そしてもたらす利益です。著者らは、公正さや透明性、資金やデータを預かる信頼(アマーナ)を守り、利子(リバー)、過度な不確実性(ガラル)、賭け事のような投機性(マイスィル)を避ける限り、デジタル決済はイスラームの取引の手段として受け入れられると結論づけています。
論文はまた、取引履歴が自動で残る機能が、取引を正確に書き記すことを重んじるイスラームの記録の原則に通じる面があると指摘しています。ただし、決済事業者の履歴がそのまま完全な帳簿になるわけではなく、経営者自身の帳簿付けの努力が欠かせないとも述べています。統計上の関連だけで宗教上の正当性が確かめられるわけではないという点も明記されています。
この研究は、ハラール飲食事業者の間でデジタル決済の活用度と財務面の手応えが結びついていることを示すと同時に、その技術をどのような原則のもとで使うかが重要であることを、イスラーム経済の視点から整理したものといえます。
原著論文の著者・所属:Catur Wulandari(Student of Universitas Islam Negeri Sayyid Ali Rahmatullah Tulungagung)、Lantip Susilowati(Lecturer of Universitas Islam Negeri Sayyid Ali Rahmatullah Tulungagung)、Paulina Vidal Aguirre(Student of Universidad Autόnoma del Estado de Morelos)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Catur Wulandari, Lantip Susilowati, Paulina Vidal Aguirre THE IMPACT OF DIGITAL PAYMENT ON THE FINANCIAL PERFORMANCE OF HALAL CULINARY MSMEs FROM AN ISLAMIC ECONOMICS PERSPECTIVE. SOSEBI Jurnal Penelitian Mahasiswa Ilmu Sosial Ekonomi dan Bisnis Islam 2026-08-04. DOI: 10.21274/sosebi.v6i1.12203. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。