著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
短距離走選手の腸内細菌を調べる理由
腸内細菌叢(腸にすむ細菌の集まり)は、運動選手の体の状態や代謝の特徴と関わる要因として注目されています。ただ、これまでの研究はマラソンや自転車などの持久系競技の選手が中心でした。短い時間に爆発的な力を出す短距離走は、酸素をあまり使わない「無酸素性」の運動が主体で、体に求められる働きが持久系とは大きく異なります。それにもかかわらず、短距離走選手に絞って腸内細菌を詳しく調べたデータはほとんどありませんでした。
そこで研究チームは、大学の短距離走選手の腸内細菌叢の特徴を明らかにすることを目的としました。運動選手ではない同年代の学生と比べ、短距離走選手に特徴的な細菌を探しました。あわせて、食事とそれらの細菌との関連を探索的に調べ、今後の検証につながる仮説を示そうとしています。
どのように調べたか
対象は、中国・安徽医科大学の陸上部で日常的に高強度の短距離トレーニングをしている学生20人と、定期的な運動トレーニングをしていない学生23人です。両グループの年齢、性別、体格指数(BMI)に統計的な差はありませんでした。参加者は全員が同じ型のスマートバンドを1週間着け、運動の頻度や強度を記録しました。選手のトレーニングは週およそ5回、合計約10時間でした。非選手の運動は平均で週2.5回、合計約2時間で、ジョギングや球技などの気軽な運動が中心でした。
記録期間の終わりに便を採取しました。研究チームは、便に含まれる遺伝子をまとめて読み取る「メタゲノム解析」により、どんな細菌がどれだけいて、どのような働きを持つと予測されるかを調べました。食事については、24の食品分類について1週間の摂取量を答える質問票を使いました。
主な結果
1人の腸にいる細菌の種類の豊かさ(多様性)には、両グループで有意な差はありませんでした。一方、細菌の顔ぶれの構成を比べると、両グループは統計的に区別できるほど異なっていました。大きな分類でみると、選手ではバクテロイドータ門の細菌の割合が平均36.3%で、非選手の22.6%より高くなっていました。
選手に特徴的な細菌として最も目立ったのは、セガテラ・コプリ(Segatella copri)でした。ビフィズス菌の一種であるビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)も、選手で有意に多くみられました。研究チームはデータの性質に配慮した別の解析も行い、これらの特徴的な細菌が一貫して確認されたと報告しています。
遺伝子の情報から細菌の働きを予測したところ、選手の腸内細菌では、炭水化物の代謝やアミノ酸の代謝に関わる経路が多く見られる傾向がありました。ただし、これは遺伝子から推定した「働きの可能性」で、実際の働きを直接測ったものではありません。
食事の質問票では、選手は非選手より乳製品と焼き菓子・パン類を多くとっていました。ほかの22分類の食品には有意な差がありませんでした。食事と細菌の関連を調べると、セガテラ・コプリの量は乳製品の摂取量と正の相関を示しました(相関係数0.31)。ビフィドバクテリウム・アドレセンティスは、全粒穀物、「豆乳・大豆粉」の分類、乳製品の摂取と正の相関を示しました。ただし、これらは多数の比較を補正していない探索的な結果だと著者らは位置づけています。
この研究が示すこと
この研究は、大学の短距離走選手が、細菌の種類の豊かさは同年代の学生と同程度でありながら、腸内細菌の構成では異なる特徴を持つことを報告しました。セガテラ・コプリとビフィドバクテリウム・アドレセンティスは、その特徴を示す細菌として挙げられています。
一方で著者らは、参加者数が少ないこと、食事が自己申告に基づくこと、睡眠やストレス、サプリメント使用などの影響を十分に除けていないことを限界として挙げています。また、これらの細菌が短距離走の能力に影響するという因果関係は確かめられていません。今回の結果は、短距離走選手の腸内細菌と食事の結びつきについて、今後の検証の出発点となる仮説を示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Chuanjian Su(Clinical Medical College of Anhui Medical University, Anhui Medical University)、Jinfeng Lan(Army Arms University of PLA, Hefei, Anhui, China)、Huimin Chen(The First Affiliated Hospital of Anhui Medical University, Anhui Medical University)、Daoming Wang(School of Physical Education and Health, Anhui Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chuanjian Su, Jinfeng Lan, Huimin Chen, et al. Gut microbiota of sprint athletes: signature microbes and dietary links. Frontiers in Nutrition 2026-08-04. DOI: 10.3389/fnut.2026.1855417. 原著ライセンス:CC BY.