この研究は、中国、ポーランド、エジプトの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

母乳は乳児の栄養の基準とされますが、著者らによれば、生後0〜6か月で完全母乳育児を受けている乳児は44%にとどまります。母乳が得られない場合には育児用ミルク(乳児用調製粉乳)が代わりに用いられます。乳児のエネルギー摂取のおよそ半分は脂肪が占めるため、脂肪の質をどこまで母乳に近づけられるかが課題になります。

研究チームは、ラクダ乳の脂肪を土台にした母乳脂質の模倣品をつくることを目的としました。着目したのは、脂肪酸(脂肪を構成する成分)の種類と量の組み合わせ、そして脂肪酸が脂肪分子のどの位置に結びついているかという構造です。とくに、中性脂肪の中央(sn-2位)にパルミチン酸が付いている割合が重視されます。論文の説明では、母乳ではこの位置にパルミチン酸が多く、脂肪やカルシウムの吸収に関わるとされています。ラクダ乳の脂肪は他の動物乳に比べてこの点で母乳に近いと報告されており、出発材料として選ばれました。

何を調べ、どうつくったか

著者らは、ラクダ乳の脂肪に、ひまわり油、なたね油、パーム核油、魚油、および1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルグリセロール(OPO)を物理的に混ぜ合わせました。配合比は計算による最適化モデルで決め、エジプトの女性から提供された成熟乳(25名分)の脂肪酸組成に近づけることを目標としています。最終的な配合は、ラクダ乳脂肪が全脂肪の40%、以下ひまわり油5%、魚油5%、なたね油15%、OPO 20%、パーム核油15%でした。この配合品をIFCMと呼んでいます。

IFCMは、ラクダ乳の殺菌、クリームの分離、油相と水相の混合、高圧での均質化、噴霧乾燥という工程を経て粉末にされました。比較対象として、エジプトで市販されている植物油ベースの粉ミルク3製品と、母乳そのものを用いています。

評価項目は、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸組成(全体とsn-2位)、母乳との近さを数値化する類似指数、赤外分光(FTIR)と示差走査熱量測定(DSC)による構造・熱的性質、さらに胃と腸を模した装置で消化の進み具合を追う試験管内(in vitro)の消化試験です。ここでの消化試験はあくまで実験室での模擬であり、乳児での試験ではありません。

主な報告結果

脂肪酸の種類について、母乳とIFCMではいずれも29種類が検出されたのに対し、市販品では19種類以下でした。母乳との間で有意な差がみられた脂肪酸の数は、IFCMで11、市販品では12〜19でした。飽和脂肪酸の合計はIFCMで50.99%で、母乳の49.34%に近く、市販品(35.47〜41.09%)より高い値です。

sn-2位のパルミチン酸は、IFCMで34.76%でした。母乳の47.29%には届かないものの、市販品の10.46〜14.84%より母乳に近い値と報告されています。一方、sn-2位の飽和脂肪酸の合計はIFCMが54.01%、母乳が77.75%で、著者らはこの差がまだ残ると述べています。主成分分析でも、IFCMの試料は母乳の試料と近い位置に集まりました。

模擬消化では、腸での分解度(脂肪が分解された割合)が120分時点でIFCM 66.47%、母乳 69.93%、市販品 60.28〜65.43%でした。FTIRとDSCで調べた構造や融解の性質についても、IFCMは植物油ベースの市販品より母乳に近いプロファイルを示したと報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、ラクダ乳の脂肪に複数の油を組み合わせることで、脂肪酸の組成・構造の両面で母乳脂肪により近く、試験管内での脂質消化も改善された配合が得られたと結論づけています。ただし論文自身が述べるとおり、参照した母乳はエジプトの女性の成熟乳に限られるため、この結果をすべての母乳集団に一般化することはできません。また、脂肪酸組成以外の栄養素や安全性は今回の評価範囲外であり、乳児での効果は確かめられていません。

この研究の意味は、配合の設計、組成と構造の分析、模擬消化までを一つの流れで行い、ラクダ乳脂肪が母乳脂肪の模倣素材としてどこまで近づけるかを具体的な数値で示した点にあります。同時に、sn-2位の飽和脂肪酸をはじめ母乳との隔たりが残ることも、同じ枠組みの中で明らかにされています。

著者:Ibrahim A. Bakry(College of Food Science and Technology, Henan Agriculture University)、Wei Wei(Collaborative Innovation Centre of Food Safety and Quality Control in Jiangsu Province, School of Food Science and Technology, Jiangnan University)、Ning Li(College of Food Science and Technology, Henan Agriculture University)、Mohamed Abouzid(Department of Physical Pharmacy and Pharmacokinetics, Faculty of Pharmacy, Poznan University of Medical Sciences)、Xingguo Wang(Collaborative Innovation Centre of Food Safety and Quality Control in Jiangsu Province, School of Food Science and Technology, Jiangnan University)、Hazem Golshany(Food Science Department, Faculty of Agriculture, Cairo University)、Abdelaziz Elbarbary(Collaborative Innovation Centre of Food Safety and Quality Control in Jiangsu Province, School of Food Science and Technology, Jiangnan University)、Alaa Nafea(Department of Physical Pharmacy and Pharmacokinetics, Faculty of Pharmacy, Poznan University of Medical Sciences)、Amal Gohary(Department of Physical Pharmacy and Pharmacokinetics, Faculty of Pharmacy, Poznan University of Medical Sciences)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ibrahim A. Bakry, Wei Wei, Ning Li, et al. Camel milk fat-based human milk fat substitute. Frontiers in Nutrition 2026-09-04. DOI: 10.3389/fnut.2026.1917713. 原著ライセンス:CC BY.