中国・新疆ウイグル自治区では、ラクダの乳を自然に発酵させた乳製品が伝統的に作られており、栄養価の高さで評価されています。ただし、自然発酵は特定のスターター菌を使わず、環境中の微生物にゆだねる製法であるため、複雑な微生物の生態系が関わり、製品ごとの品質にばらつきが生じやすいという課題があります。今回紹介する研究は、新疆内の異なる地域で作られた自然発酵ラクダ乳を対象に、そこに住む微生物の種類と、香りのもとになる揮発性成分との関係を調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、ダバンチェン、ハミ、コピンという新疆内の3つの異なる地域から集めた計9個の自然発酵ラクダ乳サンプルを分析しました。細菌については16S rRNA遺伝子、カビや酵母などの真菌についてはITS領域という部分を対象にした遺伝子解析(アンプリコンシーケンシング)を行い、あわせて包括的二次元ガスクロマトグラフィー飛行時間型質量分析(GC×GC-TOF MS)という手法で香り成分(揮発性成分)を詳しく調べました。
細菌については、どの地域のサンプルもFirmicutes門とProteobacteria門が多く、真菌についてはAscomycota門とBasidiomycota門が優勢であることが分かりました。一方で、優占する菌の属(ぞく)は地域によって異なっていました。ダバンチェンではLactobacillus属とDekkera属、ハミではLactobacillus属とDipodascus属、コピンではLactococcus属とCutaneotrichosporon属が多く見られたと報告されています。
香り成分のプロファイルも地域ごとに違いがありました。ダバンチェンのサンプルはエステル類・アルコール類・ケトン類が豊富で、ハミは炭化水素類とアルコール類が目立ち、コピンは炭化水素類・アルコール類・エステル類が多く含まれていたとされています。
さらに統計的な解析により、特定の菌と特定の香り成分との関連も示されました。Lactobacillus属、Rahnella属、Acetobacter属は、プロペンや3-デシン-2-オールという成分と正の関連(VIPが1.0を超え、相関係数の絶対値が0.8を超える)が見られた一方、Pseudomonas属、Lactococcus属、Klebsiella属は、酢酸ビニル由来のn-カプロン酸ビニルエステル(vinyl n-caproate)とは負の関連を示したと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
これらの結果は、産地・特定の微生物の種類・香りの特徴の間に統計的なつながりがあることを示すものであり、著者らは、将来的に特定の香りを狙ったスターター培養菌の開発に役立つ科学的な基盤になりうるとしています。ただし、これはあくまで統計的な関連を示したものであり、実際に菌を分離して機能を確かめる検証はこれからの課題として位置づけられている点に注意が必要です。1つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
今回の研究は、新疆の3地域で作られる自然発酵ラクダ乳について、地域ごとに異なる微生物の顔ぶれと香りの特徴があり、両者の間に統計的な関連が見られることを明らかにしました。今後、菌の分離や機能の検証が進めば、地域ごとの風味を生かした発酵食品づくりの理解につながることが期待されるとされています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:中国新疆3地域における自然発酵ラクダ乳の揮発性香気プロファイルと微生物叢の関連性の解明(フーズ・2026年08月)