この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Cancer Causes & Control

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜコーヒーと大腸がんを調べたのか

大腸がんは世界で3番目に多いがんであり、米国ではがんによる死亡原因の2番目に位置します。そのため、生活習慣のように本人が変えられる要素が、大腸がんの経過にどう関わるのかを知ることが重要だと著者らは説明しています。コーヒーは以前から注目されてきた候補のひとつで、細胞や動物を使った実験では、細胞の増殖を抑える働きや、抗酸化・抗炎症の働きなどが報告されてきました。

近年は、大腸がんと診断された人のコーヒー摂取が、全死因の死亡(原因を問わない死亡)や大腸がんによる死亡のリスクの低さと関連するという報告が増えています。ただし著者らは、これまでの研究の参加者が人種・民族的に偏っていた点を限界として挙げます。米国では大腸がんの死亡率に人種・民族による差があることが記録されており、またコーヒーを飲む量そのものも集団によって異なります。そこで研究チームは、多様な人種・民族を含む集団で、大腸がん診断後のコーヒー摂取と死亡リスクの関連を調べることを目的としました。

どのように調べたか

用いられたのは、ハワイとカリフォルニアで行われている多民族コホート研究(Multiethnic Cohort Study)のデータです。参加者は1993〜1996年の登録時と2003〜2008年の追跡調査時に、食事の内容と頻度を尋ねる質問票に回答しました。分析の対象となったのは、登録時には大腸がんがなく、その後に大腸がんと診断され、診断後の食事調査にも回答した1,098人です。内訳は黒人・アフリカ系14%、日系42%、ラテン系16%、ネイティブハワイアン7%、白人21%で、診断時の平均年齢は69歳でした。

コーヒー摂取は、診断後の質問票で「レギュラーコーヒー」と「カフェインレスコーヒー」をそれぞれどのくらいの頻度で飲むかを尋ねる形で把握されました。主な指標は両者を合わせた総コーヒー量で、カフェイン入り・カフェインレスを別々に見た分析や、コーヒー以外(紅茶、緑茶、炭酸飲料など)も含めたカフェイン総量の分析も行われています。追跡は2019年末までで、この間に628人が亡くなり、そのうち107人の死因は大腸がんでした。

解析では、年齢、性別、人種・民族、体格指数、がんの部位や進行度、学歴、婚姻状況、喫煙、身体活動、併存疾患、飲酒量などの違いを統計的に調整したうえで、コーヒー摂取と死亡リスクの関連が推定されました。ここでの「関連」は、コーヒーが死亡を減らす原因だと示すものではなく、観察された結びつきを表すものです。

報告された主な結果

集団全体で見ると、総コーヒーおよびカフェイン入りコーヒーの摂取量と、全死因死亡・大腸がん死亡のリスクとの間に、統計的に意味のある関連は認められませんでした。一方で、カフェインレスコーヒーの摂取が多いほど全死因死亡のリスクが低いという関連が報告されています(1日1杯増えるごとのハザード比0.82、95%信頼区間0.70〜0.97)。この関連は、カフェイン入りコーヒーの量を同時に調整しても残りました。

人種・民族ごとに分けた分析では、グループ間で関連の大きさが統計的に異なるとまでは言えなかったものの、白人参加者では総コーヒーとカフェイン入りコーヒーの摂取が多いほど大腸がん死亡のリスクが低く、ネイティブハワイアンの参加者では総コーヒーとカフェイン入りコーヒーが全死因死亡のリスクの低さと関連していました。他のグループでは同様の関連は見られていません。

飲み物の種類を問わずカフェイン摂取量で比べた分析では、摂取量が最も多い4分の1の人たちは、最も少ない4分の1の人たちに比べて、全死因死亡(ハザード比0.78)と大腸がん死亡(同0.48)のリスクが低いという結果でした。さらに、診断前から診断後にかけてコーヒーの量が増えた人ほど全死因死亡のリスクが低いという関連も、連続量として扱った解析で報告されています。

著者らは限界も挙げています。この集団ではコーヒーを大量に飲む人が少なく、他の研究のように1日4杯以上といった多量摂取の影響を検討できませんでした。一部の人種・民族グループは人数が少なく、個別の分析には限りがあります。また観察研究であるため、測定しきれていない要因の影響を否定できず、複数の指標を検討したことによる偶然の結果の可能性も残ると述べています。

この研究が示すこと

著者らは、多様な人種・民族を含む大腸がん患者の集団では、総コーヒーやカフェイン入りコーヒーと死亡リスクの関連が一部のグループでのみ見られ、集団全体ではカフェインレスコーヒーの多い摂取が全死因死亡の低さと関連していた、とまとめています。コーヒーそのものよりカフェインに着目した検討が必要かもしれないという見方も示されました。

これらは原因と結果を確かめたものではなく、集団の中で観察された関連です。それでも、これまで主に白人集団で調べられてきた問いを、より多様な人々を含む集団で検討し、グループごとに結果が一様ではないことを示した点に、この研究の意味があると言えます。

著者:Kathryn R.K. Benson(Department of Medicine, University of California, San Francisco, CA, USA)、Irina Tolstykh(Department of Epidemiology and Biostatistics, University of California, 550 16th St., San Francisco, CA, 94158, USA)、June M. Chan(Department of Epidemiology and Biostatistics, University of California, 550 16th St., San Francisco, CA, 94158, USA)、Sorbarikor Piawah(Department of Medicine, University of California, San Francisco, CA, USA)、Lynne R. Wilkens(Population Sciences in the Pacific Program, University of Hawai’i Cancer Center, University of Hawai’i; Honolulu, Honolulu, Hawai’i, USA)、Song‐Yi Park(Population Sciences in the Pacific Program, University of Hawai’i Cancer Center, University of Hawai’i; Honolulu, Honolulu, Hawai’i, USA)、Stacey A. Kenfield(Department of Epidemiology and Biostatistics, University of California, 550 16th St., San Francisco, CA, 94158, USA)、Loïc Le Marchand(Population Sciences in the Pacific Program, University of Hawai’i Cancer Center, University of Hawai’i; Honolulu, Honolulu, Hawai’i, USA)、Christopher A. Haiman(Department of Population and Public Health Sciences, Keck School of Medicine, University of Southern California, Los Angeles, CA, USA)、I. Cheng(Department of Epidemiology and Biostatistics, University of California, 550 16th St., San Francisco, CA, 94158, USA)、Erin L. Van Blarigan(Department of Epidemiology and Biostatistics, University of California, 550 16th St., San Francisco, CA, 94158, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kathryn R.K. Benson, Irina Tolstykh, June M. Chan, et al. Association of coffee intake with risk of all-cause and colorectal cancer-specific mortality among individuals with colorectal cancer in the Multiethnic Cohort Study. Cancer Causes & Control 2026-09-09. DOI: 10.1007/s10552-026-02246-w. 原著ライセンス:CC BY.