イネは世界人口の半数以上が主食とする作物です。品種改良の現場では、収穫量を増やすことと同時に「倒伏(とうふく)」、つまり台風や大雨、あるいは肥料をよく効かせた栽培条件で茎が折れたり倒れたりしてしまう現象を防ぐことが、長年の大きな課題とされてきました。倒伏が起きると収量や品質、収穫作業の効率が大きく損なわれることが知られており、その被害は条件によって収量の1割から8割以上にも達すると報告されています。しかし、倒伏のしにくさも収量も、単一の遺伝子ではなく多数の要因が絡み合って決まる「量的形質」であり、しかも環境の影響を強く受けるため、どの特徴に着目して選抜すればよいかを見極めるのが難しいという問題がありました。

今回紹介するのは、インドのプロフェッサー・ジャヤシャンカール・テランガナ農業大学(PJTAU)の研究グループが、多様な親系統から生み出された30種の高度育種系統(ABL-1〜ABL-30)を対象に、茎や収量に関わる特徴を統計的手法で整理し、倒伏に強く収量も期待できる有望な系統を探した研究です。

どのように調べたのか

研究チームは2025年の雨季(Kharif期)に、灌漑された圃場で乱塊法(同じ処理区を繰り返し配置して誤差を減らす実験デザイン)による栽培試験を2反復で実施しました。播種から27日後に苗を本圃へ移植し、各区で無作為に選んだ3株について、開花50%までの日数、草丈、稈長(茎の長さ)、節間長、稈の直径、稈の厚さ、穂長、穂重、一穂あたりのもみ数、千粒重、株あたり収量など、倒伏や収量に関わる13の形質を測定しました。稈の直径や厚さは、茎の下から4番目の節間をノギスで測定し、外側と内側それぞれの長径・短径の平均から算出する方法が用いられています。倒伏への抵抗性については、地上20〜25cmの位置に器具を当てて45度まで傾け、どれだけ押す力に耐えられるかという方法で評価されました。

これらの多数の形質を一度に解析するために用いられたのが「主成分分析(PCA)」という統計手法です。これは、互いに関連し合う多くの測定項目を、少数の合成軸(主成分)にまとめることで、系統ごとの特徴の違いを見渡しやすくする手法です。解析にはR言語(バージョン4.3.2)が使用されました。

解析でわかったこと

解析の結果、12個の主成分が抽出され、そのうち固有値が1を超える最初の4つの主成分で、全体のばらつき(表現型の多様性)の68.76%を説明できることが示されました。特に第1主成分(全体の22.94%を説明)は稈長と草丈への関わりが強く、第2主成分(20.61%)は稈の強度と穂長への関わりが強いという結果でした。第3主成分(14.22%)では稈の厚さと直径が主な要因となっていました。これらの結果から、稈長・草丈・稈の強度・稈の厚さ・稈の直径・一穂あたりのもみ数・穂重の7つが、系統間の違いを生み出す主な要因として浮かび上がりました。

興味深い点として、稈の強度は穂長やもみ数、穂重といった収量に関わる形質と同じ方向の関連を示した一方、草丈や稈長はこれらの収量形質とは逆方向の関連を示しました。研究チームはこれについて、茎を丈夫にすることは必ずしも草丈を高くすることとセットではなく、むしろ過度な草丈の伸びは繁殖効率の低下や倒伏しやすさの増加につながりうると述べています。

系統ごとの分布を見ると、ABL-1、ABL-7、ABL-8の3系統が、稈の強度やもみ数、穂重、穂長といった望ましい形質のベクトルに近い位置に分布しており、倒伏への強さと収量性を両立した組み合わせを持つ系統として位置づけられました。一方でABL-2、ABL-6、ABL-11は草丈や稈長との関連が強く、草丈の高さゆえに倒伏しやすい可能性が指摘されています。また、ABL-14、ABL-15、ABL-16、ABL-18、ABL-19は主要な形質のベクトルから離れた位置にあり、倒伏抵抗性・収量関連形質のいずれの発現も相対的に低いと報告されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、2025年の一つの栽培期・一つの試験地で得られたデータに基づく解析であり、著者らも今後は複数の地域での評価(マルチロケーション試験)が必要だとしています。つまり、ABL-1、ABL-7、ABL-8が有望とされたのは、あくまで今回の条件下での統計的な位置づけであり、実際の品種として各地で同様の性能を示すかどうかはさらなる検証が必要な段階です。また、この研究が明らかにしたのは形質同士の関連やグループ分けであり、特定の遺伝子や仕組みそのものを解明したものではありません。研究に用いられた系統や手法はあくまで育種の初期段階の評価であり、実際に店頭に並ぶ品種の性質を直接示すものではない点にも留意が必要です。

まとめ

この研究は、倒伏のしにくさと収量性という、育種上しばしばトレードオフになりがちな2つの目標を、多数の形質を統計的に整理することで同時に評価する試みでした。稈の強度を高めることが収量関連の形質と矛盾しない可能性を示した点、そして草丈や稈長を絞り込む方向性が今後の選抜の指針になりうる点は、今後のイネ育種における一つの手がかりとして注目されます。今回選び出されたABL-1、ABL-7、ABL-8の3系統は、今後さらに複数地域での試験や、親系統としての活用可能性が検証されていく段階にあります。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Aleti Shirisha, V Hemalatha, B Laxmi Prasanna, et al. Multivariate analysis of phenotypic diversity among advanced breeding lines for culm and yield related traits in rice (Oryza sativa L.). 国際応用生化学研究ジャーナル (2026). DOI: 10.33545/26174693.2026.v10.i8sc.9422.