唐辛子を加工する際、大量に出る種は多くがそのまま廃棄されています。この種にはタンパク質が含まれており、酵素で分解すると抗菌作用を持つペプチド(アミノ酸が短くつながった断片)を得られる可能性があります。ただし、タンパク質はもともと密に折りたたまれた構造をしているため、酵素がうまく入り込めず、分解の効率や、抗菌性を持つ断片の取り出しやすさが制限されるという課題がありました。この研究では、唐辛子種子タンパク質(PSP)を対象に、高静水圧(HHP)という圧力をかける処理を酵素分解の前段階に組み合わせることで、この課題を改善できるかを調べています。使われた酵素はパパイン(パパイヤ由来のタンパク質分解酵素)です。
高い圧力をかけてから酵素で分解するとどうなったか
研究チームは、唐辛子種子タンパク質に100〜500メガパスカル(MPa)の範囲で圧力をかけたうえでパパインによる加水分解を行い、圧力をかけない場合と比較しました。その結果、圧力処理によって加水分解度(タンパク質がどれだけ細かく分解されたかを示す指標)が4.48〜28.84%高まったことが報告されています。さらに、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗菌活性を調べたところ、100MPaで処理した加水分解物が最も高い抗菌性能を示し、無処理と比べて阻害率が18.90%、阻止円(細菌の増殖が抑えられる範囲を示す指標)が10.25%それぞれ高くなったとされています。黄色ブドウ球菌は食中毒や皮膚感染などに関わる細菌として知られ、近年は抗生物質が効きにくい耐性菌の存在も公衆衛生上の課題として指摘されています。
なぜ抗菌力が高まったのか、構造面から探る
研究チームは、なぜ100MPaでの処理が最も良い結果を生んだのかを、タンパク質やペプチドの構造・性質の変化から検討しています。100MPa処理では、タンパク質の立体構造の一種であるα-ヘリックス(らせん状の構造)の含有量が23.15%増加し、表面疎水性(水になじみにくい部分が表面に出てくる度合い)が20.50%高まったことが示されています。また、分子量が3キロダルトン未満という小さなペプチドの量が284.07%増え、加水分解物の溶けやすさや分散のしやすさも改善したと報告されています。こうした変化により、ペプチドが細菌の細胞膜に結合し、膜を壊す働きが強まりやすくなり、抗菌作用が発揮されやすい環境がつくられたのではないかと論文では考察されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、唐辛子種子という食品副産物を高付加価値な形で活用するための一つの加工戦略として、高静水圧処理と酵素分解を組み合わせる手法の有効性を示したものです。ただし、実験室レベルでの黄色ブドウ球菌に対する抗菌性の評価であり、実際の食品や人体における効果、安全性、他の細菌への効果までを保証するものではありません。あくまで一つの研究段階の知見であり、結論が確定したものではない点に留意が必要です。なお、今回提供された情報の範囲では、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への直接の言及は見当たりませんでした。
まとめ
唐辛子の種というこれまで廃棄されがちだった部位のタンパク質に高い圧力をかけてから酵素で分解することで、分解効率が高まるとともに、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性能も向上したことが報告されました。この効果には、タンパク質の構造変化や小さなペプチドの増加が関わっている可能性が示唆されています。今後、食品副産物の有効活用や天然由来の抗菌素材の研究が進む中で、こうした知見がどのように応用されていくか注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Sidi Liu, Yue Han, Yiyi He, et al. Enhanced antibacterial performance of chili pepper seed protein hydrolysates by high hydrostatic pressure assisted enzymatic hydrolysis on Staphylococcus aureus: structural basis and mechanistic insights. フード・ケミストリー・エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104296. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.