著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリア、イギリスです。
掲載誌:International Journal of Food Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
多くの赤ワインづくりでは、アルコール発酵に加えて「マロラクティック発酵(MLF)」という工程が欠かせません。これは乳酸菌がワイン中のリンゴ酸を減らす発酵です。ところが、市販のスターター(発酵を始めるために加える菌)は、主にオエノコッカス・エニ(Oenococcus oeni)という一種類の菌に限られています。この菌には、増殖が遅い、栄養の要求が厳しい、酵母と同時に加える「共接種」では競争力が弱い、といった制約があると著者らは指摘しています。
そこで研究チームは、さまざまな自然環境から、新しいMLFの担い手となる乳酸菌を見つけることを目指しました。
何を調べたか
研究チームは、オーストラリアの7つの地域と、昆虫、花、蜂蜜、発酵食品などを含む8種類の採取源から、21属にわたる野生の乳酸菌714株を集めました。
そのうち400株について、シラーズ種のブドウ果汁の中で9種類の代謝物を測る小規模な試験(マイクロプレートを使ったスクリーニング)を行いました。リンゴ酸の減少量、菌の増殖、ワインの品質を損なう化合物の生成量について基準値を設け、各株を6つの機能区分に分類しています。
さらに、有望な23株については、ワイン酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)と一緒に発酵させる試験を、自動化されたロボット設備で行いました。最後に、選んだ5株について、香りに関わる揮発性成分も分析しています。
主な結果
果汁での試験では、400株のうち14株(3.5%)が最も優れた区分に入りました。その多くはラクチプランチバチルス属(14株中9株)でした。また、主にワインの劣化に関わる菌として知られるアピラクトバチルス属の2株が、品質を損なう化合物を作らずにMLFを完了したことも報告されています。
酵母との共発酵試験では、カンガルー島の昆虫から分離されたラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)の1株が48時間以内にMLFを完了し、比較対象とした市販の同種の菌を上回りました。一方、フルクチラクトバチルス属の14株は、果汁ではMLFの能力を示したにもかかわらず、共発酵ではすべて失敗しました。著者らはこの結果から、MLFの成否を左右したのは菌の代謝能力そのものよりも、ワインという環境の条件だったと解釈しています。
香りの分析では、選ばれた5株の野生株が、酵母に由来する香りの特徴を保っていたことが確認されました。また、菌を採取した地域と機能区分のあいだには統計的に有意な関連がみられ、ブドウに関わる環境ではMLFをこなせる株が多く見つかったと報告されています。
この研究が示すこと
研究チームは、自然環境から有用な微生物を探す方法が、ワイン用スターターの新たな候補を見つける手段として有効であることを示したとしています。あわせて、発酵への利用を見据えて整理された714株の乳酸菌コレクションを提供しました。果汁で働く菌がワインの中でも働くとは限らないという結果も含め、身近な自然が発酵の担い手を探す場になりうることを伝える研究です。
原著論文の著者・所属:Scott A. Oliphant(School of Agriculture, Food and Wine, Adelaide University, Waite Campus, Urrbrae, South Australia, Australia. Electronic address: [email protected])、Krista M. Sumby(School of Agriculture, Food and Wine, Adelaide University, Waite Campus, Urrbrae, South Australia, Australia)、Jennifer M. Gardner(School of Agriculture, Food and Wine, Adelaide University, Waite Campus, Urrbrae, South Australia, Australia)、Vladimir Jiranek(School of Agriculture, Food and Wine, Adelaide University, Waite Campus, Urrbrae, South Australia, Australia; School of Biological Sciences, University of Southampton, Life Sciences B85, Southampton, SO17 1BJ, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Scott A. Oliphant, Krista M. Sumby, Jennifer M. Gardner, et al. Wild Australian niches as a source of novel lactic acid bacteria and malolactic fermentation candidates. International Journal of Food Microbiology 2026-07-30. DOI: 10.1016/j.ijfoodmicro.2026.111992. 原著ライセンス:CC BY.