著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:すでにできてしまった酸化物をどう減らすか

食品に含まれるたんぱく質は、加熱や乾燥、光や金属イオンへの接触などで酸化されることがあります。その目印としてよく使われる物質が「ジチロシン」です。ジチロシンは、たんぱく質を構成するアミノ酸の一つであるチロシン同士が、酸化によって橋をかけるように結びついてできます。論文によると、ジチロシンは加工の度合いが強いほど食品中にたまりやすく、乳製品の凝固や肉製品の硬化といった品質の低下に関わります。また、これまでの研究で腸のバリア機能の乱れや慢性疾患などとの関連が指摘されてきました。

加工時にジチロシンができるのを抑える工夫は以前から検討されてきました。しかし、食品中にすでにできてしまったジチロシンを取り除くことは難しい課題とされています。研究チームが着目したのは乳酸菌です。乳酸菌はたんぱく質やアミノ酸を分解・代謝するさまざまな酵素を持ち、チロシンを代謝する種類も知られています。そこで著者らは、自然発酵食品の中にジチロシンを減らせる乳酸菌がいるのではないかと考えました。著者らの知る限り、食品中の既存のジチロシンを効率よく減らす乳酸菌はこれまで報告されていません。

1213株から有望な1株を選び出す

研究チームは、以前の研究で中国各地の自然発酵食品370試料から集めた、乳酸菌と推定される1213株を調べました。対象には豆、野菜、果物、肉、乳、茶などを原料とする発酵食品が含まれます。まず、ジチロシンを主な窒素源とする培地で各株を育て、培養後にどれだけジチロシンが減ったかを蛍光の強さで測りました。多くの株は減少率が40%未満にとどまりました。50%を超えたのはわずか4株で、全体の約0.33%でした。

この4株を改めて比べたところ、HNGD-XJ9という株の減少率が61.39%と最も高い結果でした。さらに、実際の食品に近い栄養の豊富な培地にジチロシンを加えて試した場合も、HNGD-XJ9の減少率は52.00%で、ほかの3株を明らかに上回りました。遺伝子配列による系統解析と、ゲノム全体の類似度を示す指標(ANI、99.18%)などから、この株は乳酸菌の一種Lactiplantibacillus plantarum(ラクチプランチバチルス・プランタルム)と同定されました。

株の性質とゲノムからの手がかり

研究チームは、胃や腸を模した条件での生き残りやすさも試験管内で調べました。HNGD-XJ9はpH3.0の人工胃液で4時間後も86.77%が生存し、比較した4株の中で最も高い値でした。ただし、より酸性の強いpH2.0では4時間後の生存率が約29%に下がりました。胆汁酸塩0.3%の条件でも4時間後は約30%でした。著者らは、胆汁酸塩への耐性については他の報告株より低かったと述べています。腸への付着しやすさの目安とされる細胞表面の疎水性は90.66%、菌同士が集まる性質(自己凝集性)は38.04%で、いずれも4株中で最高でした。血液寒天培地で赤血球を壊す性質(溶血性)は、試験した条件では見られませんでした。ただし、安全性を十分に評価するにはさらなる試験が必要だとしています。

全ゲノム解読からは、芳香族アミノ酸の代謝や、ベンゼン環のような芳香環を開く反応に関わると考えられる候補遺伝子が3つ見つかりました。著者らはこれをもとに、二段階の分解の仕組みを提案しています。まずチロシン同士をつなぐ結合を切り、次に芳香環を開くという考え方です。ただし、この仕組みはあくまで仮説であり、実験による検証が必要だと明記しています。また、コンピューター上の解析では、信頼度の高い抗生物質耐性遺伝子や病原性関連遺伝子は見つかりませんでした。

実際の食品での効果と、この研究が示すこと

研究チームは、強い加熱で酸化が進んだ食品材料も試しました。高温で噴霧乾燥した粉乳と、オーブンで焼いた豚肉の粉末を水に懸濁し、HNGD-XJ9を加えて37℃で48時間発酵させました。その結果、菌を加えなかった対照と比べて、検出されるジチロシン量は粉乳で70.89%、豚肉粉末で58.61%減少しました。あわせて、ほかのたんぱく質酸化の指標も低下し、たんぱく質の立体構造が部分的に回復する様子も観察されたと報告しています。

この研究は、食品中にすでにできてしまったジチロシンを、乳酸菌による発酵で減らせる可能性を示しました。自然発酵食品から多数の候補を探した結果、そうした能力の高い株はまれであることも分かりました。著者らは、HNGD-XJ9がジチロシンの蓄積を抑え、たんぱく質の酸化に関わるリスクを下げた食品づくりに役立つ有望な株だとしています。一方で、ジチロシンを減らす具体的な仕組みは、まだ検証を待つ段階にあります。

原著論文の著者・所属:Yueting Ge(Henan Key Laboratory of Tea Plant Biology, College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Kaile Chen(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lotus Street, Hi-Tech Development District, Zhengzhou 450001, China)、Zhenguo Tian(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lotus Street, Hi-Tech Development District, Zhengzhou 450001, China)、Hao Zheng(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lotus Street, Hi-Tech Development District, Zhengzhou 450001, China)、Zihao Jin(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lotus Street, Hi-Tech Development District, Zhengzhou 450001, China)、Chengjia Gu(Henan Key Laboratory of Tea Plant Biology, College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Guowei Le(State Key Laboratory of Food Science and Technology, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Yuhui Yang(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lotus Street, Hi-Tech Development District, Zhengzhou 450001, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yueting Ge, Kaile Chen, Zhenguo Tian, et al. Dityrosine-Lowering Lactiplantibacillus plantarum HNGD-XJ9: Screening, Characterization, and Evaluation. Foods 2026-10-22. DOI: 10.3390/foods15213778. 原著ライセンス:CC BY.