著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。
掲載誌:Food Technology and Biotechnology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
トゥルムチーズはトルコで広く作られ、食べられている半硬質のチーズです。伝統的には、生乳に市販の発酵用の菌(スターター)を加えずに凝乳酵素(レンネット)で固めます。固めたものをほぐして塩をし、羊やヤギなどの皮袋に詰めて、少なくとも3か月熟成させます。生乳にもともと含まれる多様な乳酸菌が、熟成中にこのチーズ特有の風味や食感を生み出すとされています。
一方で、病原菌を除いて安全性や日持ちを高めるには、牛乳の加熱殺菌が欠かせません。ただし殺菌すると、もともといた菌も失われます。そこで、伝統的なチーズからその土地の乳酸菌(在来乳酸菌)を取り出して特定し、殺菌乳でのチーズづくりに市販スターターと組み合わせて使えば、品質をより管理しながら特徴あるチーズを作れる可能性があります。研究チームはこの考えにもとづき、在来乳酸菌の組み合わせを変えたトゥルムチーズを作りました。そして、熟成の進み方や成分、香り、食味がどう違うかを調べました。
菌の分離からチーズの試作まで
著者らは、トルコ国内6県の生産者や販売店から、市販スターターを使わず生乳で作られ、皮袋で3か月以上熟成させた伝統的なトゥルムチーズ21試料を集めて乳酸菌を分離しました。菌の種類は、細菌がもつ16S rRNA遺伝子の塩基配列を読み取り、データベースの既知の配列と照合して特定しました。その結果、10株が同定されました。内訳は、Streptococcus thermophilus、Lactoplantibacillus plantarum、Pediococcus acidilactici、Enterococcus faecium、Levilactibacillus brevis、Leuconostoc mesenteroides、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis、Latilactobacillus curvatus、Pediococcus pentosaceus、Enterococcus durans です。
さらに、各株がつくる物質を高速液体クロマトグラフィー(液体中の成分を分けて量を測る方法)で調べました。対象は、乳酸や、チーズの香りに関わるアセトアルデヒド、ジアセチル、アセトイン、2,3-ブタンジオールなどです。これらはいずれも、ピルビン酸という代謝の中間物質に関係しています。
チーズの試作では、牛乳を65℃で30分加熱してから5つの区に分けました。菌を加えない区(K1)、市販スターターに在来のS. thermophilusを加えた区(K2)、そこへさらに異なる3種類の在来乳酸菌の組み合わせを加えた3区(TP1、TP2、TP3)です。熟成容器の違いや環境の菌の影響を抑えるため、チーズは皮袋ではなくガラス瓶に詰め、8℃前後で熟成させました。熟成1、30、60、90日目に成分、乳酸菌数、香り成分、食味を調べています。チーズづくりは独立して3回行われました。
主な結果
菌ごとの代謝物の量には大きな差がありました。たとえば、ピルビン酸はLeu. mesenteroidesで最も多く(143.22 mg/L)、乳酸はL. curvatusで最も多く(7443.02 mg/L)検出されました。バターのようななめらかな香りに関わるとされるアセトインは、Lc. diacetylactis、S. thermophilus、Lv. brevisで多く作られていました。一方、アセトインが検出されない株もいくつかありました。研究チームは、性質を調べた乳酸菌に、ピルビン酸代謝と結びついた主要な香り成分をつくる潜在力があることが示されたとしています。
チーズでは、菌の組み合わせによって成分、菌数、香り、食味の特徴に統計的に意味のある差が見られました。熟成90日目のpHは、菌を加えないK1が5.57でした。菌を加えた区は5.06〜5.25で、より酸性になっていました。酸の量を示す滴定酸度は、熟成終了時にK1が0.77%で最も低く、TP2が1.92%で最も高い値でした。ただし、TP1〜TP3の間には統計的な差は認められませんでした。TP2は熟成の前半から中盤にかけて、乳酸桿菌の数も最も多くなりました。
タンパク質の分解(熟成の進み具合の目安)については、小さなペプチドやアミノ酸の量を示す指標を測りました。その値は、90日目にK2で最も高くなりました。研究チームは、市販スターターに含まれる乳酸球菌のタンパク質分解酵素の働きによるものと考えています。
香り成分は、ガスクロマトグラフィー質量分析で調べました。多数の成分の傾向をまとめて比較する主成分分析を行うと、チーズは菌の組み合わせと熟成期間によってはっきり区別されました。食味の評価には、トゥルムチーズを良く知る9人の評価者が参加し、9段階の好ましさの尺度を用いました。最も好まれた試料は熟成時期によって異なり、TP1、TP3、TP2がそれぞれ上位に挙がりました。
この研究が示すこと
この研究は、伝統的なトゥルムチーズにすむ在来乳酸菌を、市販スターターと組み合わせて殺菌乳のチーズづくりに使うと、組み合わせ次第で酸味、熟成、香り、食味が変わることを示しました。著者らは、目的に合わせて菌を選ぶことで、チーズの特徴を高め、多様にする道が開けると結論づけています。
原著論文の著者・所属:Tuğba Karabekmez Erdem(Kahramanmaraş Sütçü İmam University)、Kenan Sinan Dayısoylu(Kahramanmaraş Sütçü İmam University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tuğba Karabekmez Erdem, Kenan Sinan Dayısoylu. Application of Indigenous Lactic Acid Bacteria in Tulum Cheese Production: Effects on Physicochemical, Microbiological, Volatile and Sensory Properties. Food Technology and Biotechnology 2026-10-21. DOI: 10.17113/ftb.64.04.26.9500. 原著ライセンス:CC BY.