著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
トチュウ(杜仲)は、伝統的な中国医学で長く使われてきた植物です。中国では2023年、トチュウの葉が「薬食同源物質」の目録に正式に加えられ、食品素材としての活用に関心が高まっています。葉に含まれる主要な成分の一つが、複数の糖がつながってできた大きな分子「多糖」です。これまでの研究で、トチュウ葉多糖には抗酸化作用や免疫を高める作用などが報告されています。一方で、素材としてさらに活用するには、性質や活性をどう高めるかが課題とされてきました。
研究チームが注目したのは、食品の発酵に広く使われている乳酸菌の一種、ラクチプランティバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)です。微生物が出す酵素は植物の細胞壁を分解して多糖を取り出しやすくします。また、微生物の代謝によって多糖の組成や分子の大きさ、表面構造が変わる可能性もあります。ただし、この乳酸菌による発酵がトチュウ葉から得られる多糖そのものをどう変えるかについては、直接の証拠が限られていました。そこで著者らは、発酵させた葉と発酵させない葉から多糖を取り出して比べ、性質と生物活性の違いを調べました。
何をどう調べたか
研究チームは、トチュウ葉の粉末に乳酸菌を加え、37℃で37時間、水分の少ない状態で発酵させました。そのうえで、超音波を使った抽出と精製を行い、発酵葉由来の多糖を得ました。比較用の未発酵多糖は、乳酸菌を加えない点を除いて同じ条件で作られています。両者について、回収率、試験管内で不安定な分子「フリーラジカル」を消す能力(抗酸化能の指標)、構成する糖の種類と割合、分子量、化学的な結合の特徴、電子顕微鏡で見た表面の形を比べました。
さらに、マウスを使った実験も行いました。抗がん剤などとして使われるシクロホスファミドを投与して免疫の働きを落とした状態をつくり、そこに2種類の多糖をそれぞれ3段階の量(体重1kgあたり100、200、400mg)で口から与えました。免疫を刺激する薬レバミゾールを与える群も、効果を比べる基準として設けています。体重の増え方、脾臓(免疫に関わる臓器)と肝臓の組織像、血液中の抗体(IgG、IgM)、肝臓の抗酸化に関わる指標、脾臓の免疫関連遺伝子の働き具合、腸内細菌の構成を調べました。
主な結果
発酵させた葉からの多糖の回収率は19.45%で、未発酵の場合より55.1%高くなりました。試験管内の抗酸化試験では、発酵多糖のほうが一貫して高いラジカル消去能を示しました。たとえば、DPPHという試薬を使った試験では、発酵多糖の消去率が最大95.23%(濃度2mg/mL)に達しました。これに対し、未発酵多糖の最大値は75.39%(濃度1.5mg/mL)でした。
多糖の中身も変化していました。主な構成糖であるアラビノースとガラクトースの割合は発酵後に増え、グルコースの割合は17.15%から7.64%に下がりました。分子量の主なピークは約28kDaから約37kDaへ移り、大きな分子の割合が増えています。一方、主要な化学結合の特徴はおおむね保たれていました。電子顕微鏡で見ると、未発酵多糖は表面がなめらかで詰まった構造でしたが、発酵多糖は多孔質で不規則な構造に変わっていました。
免疫の働きを落としたマウスでは、体重の増え方が鈍り、脾臓の萎縮や肝臓の組織の乱れが見られました。血液中の抗体の減少や、肝臓の抗酸化指標の低下も確認されています。多糖を与えた群ではこれらの指標がさまざまな程度で改善しました。特に低用量と中用量では、発酵多糖を与えた群のほうが、同じ量の未発酵多糖を与えた群より、抗体IgMと抗酸化酵素SODの活性、総抗酸化能が有意に高くなりました。中用量の発酵多糖群では、測定した抗体と肝臓の抗酸化指標についてレバミゾール群との間に有意差は認められませんでした。ただし、効果は量に比例して単純に大きくなったわけではなく、中用量で最もそろった改善が見られています。
脾臓の遺伝子を調べると、中用量の発酵多糖群では、同じ量の未発酵多糖群に比べてT細胞(免疫細胞の一種)に関わる遺伝子や、抗酸化に関わるNrf2などの働きが高まっていました。炎症に関わるIL-6の働きは低下していました。ただし著者らは、調べたのは遺伝子の読み取り量(mRNA)だけで、たんぱく質のレベルは確認していないと述べています。そのため、ここから描かれる仕組みはあくまで仮説的なものだとしています。腸内細菌では、免疫を落とした状態で乱れた構成が、多糖の投与で正常群に部分的に近づく傾向が見られました。いくつかの菌のグループと免疫・抗酸化指標との間には統計的な関連が示されましたが、これは関連であり、因果関係を示したものではありません。
この研究が示すこと
この研究は、食品にも使われる乳酸菌でトチュウ葉を発酵させると、得られる多糖の回収量が増え、構成糖や分子量、表面構造が変わることを示しました。あわせて、試験管内とマウスの実験で、一部の抗酸化・免疫指標が未発酵のものより高まることも報告しています。一方で著者らは、多糖の純度を十分には調べておらず、乳酸菌自身が作る多糖も分けて測っていないと指摘しています。そのため、観察された違いのすべてを植物由来の多糖の変化だけに帰することはできないとしています。発酵という食品加工の手法が、植物由来多糖の性質と働きを変えうることを、トチュウ葉で具体的に示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Wang B(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)、Qiao H(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)、Han C(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)、Zhang X(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)、Cheng K(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)、Liang X(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)、Wang K(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)、Zhang Y(College of Bioengineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wang B, Qiao H, Han C, et al. <i>Lactiplantibacillus plantarum</i> Fermentation Alters the Physicochemical Characteristics and Enhances the Antioxidant and Immunomodulatory Activities of <i>Eucommia ulmoides</i> Leaf Polysaccharides. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-28. DOI: 10.3390/foods15193463. 原著ライセンス:CC BY.