著者の所属・活動拠点の国は、マレーシア、インドネシアです。
掲載誌:International Review of Management and Marketing
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
イスラム教徒(ムスリム)の旅行者に配慮した「ハラール観光」は、近年急速に広がっています。ハラールとは、イスラムの教えで許されたものを指す言葉で、観光ではハラール食や礼拝の場などが代表的な配慮です。これまでの研究では、こうしたイスラム的な要素が旅行者の満足を直接高めると考えられることが多くありました。
一方で、宿泊、交通、清潔さ、もてなし、価格に見合う価値、旅行者向けの施設といった一般的な観光サービスが、イスラム的な要素と合わせてどのように満足や再訪意向に結びつくのかは、十分に調べられてきませんでした。研究チームは、ムスリムに配慮した観光地として国際的に高く評価されているインドネシアとマレーシアを取り上げ、この点を一つのモデルで検討しました。
著者らが特に注目したのは、ハラール対応がすでに広く整っている成熟した観光地では、ハラール食などが満足を新たに生み出す要因ではなく、「あって当然」の最低条件になっているのではないか、という視点です。あって当然の要素は、満たされていても満足は増えにくい一方、欠けると不満につながる、という考え方に基づいています。
何をどのように調べたか
研究チームは、ハラール観光やムスリムに配慮した観光地を経験した人を対象に質問票調査を行い、インドネシアとマレーシアの回答者573人の有効回答を分析しました。回答者の99.8%がムスリムでした。また、18〜25歳が87.6%、学生が86.0%、女性が92.3%を占め、若く、収入の比較的少ない層が中心でした。
調べた要素は、宿泊サービスの質、ハラール食、交通サービスの質、清潔さ、もてなし・親しみやすさ、価格に見合う価値、旅行者向け施設の7つです。これらが旅行者の満足とどう関係し、さらに満足が観光地へのロイヤルティ(再訪したい、人に勧めたいという気持ち)とどう関係するかを、複数の要素の関係を同時に推定する統計手法(PLS-SEM)で分析しました。調査は一時点での回答をもとにしたものです。
主な結果
分析の結果、満足との間に統計的に意味のある正の関係が見られたのは、価格に見合う価値、旅行者向け施設、もてなし・親しみやすさ、交通サービスの質の4つでした。中でも価格に見合う価値の関係が最も強く、旅行者向け施設、もてなし、交通の順に続きました。
これに対して、ハラール食、宿泊サービスの質、清潔さの3つは、満足との間に統計的に意味のある関係が認められませんでした。また、満足とロイヤルティの間には強い正の関係があり、満足している旅行者ほど観光地へのロイヤルティを示しやすいという結果が報告されています。モデルは、満足のばらつきの77.6%、ロイヤルティのばらつきの66.8%を説明していました。
著者らは、ハラール食や清潔さに関係が見られなかったことを「重要ではない」という意味には解釈していません。両国ではハラール食や清潔さが広く期待されているため、満足を上乗せする要因ではなく、不満を防ぐ最低条件として働いている可能性がある、と論じています。宿泊についても、宿よりも価格や移動の便利さを重視しやすい若い学生中心の回答者の特徴が影響した可能性を挙げ、旅行者の層や滞在の仕方によって役割が変わりうるとしています。
研究が示すこと
この研究は、ハラール対応が浸透した観光地では、ハラールを満たしているだけでは旅行者の満足を高めるには十分でない可能性を示しています。著者らは、価格に見合う価値、使いやすい施設、温かいもてなし、移動のしやすさを備えた、総合的に質の高い旅の体験が満足とロイヤルティにつながると結論づけています。
ただし、回答者は若い学生や女性が中心で、一時点の調査であることから、著者ら自身も、年配の旅行者や家族連れ、非イスラム圏からの旅行者などに同じ結果が当てはまるとは限らないと述べています。ハラール食や清潔さが「当たり前の条件」として働いているという解釈も、今後の検証を要する見方として示されています。
原著論文の著者・所属:Rizuwan Abu Karim(Universiti Teknologi MARA, Cawangan Melaka, Malaysia,)、Zulkefli Muhammad Hanapiyah(Universiti Teknologi MARA, Cawangan Melaka, Malaysia,)、Ade Dedi Rohayana(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid, Pekalongan, Indonesia)、Susminingsih Susminingsih(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid, Pekalongan, Indonesia)、M. Ali Ghufron(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid, Pekalongan, Indonesia)、Isriani Hardini(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid, Pekalongan, Indonesia)、Norazira Mohd Abas(Universiti Teknologi MARA, Cawangan Melaka, Malaysia,)、Rosmaiza Abdul Ghani(Universiti Teknologi MARA, Cawangan Melaka, Malaysia,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rizuwan Abu Karim, Zulkefli Muhammad Hanapiyah, Ade Dedi Rohayana, et al. When Halal Becomes a Baseline Expectation: Destination Service Attributes, Tourist Satisfaction, and Loyalty in Indonesia and Malaysia. International Review of Management and Marketing 2026-11-01. DOI: 10.32479/irmm.24588. 原著ライセンス:CC BY.