著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。
掲載誌:Information Management and Business Review
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:小売店の荷受け現場に目を向ける
ハラールとは、イスラム教で「許されたもの」を意味する言葉です。食品の場合、原料がハラールであるだけでは足りません。保管、輸送、販売のどの段階でも、不浄とされるもの(ナジス)や非ハラールの物質に触れないことが求められます。そのため、農場から食卓までハラールの状態を保つ「ハラール物流」が注目されています。
著者らによると、これまでのハラール物流研究は製造、倉庫、国際輸送が中心でした。ハラールと非ハラールの商品を同じ店舗で扱う食品小売店の荷受け作業は、あまり調べられていません。こうした店では、仕入れ先でハラール認証を受けた生肉と豚肉などの非ハラールの生肉が、毎日同じ場所で受け取られ、計量され、並べて陳列されます。
研究チームは、マレーシアのある食品小売店の荷受け部門で、ハラールと非ハラールの生肉が同じはかりで計量されている様子を目にしたことを出発点にしました。研究の目的は三つです。生鮮食品売り場でハラール物流がどの程度うまく機能しているかを確かめること。よく挙げられる三つの要素、すなわち「機器」「分離」「包装」のうち、どれが最も重要かを特定すること。そして現場で実行できる改善策を示すことです。
調べた方法:現場の従業員4人への聞き取り
調査の舞台は、ハラールと非ハラールの生肉を同じ店舗で販売する、マレーシアの食品小売店1店舗です。従業員は48人います。研究チームは、ハラール物流に直接関わるハラール部門と荷受け部門に絞り、それぞれ2人ずつ、計4人に話を聞きました。全員が関連業務を1年以上経験しています。対象者は、日々この作業に携わり詳しい情報を持つ人を意図的に選びました。
聞き取りは6つの質問で構成されました。質問の内容は、ハラール順守の責任者、既存の方針や作業の流れ、監督者に求められる経験、三要素のうち最も重要なもの、残りの要素で残っている課題、改善の提案です。聞き取りは1回約30分で、実際の機器や配置を指し示せるよう荷受け部門で行いました。書き起こした発言は、質的データの整理を助けるソフトウェア「NVivo」で分類し、共通する意見と異なる意見を比べました。
主な結果:最大のリスクは共用のはかり
回答者たちによると、ハラール順守には三者が関わっています。肉の認証と上流の処理に責任を持つ仕入れ先、適切なハラール商品を発注するバイヤー、そして入荷した肉を発注書と照合し日々の扱いを見守るハラール部門の監督者です。役割と責任の流れは整っていました。一方で、著者らは、実際の効果は物理的な荷受けの場面でこれらの役割がどこまで徹底されるかにかかっている、と述べています。
三要素のうち、4人全員が最優先の課題に挙げたのは「機器」でした。具体的には、入荷した肉を量るはかりです。荷受け部門にははかりが2台ありました。しかし実際には、どちらもハラールと非ハラールの肉に区別なく使われていました。直接の接触を防ぐ手段は、非ハラール品の下に敷く平たい箱や黄色い容器だけでした。ムスリムの従業員の一人は、はかりが商品の種類ごとに分かれていないことに不安を感じると話しました。一方、包丁やひき肉機などの機器は部門間で適切に分けられていると説明されました。つまり、はかりだけが例外的な状態だったことになります。
「分離」と「包装」は、比較的うまく管理されていると評価されました。ハラール部門と非ハラール部門は店内で離れた場所にあり、荷受けの入口も別々です。ハラールの肉は通常、真空包装などで適切に包まれて届きます。豚肉などの非ハラールの肉は包装が不十分な状態で届くこともありますが、問題が見つかれば返品の手続きをとり、売り場に出さない仕組みが取られていました。
改善策として回答者たちが挙げたのは、一つの解決策ではなく、互いを補い合う複数の手立てでした。既存の2台のうち1台を非ハラール専用にして非ハラール部門へ移し、はっきり表示すること。移すまでのつなぎとして、共用のはかりを使い捨てのビニールで覆うこと。そして、汚染された機器を宗教的な作法で清める「セルトゥ」を定期的に行うことです。店舗は世界的な小売チェーンの一部でハラール以外の商品も多く扱うため、完全な分離には時間がかかるという率直な意見も出ました。
研究が示すこと
著者らは、この店舗のハラール物流は「部分的に有効」だと結論づけました。部門や入口の分離と、おおむね適切な包装は、一定の土台になっています。しかし、ハラールと非ハラールの生肉ではかりを共用し続けていることは、回答者自身も避けられると考える汚染リスクの源になっています。論文は、仕入れ先の認証や部門の分離など、仕組みの大部分が機能していても、手当てされていない接点が一つあるだけでハラールの信頼性は損なわれうると指摘しています。また、ハラールの順守は書類や監査だけで決まるものではないとも述べています。従業員が日々の道具や場所をどう扱うかによって、その都度実現されたり損なわれたりするものだという見方です。
この研究は1店舗4人への聞き取りに基づくもので、著者らも、結果がほかの店舗や市場にそのまま当てはまるとは限らないとしています。それでも、ハラール認証と現場の取り扱いの間にある隙間が、小売店の荷受けという具体的な場面のどこにあるのかを示しました。あわせて、既存の設備を活かした低コストの改善の方向性も、現場の声に基づいて描き出しています。
原著論文の著者・所属:Azlin Abdul Latif(Universiti Teknologi MARA, Puncak Alam)、Muhammad Akmal Asyraaf Adlan(Universiti Teknologi MARA)、Nur Farizan Tarudin(Universiti Teknologi MARA, Puncak Alam)、Muhammad Firdaus Abd Rashid(Politeknik Sultan Haji Ahmad Shah, Kuantan, Pahang)、Shahrul Razman Noor Shaari(BSL Containers Sdn Bhd, Suite C, Level 3, Menara Maxis, Kuala Lumpur City Centre, Kuala Lumpur, Malaysia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Azlin Abdul Latif, Muhammad Akmal Asyraaf Adlan, Nur Farizan Tarudin, et al. Weighing the Risk: A Qualitative Inquiry into the Effectiveness of Halal Logistics Implementation in Fresh Grocery Retailing. Information Management and Business Review 2026-10-26. DOI: 10.22610/imbr.v18i4(i).4935. 原著ライセンス:CC BY.