この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Best Journal of Administration and Management

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

インドネシアでは2025年1月に「無償栄養給食プログラム(MBG)」が始まり、急速に規模を広げてきました。著者らによれば、政府の公式報告では2026年3月31日時点で全国26,362か所の栄養提供サービス拠点(SPPG)を通じて約6,180万人が対象となり、そのうち約4,950万人が児童・生徒だったとされています。2026年度の国家予算でも重点事業に位置づけられました。

この研究は、実施2年目に入ったMBGを生徒向け政策として評価することを目的としています。著者らの出発点は、規模の大きさは成功と同じではない、という問題意識です。そこで、食への権利に対する国家の責任という規範的な視点と、教育や栄養への支出を将来の能力形成への投資とみなす「社会的投資」の考え方、さらに政策実施研究、ウィリアム・ダンの政策評価基準、CIPP(文脈・投入・過程・成果)モデルを組み合わせた統合的な枠組みを構築しました。

どのように調べたか

著者らは新たに現地データを集めたのではなく、質的な政策分析と、既存の証拠を体系立てて突き合わせる手法をとっています。分析対象は2025年から2026年9月までの全国実施段階のMBG政策で、文献の検索は2026年9月6日までに行われました。

用いた資料は四つの系統に分かれます。インドネシアの子どもの栄養状態に関する査読済み研究、各国の学校給食に関する国際的な研究(系統的レビューやメタ分析、コホート研究、差分の差分法による評価などを優先)、MBGと協働ガバナンスに関する初期の国内研究、そして事業の規模・技術指針・予算などを示す政府公式文書です。著者らは、研究デザインの強さに応じて証拠に重みづけを行い、因果関係を示す力の弱い資料からは因果的な結論を引き出さない方針をとったと述べています。この論文は新たな因果効果の推定を主張するものではない、と明記されています。

報告された主な結果

著者らの理論的な貢献は「国家責任―社会的投資の転換連鎖」という概念です。権利の承認や予算配分は必要条件ではあるが十分条件ではなく、実施能力、食品安全、公平なアクセス、応答性、信頼できる成果測定を通じて変換されて初めて社会的な便益が生まれる、という主張です。この連鎖は、権利の承認、資源の投入、実施の忠実性、公平な利用、短期的成果、生涯にわたる成果という六段階で整理されています。

評価の結果、MBGの規範的な根拠と社会的投資としての理屈は強い一方、インドネシアのMBGが発育阻害(スタンティング)、学業成績、身体計測の指標に具体的にどう影響したかを示す因果的な証拠は限られている、と報告されています。国内の初期研究は集中力や出席についての前向きな評価を報告していますが、対照群を置かない質的研究や事前事後比較が中心で、全国規模の因果的な推定はできないと位置づけられました。他方、インドやアメリカ、スウェーデンなどの国際的な研究は、給食の利用率、出席、食料の確保、文脈によっては学習成果の改善を支持していますが、効果の大きさは文脈によって幅があり、そのままインドネシアに当てはめることはできないと著者らは注意を促しています。

発育阻害については特に慎重さが求められると述べられています。発育阻害は乳幼児期の条件や衛生、疾病、貧困などが積み重なった結果であるため、学齢期の給食の短期的な効果をこの指標だけで測ると、原因の取り違えにつながりうるという指摘です。

実施面では、2026年までに課題の性質が変化したことが報告されています。当初は運用指針の不足が問題とされましたが、政府機関が技術指針を発出した後の段階では、基準が理解され、資源に支えられ、数千の提供拠点で一貫して守られているかという遵守と能力の問題に焦点が移りました。食品安全については、健康被害の発生を受けて衛生に関する認証要件と標準作業手順の遵守が重点化されたことが、政府内部の評価に基づく情報として紹介されています。著者らは、公平性の面でも、離島や設備の乏しい学校ほど必要が大きいのにサービスの質が低くなる恐れがあると述べ、権利は普遍的に保障しつつ支援の厚みを弱い地域に手厚くする「累進的普遍主義」を提案しています。

この研究が示すこと

著者らの結論は、MBGの成否を提供した食数や受益者数だけで判断すべきではない、というものです。論文は、独立した成果監査、標準作業手順と衛生の遵守の強化、公平性に着目した監視、受益者からの意見を反映する仕組み、地域の食材調達、そして準実験的な費用対効果・影響評価の実施を提言しています。

支出の規模を成果の証明と取り違えず、短期の良好な兆しを人的資本形成の因果的証拠と混同しない。この研究が伝えているのは、国家が予算を投じたことと権利を実際に満たしたこととは別であり、その間を埋めるのは日々の実施能力だという見方です。

著者:Totok Suryanto(Universitas Muhammadiyah Jakarta)、Muhamad Agung Dharmajaya(Universitas Mathla'ul Anwar)、Asep Setiawan(Universitas Muhammadiyah Jakarta)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Totok Suryanto, Muhamad Agung Dharmajaya, Asep Setiawan. State Responsibility as Social Investment: Evaluating Indonesia’s 2026 Free Nutritious Meals Program for Students. Best Journal of Administration and Management 2026-09-27. DOI: 10.56403/bejam.v4i4.511. 原著ライセンス:CC BY.