著者の所属・活動拠点の国は、シンガポールです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

なぜ「食事」と「運動」を一緒に検討するのか

世界では認知症とともに暮らす人が推計5740万人おり、2050年には1億5280万人に達すると見込まれています。根本的に治す薬がない現状で、予防や早期の対策に関心が移っています。著者らが紹介する2024年のランセット委員会の推計では、認知症の最大45%は高血圧、肥満、運動不足、糖尿病など、生活の中で変えうる危険因子に関係している可能性があります。

この総説は、こうした危険因子に直接働きかける身近な手段として、「MIND食」と身体活動の二つを取り上げています。MIND食は、地中海食と高血圧予防のためのDASH食を組み合わせ、認知機能の低下を遅らせることを狙って2015年に考案された食事パターンです。著者らによれば、食事と運動は脳の血管の働き、炎症や酸化ストレス、神経の成長を支える信号といった共通の仕組みに作用すると考えられており、主要な複合的予防試験のすべてに含まれる要素でもあります。それにもかかわらず両者は別々に論じられることが多く、組み合わせたときに単独以上の効果があるのかは、ほとんど分かっていないといいます。

研究チームは、医学文献データベースで2026年8月までの研究を検索し、仕組みを調べた実験研究、血液や脳脊髄液などの指標(バイオマーカー)や脳画像の研究、長期間人々を追跡した観察研究、無作為化比較試験などを幅広く集め、内容を質的に整理しました。

MIND食:観察研究では支持、試験では決着つかず

MIND食は15の項目からなり、緑の葉物野菜、ベリー類、ナッツ、魚、オリーブ油、全粒穀物など10の「脳に良い」食品群を勧め、赤身肉、バター・マーガリン、チーズ、菓子類、揚げ物・ファストフードの5群を控えるものです。各項目を0・0.5・1点で採点し、合計0〜15点で食事の守り具合を表します。ワインは1日1杯で満点となる採点ですが、著者らはこの項目を含める根拠は現在では乏しいとし、認知機能を守るために飲酒を始めることを勧めるものと解釈してはならないと注意しています。

食品成分が脳を守る仕組みとしては、アミロイドβ(アルツハイマー病で脳にたまるたんぱく質)の生成や除去、炎症や酸化ストレスの抑制、血管の健康、神経のつながりの柔軟性への作用が挙げられています。ただし、その多くは動物実験や個々の栄養素の研究に基づくもので、MIND食という食事全体で人に同じ効果があるという直接の証拠は限られていると、著者らは明記しています。

人を対象にした研究では、MIND食をよく守る人ほど脳のアミロイドの蓄積が少ないという関連が、死後の脳組織、脳脊髄液、PET画像の研究で一貫して報告されています。ある研究では、スコアが1点高いごとに、アミロイド関連の病変量が年齢にしておよそ4.25歳若い状態に相当していました。一方、もう一つの病変であるタウの蓄積とは明確な関連が見られませんでした。著者らは、これらは関連を示すにとどまり、食事がアミロイドを直接減らすことを証明したものではないと述べています。

長期の追跡研究では、米シカゴの高齢者960人を約10年追った研究で、MIND食を最もよく守る群は最も守らない群に比べ、認知機能が7.5歳若い状態に相当していました。オーストラリアで1220人を12年追った研究では、スコアが1点上がるごとに認知機能障害が生じる見込みが19%低くなっていました。中国の4066人を対象に、オリーブ油やチーズを除き、ワインをお茶に置き換えるなど地域の食習慣に合わせて調整した版でも、良好な認知機能との関連が見られました。

一方で、もともと健康で比較的若い集団を対象にした複数の研究では、認知機能の低下との関連ははっきりしませんでした。さらに、これまでで最大の無作為化試験(604人、3年間)では、MIND食の群と、同じく軽いカロリー制限を行った比較群の両方で認知機能が改善し、群間に有意な差はありませんでした。著者らは、比較群でも食事内容がかなり改善しており、両群の差が想定より小さくなったことが解釈を難しくしていると指摘しています。また、効果が現れる明確なスコアの境目は見いだせないとしています。

運動:仕組みは多様、脳の構造には有望な兆し

著者らは運動を、持続的に心肺へ負荷をかける有酸素運動、筋肉に段階的に負荷をかける筋力トレーニング、動きと注意の集中を組み合わせる心身運動(太極拳のような運動)の三つに分けて整理しています。いずれも血圧や血糖、体重といった心血管・代謝の状態を改善し、脳の血流を高めると考えられています。加えて、有酸素運動では神経の成長を助ける物質BDNFの増加、筋力トレーニングでは成長因子IGF-1や筋肉から出る物質を介した経路、心身運動では動きの学習による脳の活性化や不安・抑うつの軽減といった、それぞれに特有の経路が提案されています。

ただし、人を対象とした研究では、運動がアミロイドやタウの指標に与える影響は一貫していません。脳の構造については、より明るい結果が報告されています。1万人規模の画像研究や英国の大規模研究(1万6725人)で、活動量が多いほど脳の灰白質や海馬(記憶に関わる部位)の体積が大きいという関連が示されました。1年間の有酸素運動で海馬前部の体積が約2%増えたという介入研究もあります。一方で、14の介入研究をまとめた解析では海馬全体の体積に有意な効果は見られず、19の無作為化試験を見直した研究でも結果はばらつきが大きいものでした。著者らは、これらの試験が短期間で規模も小さかったことに注意を促しています。

結果が食い違う理由についての仮説

著者らは、観察研究と試験の結果が食い違う理由として、方法の違いに加え、参加者がもともと抱える認知機能低下のリスクの大きさが影響している可能性を提案しています。リスクの低い人では追跡期間中に認知機能があまり低下しないため差が見えにくく、病変が進んだ人では生活習慣で変えられる余地が小さい、という考え方です。著者ら自身、これは推測の段階であり、検証が必要だとしています。

また、MIND食と構造化された運動を組み合わせて検証した試験は少なく、複合的な予防プログラムの中でどちらがどれだけ寄与したかを切り分けた試験はまだないと報告しています。この総説は、食事と運動がいずれも認知機能の良好さと結びついているという多くの証拠を示す一方で、最適な量や期間、対象者、両者の相乗効果など、まだ答えの出ていない問いがはっきり残されていることを示しています。

原著論文の著者・所属:Yu Liang Lim(Department of Geriatric Medicine, Khoo Teck Puat Hospital, Singapore 768828, Singapore)、Xuanmin Tan(Lee Kong Chian School of Medicine, Nanyang Technological University, Singapore 308232, Singapore)、Li Cheng Heng(Department of Geriatric Medicine, Khoo Teck Puat Hospital, Singapore 768828, Singapore)、Chin Yee Cheong(Department of Geriatric Medicine, Khoo Teck Puat Hospital, Singapore 768828, Singapore)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yu Liang Lim, Xuanmin Tan, Li Cheng Heng, et al. The MIND Diet and Physical Activity in Cognitive Ageing: From Mechanisms to Multidomain Trials. Nutrients 2026-10-29. DOI: 10.3390/nu18213579. 原著ライセンス:CC BY.