この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Applied Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
調査の目的と背景
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、世界各地で人の胃腸炎を引き起こす重要な食中毒起因菌です。論文によれば、この菌は食品の中で「ブドウ球菌エンテロトキシン」と呼ばれる毒素を出すことで食中毒を起こします。汚染された生の食品を食べること、あるいはこの菌を保菌している人が調理した食品を食べることが、ブドウ球菌食中毒の主な原因とされています。
研究チームは、中国東部の揚州市で売られている「塩水ガチョウ(Boiled Salted Goose)」を対象に、この菌がどの程度含まれているか、またどのような性質を持つ菌なのかを1年間にわたって調べました。塩水ガチョウは加熱調理後にそのまま食べられる、いわゆる「そのまま食べられる食品(Ready-to-Eat食品、RTE食品)」にあたります。
何をどう調べたか
著者らは2023年8月から2024年9月にかけて、8か所の露店から合計312検体を集めました。集めた検体から黄色ブドウ球菌を分離し、得られた菌については全ゲノム解読(菌の遺伝情報をすべて読み取る手法)を行って、系統や遺伝子の特徴を調べています。
菌の系統を整理する際には「クローナルコンプレックス(CC)」という分類が使われました。これは遺伝的に近い菌のグループをまとめた呼び方で、CC398などの番号で区別されます。さらに、菌どうしの近縁関係を図として整理する系統解析や、薬剤への抵抗性に関わる遺伝子や変異の確認も行われました。
報告された主な結果
312検体のうち24株の黄色ブドウ球菌が確認され、検出率は7.7%と報告されています。露店ごとに差があり、E店で最も高く40.5%でした。部位別ではガチョウの心臓の汚染率が最も高く、18.4%でした。
全ゲノム解読の結果、24株はCC1、CC5、CC8、CC398という4つのクローナルコンプレックスに分かれました。このうちCC398は4株見つかっており、著者らは中国のRTE食品からの報告がまれな系統だとしています。系統解析では24株が2つのクレード(系統の枝)に分かれ、クレードIにはGrlB(E422D)という変異を持つCC398の4株が、クレードIIにはmsr(A)-tet(K)-blaZ-fusBという薬剤耐性遺伝子の組み合わせを持つST630の1株が含まれていました。また2株では、GrlA(S80F)とGyrA(S84L)という二つの変異を伴うシプロフロキサシン(抗菌薬の一種)への耐性が見られたと報告されています。
加えて、γ溶血素(赤血球を壊す毒素)、エンテロトキシン、バイオフィルム形成に関わる遺伝子が広く分布していました。バイオフィルムとは、菌が集まって表面に膜状に付着した状態を指します。著者らは、こうした遺伝子が広く見られることから、黄色ブドウ球菌が塩水ガチョウの中に残り続けている可能性があると述べています。
この報告が示すこと
この調査は、加熱調理後にそのまま食べられる食品でも黄色ブドウ球菌が検出されうること、そしてその中に中国のRTE食品ではあまり報告のないCC398系統が含まれていたことを示しました。著者らは、汚染されたRTE食品が公衆衛生上の関心事となりうることを指摘し、さらなる監視が必要だと結論づけています。
著者:Lihong Wang(Jiangsu Interdisciplinary Center for Zoonoses and Biosafety, Yangzhou University, China)、Xinhai Chen(Jiangsu Key Lab of Zoonosis/Jiangsu Co-Innovation Center for Prevention and Control of Important Animal Infectious Diseases and Zoonoses, Yangzhou University, China)、Zhiwei Hu(Jiangsu Key Lab of Zoonosis/Jiangsu Co-Innovation Center for Prevention and Control of Important Animal Infectious Diseases and Zoonoses, Yangzhou University, China)、Zhijiang Luo(Jiangsu Key Lab of Zoonosis/Jiangsu Co-Innovation Center for Prevention and Control of Important Animal Infectious Diseases and Zoonoses, Yangzhou University, China)、Zhenyu Wang(Jiangsu Interdisciplinary Center for Zoonoses and Biosafety, Yangzhou University, China)、Yuanyue Tang(Jiangsu Interdisciplinary Center for Zoonoses and Biosafety, Yangzhou University, China)、Xinan Jiao(Jiangsu Interdisciplinary Center for Zoonoses and Biosafety, Yangzhou University, China)、Qiuchun Li(Jiangsu Interdisciplinary Center for Zoonoses and Biosafety, Yangzhou University, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lihong Wang, Xinhai Chen, Zhiwei Hu, et al. Emergence and Characterization of CC398 S. aureus isolates from Boiled Salted Goose in eastern China. Applied Food Research 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.afres.2026.102651. 原著ライセンス:CC BY.