こんがり焼き上げたパンの香ばしさは、糖とアミノ酸が加熱によって反応する『メイラード反応』によって生まれます。ところがこの反応の副産物として、アクリルアミドという物質がわずかに生成されることが知られています。加熱調理された食品全般で生じるこの物質をできるだけ減らす方法は、食品科学の分野で長く研究されてきたテーマです。今回、中国・上海応用技術大学(Shanghai Institute of Technology)の研究グループが、サワードウ(発酵種)を使ったパン作りに着目し、アクリルアミドの生成を抑える方法とその仕組みを調べた研究をフードサイエンス・アンド・ヒューマン・ウェルネス誌に発表しました(2026年7月掲載予定)。

乳酸菌と酵母を組み合わせて発酵種をつくる

研究チームは、乳酸菌の一種であるPediococcus pentosaceus(PP)と、酵母のSaccharomyces cerevisiae(ST)という2種類の微生物を使い、それぞれ単独で発酵させたサワードウ(PP-s、ST-s)と、両者を1対1の割合で混合して発酵させたサワードウ(MF-s)を比較しました。まず微生物の増殖の様子を調べたところ、STとPPを1対1で混ぜた場合に両者が互いの増殖を助け合う『相乗的な増殖』が見られたことが報告されています。

発酵を12時間続けたところ、混合発酵させたMF-sは、有機酸の含有量が最も多くなり、PP単独やST単独で発酵させたサワードウよりもpH(酸性度の指標)が低い、つまりより酸性に傾いた状態になったとされています。さらにMF-sでは、麦芽糖・ブドウ糖・果糖・ショ糖といった糖類や、遊離アミノ酸の総量も、PP-sやST-sより多く含まれていたことが確認されました。

アクリルアミドの抑制率はどう変わったか

研究チームは、これらのサワードウを使って実際に小麦パンを焼いた場合と、アクリルアミドの元になるアスパラギンとブドウ糖を混ぜた化学的な模擬反応系(Asn/Glcシステム)の両方で、アクリルアミドの生成がどの程度抑えられるかを調べました。その結果、発酵時間12時間の時点でアクリルアミドの抑制率が最も高くなり、混合発酵のMF-sでは49.66%、PP単独のPP-sでは42.23%、ST単独のST-sでは38.22%という値が報告されています。これらの値はいずれも、天然発酵(比較対照群)よりも統計的に有意に高い抑制率だったとされています。

また研究チームは、アクリルアミドが生成される過程を数式で表す『速度論モデル』の当てはまりも検証し、『ロジスティック指数関数モデル』と呼ばれるモデルが、この生成プロセスを説明するのに適していたと結論づけています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、実験室レベルでのパン試作と化学模擬系を用いた検討であり、市販されているパン全般やより大規模な製パン条件にそのまま当てはまるかどうかは、今回の要旨・本文の範囲では明らかにされていません。また、抑制効果のメカニズムとして有機酸や糖・アミノ酸組成の変化が関わっている可能性が論じられていますが、これはあくまで一つの研究による知見であり、結論が確定したわけではありません。健康への影響を判断する材料としてではなく、パンの製造工程を工夫することでアクリルアミド低減を目指す研究の一例として捉えるのが妥当です。

まとめ

今回の研究では、乳酸菌Pediococcus pentosaceusと酵母Saccharomyces cerevisiaeを1対1で組み合わせて発酵させたサワードウが、単独発酵の場合よりもパン中のアクリルアミド生成を抑える効果が高かったことが示されました。今後、こうした発酵種の工夫が実際の製パン現場でどう活かせるか、さらなる研究の進展が注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jinchen Li, Shijie Gao, Mengjie Duan, et al. Strategies to reduce acrylamide formation in bread focusing on exogenous strain ferment sourdough. フードサイエンス・アンド・ヒューマン・ウェルネス (2026). DOI: 10.26599/fshw.2025.9250525.