唐辛子や香辛料を発酵させた調味料は世界各地にあるが、その発酵を実際に支えている微生物の顔ぶれは、意外と詳しく調べられていないことが多い。エチオピアの伝統的な香辛料ペースト「アワゼ(Awaze)」もその一つで、赤唐辛子やニンニク、赤タマネギ、複数のスパイスを混ぜ合わせて作られる発酵食品として親しまれてきたが、発酵を担う微生物の正体はこれまで分子レベルでは明らかにされていなかった。今回、バハルダール大学やエチオピア農業研究機構などの研究者らが、このアワゼの発酵に関わる酵母と乳酸菌の種類を特定する研究を行った。
赤唐辛子とスパイスを300日間発酵させて調べる
研究チームは、赤唐辛子、ニンニク、赤タマネギに10種類のスパイスを組み合わせた伝統的なレシピをもとにアワゼの試料を作り、管理された条件下で300日間発酵させた。発酵終了後、選択培地を用いて試料から酵母と乳酸菌をそれぞれ分離し、ゲノムDNAを抽出した。分子同定の手法としては、酵母についてはITS領域(internal transcribed spacer、リボソームRNA遺伝子の間に挟まれた領域)をPCRで増幅し、乳酸菌については16S rRNA遺伝子を増幅したうえで、それぞれの塩基配列を解析し、既知の菌株と比較する系統解析を行った。
酵母2株と乳酸菌4株を特定、既知株との類似度も判明
解析の結果、酵母2株と乳酸菌4株が同定された。酵母はいずれもCandida属に分類され、Candida sp.株WSYC780という既知株と97%の配列類似性を示した。乳酸菌についてはWeissella confusaとWeissella cibariaの2種であることが確認され、既知株との類似性は92〜95%だった。研究チームは、こうした菌の組み合わせがアワゼに特徴的なものであり、他のエチオピアの発酵食品とは異なる独自の微生物群集を持つ可能性があると述べている。この違いは、使われる原料や発酵条件の違いによるものではないかと考察されている。また、確認されたCandida属菌やW. confusa、W. cibariaが発酵の過程で機能的な役割を果たしている可能性があり、将来的にスターター培養菌(発酵を狙って開始させるために添加する微生物)の開発に応用できる可能性があるとされている。
この研究の位置づけ
本研究は、アワゼペーストの微生物叢を分子的手法で調べた研究として位置づけられており、著者らはこれが品質や安全性の向上、商業生産の改善に向けた基礎になるとしている。ただし、今回同定されたのは酵母2株、乳酸菌4株という限られた数の分離株であり、特定の条件下で作られた試料をもとにした結果である点には留意したい。ここで示された類似性の値(酵母97%、乳酸菌92〜95%)は既知株との配列比較に基づくもので、菌の機能や安全性そのものを直接評価したものではない。一つの研究であり、アワゼの微生物叢について結論が確定したわけではない点に注意が必要だ。
まとめ
今回の研究により、エチオピアの伝統発酵食品アワゼペーストからCandida属酵母、Weissella confusa、Weissella cibariaという乳酸菌が分子的に同定された。これらの微生物は発酵における役割を持つと考えられ、今後スターター培養菌の開発など応用面での研究につながる可能性が示唆されている。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Biadge Kefale, Mulugeta Admasu Delele, Solomon Workneh Fanta, et al. Molecular identification of yeast and lactic acid bacteria species from Ethiopian Awaze paste (a traditional fermented spicy red pepper paste) of Ethiopia. ディスカバー・フード (2026). DOI: 10.1007/s44187-026-01184-5.