著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、台湾です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
海藻で海藻を育てるという発想
「海ぶどう」の名で食べられている緑藻クビレヅタの仲間、カウレルパ・ラセモサ(Caulerpa racemosa)は、インド太平洋や東南アジアの各地で食用にされています。これまでの研究で、炭水化物、たんぱく質、ミネラル、フェノール類(植物に含まれるポリフェノールなどの成分)、色素などを含むことが報告されており、栽培したときの生産性と品質を高めることが課題とされてきました。
陸上の農作物では、海藻の抽出液が「バイオスティミュラント」として研究されてきました。これは、肥料として養分を直接与えるのとは別に、養分の利用効率やストレスへの強さ、作物の品質を高める資材を指します。一方、海藻の抽出液を海藻そのものの養殖に使う研究はほとんどありませんでした。著者らは、海ぶどうの体が内部に仕切りのない巨大な一つの細胞のような構造をしており、水中に溶けた成分を体の表面全体から取り込めると説明し、この「海藻で海藻を育てる」方法を調べる意義があると考えました。
そこで研究チームは、5種類の海藻(紅藻のハリメニア、カッパフィカス、グラシラリア、緑藻のハリメダ、褐藻のサルガッスム)から作った水抽出液が、栽培中の海ぶどうの成長、栄養成分、抗酸化能、食味にどう影響するかを比較しました。
どのように調べたか
実験はインドネシア・中部ジャワの養殖研究施設の海ぶどうを使い、9リットルの水槽で35日間行われました。栽培は、自然の昼夜の明暗周期(明期12時間・暗期12時間)のもとで、半屋外の管理された実験条件で行われています。各水槽に海ぶどう50グラムを入れ、抽出液を加えない対照と、5種類の抽出液のいずれかを7日ごとに加える区の計6条件を、それぞれ3水槽ずつ用意しました。抽出液は乾燥させた海藻の粉末を水で温めて作り、水槽の水に対して500分の1程度に薄めて加えました。水温や塩分、pHなどの水質には条件間で有意な差はなかったと報告されています。
著者らはまず、抽出液に含まれる植物ホルモン(成長を調節する物質で、オーキシンの一種であるインドール酢酸、サイトカイニン類のカイネチンとゼアチン、ジベレリン)を分析しました。そのうえで、栽培後の海ぶどうについて、重さの増え方や形の変化、クロロフィルなどの色素、たんぱく質やアミノ酸、脂肪酸、ミネラルの量、抗酸化能を測定し、さらに海ぶどうを食べ慣れた7人の訓練されたパネリストが、味や色、歯ごたえなどを5段階で評価しました。
抽出液の種類によって異なる効果
5種類すべての抽出液から4種の植物ホルモンが検出されましたが、その量は海藻の種類によって異なりました。インドール酢酸はグラシラリアとハリメニア、ゼアチンとジベレリンはサルガッスムの抽出液で最も多かったと報告されています。
成長がもっとも大きかったのはハリメニア抽出液を加えた区でした。35日間の重さの増加は平均約155グラムで、対照区の約22グラムを大きく上回り、1日あたりの成長率も約4.0%と、対照区の約1.0%より高い値でした。この区ではクロロフィル量、総アミノ酸量(乾燥重量1グラムあたり約50ミリグラム、対照区は約24ミリグラム)、たんぱく質の割合(乾燥重量の約11.4%、対照区は約8.1%)も最も高く、食味評価でも総合的な好ましさが最も高い評価を受けました。著者らは、どれか一つのホルモンの量だけで効果が決まるのではなく、複数のホルモンの組み合わせが関わっている可能性を考察しています。
これに対し、サルガッスムとグラシラリアの抽出液を加えた区では、フェノール類やカロテノイド、多価不飽和脂肪酸が多く、抗酸化能も高い傾向がみられました。抗酸化能は、ラジカルと呼ばれる反応性の高い物質を半分消すのに必要な濃度で比べており、この値が小さいほど作用が強いことを意味します。2種類の測定法のいずれでも、この2つの区が最も小さい値を示しました。著者らは、ハリメニア抽出液が成長に関わる基本的な代謝と、サルガッスムとグラシラリアの抽出液が抗酸化に関わる成分と、それぞれ強く結びついていたとまとめています。
ミネラルでは、カリウムやマグネシウム、鉄、亜鉛などが、抽出液を加えた区で全体に多くなりました。ナトリウムとカリウムの比は、対照区の3.72に対しハリメニア抽出液の区では1.12でした。著者らは、この結果をナトリウムの少ない海ぶどうの生産につながる可能性として示しています。
この研究が示すこと
この研究は、海藻の抽出液を海ぶどうの栽培に加えると、使う海藻の種類によって成長や栄養、抗酸化能、食味に異なる変化が現れることを、管理された条件での35日間の水槽実験で示しました。著者ら自身も、この結果を管理された養殖環境における海藻の抽出液による成長促進の可能性を示す基礎的な知見と位置づけており、目的に応じて抽出液の種類を選ぶという考え方の手がかりを示したといえます。
原著論文の著者・所属:Seto Windarto(Department of Aquaculture, Faculty of Fisheries and Marine Science, Universitas Diponegoro, Semarang, 50275, Indonesia)、Meng-Chou Lee(Department of Aquaculture, National Taiwan Ocean University, Keelung City, 20224, Taiwan)、Zhong-Gu Zhou(Department of Biological Science and Technology, National Pingtung University of Science and Technology, Pingtung, 91201, Taiwan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Seto Windarto, Meng-Chou Lee, Zhong-Gu Zhou. Seaweed-derived biostimulants differentially enhance growth, nutritional composition, antioxidant capacity, and sensory quality of cultivated Caulerpa racemosa. Scientific Reports 2026-10-24. DOI: 10.1038/s41598-026-78014-2. 原著ライセンス:CC BY.